企業ICT導入事例
-九州オルガン針株式会社-IoT、AIの活用で工程を“見える化”、省力化で生まれた人的リソースを活かし、さらなる成長を目指す
ベテラン職人によるカンやコツなど、モノづくりの現場には“見える化”されていない「職人の技術」が多数存在します。九州オルガン針株式会社は、IoTやAIで属人性のあるカンやコツを“見える化”するとともに、省力化、効率化を実現し、新たな分野へも積極的にチャレンジしています。
【導入の狙い】経験から生まれたカンやコツを“見える化”し、効率化を図るとともに、社内で技術を確実に継承する。
【導入の効果】生産現場管理の大幅な省力化を達成。今後は検品現場へのAI導入で統一感ある品質管理を目指す。
1日あたり約60万本の工業用ミシン針を生産、グループシェアは世界トップ
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▲取締役 管理本部長 江藤 怜氏
九州オルガン針株式会社は、長野県上田市に本社を置くオルガン針株式会社の製造拠点として縫製業者が使う工業用ミシン針と精密部品を製造しています。
「弊社は、来年が設立50周年という長い歴史を持つ会社です。弊社を含むグループ全体で、工業用ミシン針の世界シェアで約3割を占めています。工業用ミシン針はニット、デニムなど生地の種類や『ミシン目を目立たせたくない』などの目的に合わせて作られるため2,000種類にものぼり、1日あたり約60万本を生産しています。またミシン針作りで培った経験を活かし、医療向け、工業向けの精密部品も手がけています」(江藤氏)
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▲取締役 生産本部長 早野 守氏
「弊社はミシン針を作る機械そのものも内製化しており、そうした機械作りのノウハウも、弊社の強みとなっています」(早野氏)
同社は機械内製のメリットを活かし、早い時期から合理化に取り組んできました。
「ミシン針は、原材料となる線材をカットし、熱処理と冷間鍛造※による成型などを経て製品となります。熱処理で発生する“曲がり”を矯正する工程は、かつて手作業でしたが、当社創業当時の約半世紀以上前から、本社で開発した自動曲がり矯正機を導入しております。当初は回転する針を接触式センサーで測定する方式でしたが、その後改良を重ね、現在はより精度の高いレーザーセンサーを使用しています」(江藤氏)
内製の機械を改良、異常発生の警報をIoTにより一元管理し、合理化を実現
このような機械による合理化にも課題はありました。
「矯正機での測定、矯正には一定の時間がかかります。ここがボトルネックとなり生産速度の足を引っ張らないようにするため、広い工場内に多数の矯正機を並べ、同時に処理する必要がありました。現在その台数は約100台で、これだけの台数になれば部品の劣化や不具合などで調子の悪くなる機械も出てきます。その確認のため、かつては5~6人の職人が現場に張りつき、機械ごとに備えつけられた異常を知らせるランプが点灯すると確認し、調整、修理する業務にあたっていたのです」(早野氏)
この状況は2018年、改善に向け大きく前進します。
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▲生産本部 生産技術部 生産技術課
課長代理 菰田 賢人氏「前年、ICT関連のセミナーに参加した社長が『IoTによる一元管理』を決断し、その導入に踏み切りました。まずそれぞれの機械に複数のセンサーとタッチパネル対応の液晶ディスプレイを取りつけ、稼働状況を“見える化”しました。そしてそのセンサーの情報を工場内に設置したパソコンに転送し、画面上で一覧表示できるようにしたのです。内製の機械で構造が分かっているため、そうした改良は容易でした」(菰田氏)
「この仕組みを導入したことで、現場で機械を常時監視する人員は1名で済むようになりました」(早野氏)
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▲工場に並ぶ針の矯正機
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▲IoT集中監視モニター
過去の取り組みにおける“資産”を再利用、AIによる自動検品の実現を目指す
このIoT導入はさらなる発展も見越しています。
「今はセンサーが拾うデータを稼働状況の監視に使っているだけですが、将来は蓄積したデータを活用し、機械ごとの個体差の縮小や保守のさらなる合理化を進めていきたいと思っています」(江藤氏)
その一方で、AIにより最終検品作業を自動化するプロジェクトも動き出しました。
「弊社は従来から最終検品として人の目による全数検査を行っています。実は2002年、この工程の合理化を検討し、カメラを使った検品にチャレンジしました。30万画素のモノクロ撮影ができるカメラを8台設置し、回転する針のシルエットを360度全方向から撮影できる装置を開発し、歪みや曲がりは不良と判定し自動的に弾く仕組みでした」(江藤氏)
「ところが、シルエットだけでは精緻な判定ができなかったことに加え、処理速度も遅く、さらに人の目を介さなければならないので満足のいく結果が得られませんでした」(早野氏)
しかし技術革新が、このチャレンジにもう一度息を吹き込みます。
「同じ装置に新たに500万画素のカメラを装着し、撮影した画像をAIが判断し、判定する仕組みに取り組んでいます。今度のカメラは表面の仕上がり具合までカラーで撮影できます。現在、針の種類ごとに『良品』と判断できるサンプル画像をA Iが学習している段階で、2019年の夏以降に実際の試験を予定しています」(菰田氏)
「針は曲面のため、撮影時に反射する部分も出てきます。それをきちんと撮影できるかどうかが、導入にあたっての課題でした。しかし以前のチャレンジでカメラの装着などを試行錯誤した結果が活かされました。今は試験の開始が待ち遠しいです」(江藤氏)
合理化、効率化で得られた人的リソースの余裕を成長分野に投入
これら同社の一連の取り組みの背景には、未来に向けた展望があります。
「弊社は創業時に入社した社員が定年を迎える時期になっています。今後もベテラン社員の退職は続き、技術継承が課題になっています。こうしたIoTやAIの導入で、これまでベテランのカンやコツに頼っていたノウハウを数値化、可視化することが、人に頼らない高品質なモノづくりの強固な礎になると思っています」(江藤氏)
「IoT、AIの活用は、人によるバラつきを防ぐこともできます。例えば製品の品質についても、お客さまが望む範囲のものをきちんと納品することが可能となり、低品質製品の混入はもちろん、過剰品質によるコスト高も抑えることができるはずです」(菰田氏)
「生産、検品の省力化で生まれた人的リソースを、これからの成長分野である精密部品部門に振り分け、さらなる成長を目指していきたいと思っています」(早野氏)
※ 冷間鍛造:常温(室温)下で金型工具を用いて、金属材料に外的な力を与えて加工(圧縮成形)すること。

会社名 | 九州オルガン針株式会社 |
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設立 | 1970年(昭和45年)6月1日 |
本社所在地 | 熊本県玉名郡玉東町稲佐288 |
代表取締役社長 | 髙沢 昌則 |
資本金 | 1億3500万円 |
事業内容 | ミシン針製造・精密部品製造販売 |
URL | https://www.kyushu-organ.co.jp/ |
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