企業ICT導入事例

-イーグルバス株式会社-
勘と経験に頼った経営からデータを基にした見える化で赤字の路線バスを復活

  • 高齢化や少子化が進む中、人々の生活を支えてきた路線バスの事業縮小や撤退が全国で相次いでいます。こうした状況を逆転させる取り組みが埼玉県川越市の中堅バス会社で行われています。事業改善の鍵となったのは、データ収集とその効果的な活用でした。

地域の社会インフラとも言える路線バス

通学や通勤のための“足”というだけでなく、高齢者の通院や買い物、さらには地元を訪れる観光客の“足”としても、地域に不可欠な存在である路線バス。しかし、その利用者は1960年代後半の100億人台をピークに、2013年度には42億人台と約6割も減少しています。当然、事業者の経営は厳しく、公営および民営を合わせて全国に約1,800(2013年度)ある路線バス事業者の7割、大都市圏を除けば実に9割が赤字とも言われています。

その結果、利用者の少ない不採算路線での便数削減や路線短縮、路線そのものの廃止などが全国各地で発生。こうした流れが地域の人口流出や活力低下にさらに拍車をかけるという悪循環の要因の一つにもなっています。

大手の撤退を受けて路線バス事業に参入

▲代表取締役社長・谷島 賢氏

ところが、厳しい事業環境を物ともせず、赤字路線の経営改善に成功したバス会社が埼玉県川越市にあります。その秘密を知りたいと、同業者や補助金で路線バスを支援している自治体の担当者などが、全国から視察に訪れるバス会社、それがイーグルバス株式会社です。

同社は1980年に福祉送迎バスの運行から事業をスタートした年商約10億円、保有バス数111台(2014年度)という中堅のバス会社。1989年には観光バス、2005年からは高速バスと順調に事業を拡大し、2006年に一般の路線バス事業に参入します。きっかけは大手バス会社の撤退によって路線廃止の危機に瀕していた川越の隣町、日高市からの運行依頼でした。

谷島氏はこう振り返ります。

「路線バスは地域社会全体を支える公共交通機関。経営理念の一つである地域貢献の趣旨からも、私たちが何とか肩代わりしなければと依頼を受けることにしたのです。しかしいざ始めてみると、従来手がけてきた送迎バスや観光バスと、路線バスはまったく違う事業だということを思い知らされました」(谷島氏)

観光バスなどは予約が入った時だけ運行すればよく、料金も事前に決まります。これに対し、路線バスは年間365日、朝から晩まで稼働率100%。予備車両も用意する必要があるため、観光バス事業の数倍のコストがかかります。その一方、利用者数は予測できず、売り上げも正確には分かりません。同社では運行開始後に沿線住民への全戸アンケートを実施し、これに基づいて翌2007年には運行ダイヤを全面改正します。しかし、結果は2年連続の赤字でした。

データを基にした“見える化”に挑戦

▲バスにつけたセンサーとGPSによるデータ収集で、利用者の多い区間と少ない区間の“見える化”を実現。効率的なバスの運行に役立てています

ダイヤ改正の目玉は、全戸アンケートの意見を反映して駅でのバスから鉄道への乗換時間に余裕を持たせたこと。しかし、忙しい通勤や通学のお客さまからは不評で、良かれと思った改正で逆に利用者は減少しました。

「この大失敗を契機に、赤字の原因をきちんと突き詰めるには、データに基づいて事業を“見える化”する必要があるという考えに至りました。それまでは勘と経験が物を言うというのが業界の常識で、データを取るという発想自体がなかったのです」(谷島氏)

さっそく路線バスにセンサーとGPSを取りつけ、各停留所での乗降客数、各停留所の通過時刻といった多様なデータをきめ細かく収集する試みを開始。利用者アンケートの内容も改善し、ニーズを正確に測るよう工夫しました。こうして蓄積したデータからバスの運行状況を“見える化”してみると、さまざまなことが具体的に分かってきました。利用者の多い停留所、利用者がまったくいない区間、利用率の低い時間帯などなど。

「“見える化”したことで、改善すべきポイントが明確に把握できるようになり、解決に向けた具体的なアイディアを検討することが可能になったのです。また、改善ポイントをパーフェクトに解消しようとすると、コストが膨らんでしまいます。これを抑えるため、改善ポイントの優先度を順位づけできたことも“見える化”の大きな効果でした」(谷島氏)

例えば、バス停の変更。バス停変更は地域経済にも影響を与えるため、バス業界では手をつけにくい分野です。しかし、同社では精緻なデータやニーズ分析を行いこれを断行。結果的には、利用者数は増え、満足度も向上しました。

データは活用してこそ価値がある

▲ICTの成長とともに同社の観光バス事業も順調に推移

データを基にした“見える化”により、路線バス事業の経営改善に成功した同社ですが、データを収集し単純に分析するだけでは事業改善にはつながらない、と谷島氏は注意を促します。

「“表面的なデータの恐ろしさ”と私は呼んでいるのですが、昨年と今年のデータを比較して変化がなかったから問題なしというわけではありません。マイナス要因とプラス要因が合わさった結果、表面的には変化がないように見えているのかもしれないのです。データの裏に隠れている要因を見抜くこと、さらにはプラス要因であれば伸ばし、マイナス要因であれば改善するための具体的なアイディアを真剣に考えること。これが最も重要であり、データ収集はあくまでも事業改善に至るプロセスの一つなのです」(谷島氏)

とはいえ、事業改善に向けた最初の一歩となるデータ収集。その外せないポイントは「シンプル、多様、継続」の三つだと谷島氏は指摘します。

「容易に収集でき、コストも抑えられるようにシンプルな数値を集めること。後であのデータがあれば良かったと後悔しないように、できるだけ幅広くデータを集めること。そして、比較できるように継続的に収集すること。これらを意識しておけば、集めたデータの利用価値はぐっと上がります」(谷島氏)

会社名 イーグルバス株式会社
創業 1980年(昭和55年)4月
所在地 埼玉県川越市中原町2-8-2
代表取締役社長 谷島 賢
資本金 5,000万円
事業内容 一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス、高速バス)、一般貸切旅客自動車運送事業(観光バス)、特定旅客自動車運送事業(送迎バス)
URL http://new-wing.co.jp/

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