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「マイナンバーカードの保険証利用」令和3年3月スタート

記事ID:D10007

狙いは「医療事務の効率化」と「より適切な医療の提供」、さらには「健康の増進」

─「マイナンバーカードの保険証利用」の概要について教えてください。

  • 厚生労働省
    保険局 医療介護連携政策課
    保険データ企画室 室長
    大竹 雄二氏

     マイナンバーカードは、内蔵するICチップに格納された電子証明書を使って、対面だけではなくオンラインでも「利用者が本人であること」を証明できるカードです。昨年からのコロナ禍で、より良い医療を実現するためには、医療機関だけではなく、世の中すべてを含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)、ICT利活用が必要だということが、広く認識されたと思います。
     現在は、保険証に代表されるように、医療のさまざまな部分でアナログの情報が利用されていたり、ICTの利活用も部分的であったり、利便性の追求に限界が出ていました。今回の保険証利用は、そうした“壁”を打ち破るためにも、マイナンバーカードを、顔認証または暗証番号により本人であることを認証した上で、保険証として使えるようにするものです(図1参照)。

─どのような狙いがあるのでしょうか。

 大きく分けて二つあります。まず一つは医療機関や薬局の事務の効率化です。これまでの保険証では、医療機関などの受付で利用者の情報をシステムに手で入力するなどの手間がかかっていたほか、転職した方が古い保険証を持参した場合でも、その保険証が有効かどうかを確認することが困難であり、医療費の請求のために必要となる情報の訂正に時間と労力がかかるとともに、医療費の未収にもつながっていました。マイナンバーカードの保険証利用では、今回導入する「オンライン資格確認」により、最新の保険資格情報を自動的に取り込むことができるようになります。そのためこうした入力の手間や資格訂正の手間をなくし、事務の大幅な効率化が図れます。
 もう一つはより良い医療の提供です。利用者は電子化された医療情報を『マイナポータル※』という自分専用のサイトで一括確認できるほか、患者の方の同意を得たうえで、医療機関などでもそれまでの診療で処方された薬剤の情報、特定健診情報を閲覧できる仕組みも用意されています。いままでは、例えば初めて診察する患者さんの場合には、その方の健康情報などを正確に把握しているわけではありませんでした。しかしマイナンバーカードを保険証として利用し、過去の医療情報を確認することで、例えば医師や薬剤師が、「この患者さんは腎機能が弱っている」といった情報を基に、薬を処方することや服薬指導をすることが可能となります。
 また、今回開始する「オンライン資格確認システム」を導入している医療機関であれば、全国で利用者のこれまでの医療情報が確認できるため、災害時や旅行先などで普段かかりつけでない医療機関を受診した時も、正確な情報の裏づけにより適正な医療を受けることが期待できるのです(図2参照)。

確定申告の手間も削減、高額療養費の「手続き忘れ」も防止

─利用者側のメリットには、どんなものがあるでしょう。

 いま申し上げたより良い医療の提供のほか、医療機関の負担軽減は、将来的には医療コストの削減、つまり利用者が負担する医療費の軽減にもつながります。
 また、これまでは医療機関からもらう領収書を確定申告での還付申告に使っていましたが、今後は各保険者から提供される医療費通知情報が電子化され、これを確定申告に用いることができます。そのことで、領収書を保管する手間、申告にあたり領収書を探し整理する手間もなくなります。
 そして高額療養費の制度もより使いやすくなります。高額療養費は医療費が高額になった場合、患者さんの負担を一定額に抑えるという日本の医療保険制度が持つすぐれた仕組みですが、負担上限額は患者さんの所得により異なるので、医療機関では判断できません。
 そのため、医療費の自己負担分を全額いったんお支払いいただき、あとで加入している医療保険に払い戻しの手続きをしてもらうか、患者さんに加入している医療保険に申請をして『限度額認定証』という書類を発行して持ってきてもらう必要がありました。そのため急病などでその書類を用意する余裕がない場合、全額を支払う必要が生じたり、制度そのものを知らなくて払い戻しの手続きをせず、結果として過大な負担となってしまうケースもありました。オンライン資格確認を導入している医療機関では、負担の上限額をシステム上で確認できるため、書類の用意も不要になります。

─個人の医療情報について、セキュリティやプライバシーの保護は大丈夫なのでしょうか。

 今回導入する顔認証の仕組みは、かなり精度が高いものであり、4ケタの暗証番号を使うことも可能です。そしてマイナンバーカードのICチップに、特定健診結果や薬剤情報が記録されるわけではないので、直接情報が洩れることはありません。キャッシュカードのように持ち歩いても大丈夫です。また、医療機関や薬局が個人の医療情報を閲覧する場合は、同意を得た上で本人のマイナンバーカードを使って行います。

マイナポータルやコンビニのATMなどで、簡単申込み

─これまでの健康保険証は使えなくなるのでしょうか。

 今回の制度は保険証がマイナンバーカードに切り替わるものではなく、マイナンバーカードに保険証の機能を追加するものですので、従来の健康保険証も引き続き使えます。
 しかしマイナンバーカードを使うことで先に述べた医療情報の閲覧ができるなどのメリットがあります。ぜひお申込み、ご利用いただきたいと思っています。

─利用にあたっては、どのような手続きが必要なのでしょうか。

 まず自治体に申請しマイナンバーカードの交付を受けてください。保険証として利用するためには、生涯で1度だけ、申込をしていただく必要があります。医療機関などの窓口にある顔認証付きカードリーダーで簡単にお申込みの手続きが可能ですが、体調が悪い時に窓口で手続きのためにお待たせすることがないよう、事前にスマートフォンやパソコンからマイナポータルにアクセスして申込みをしておくことをお願いしています。

─そうしたスマートフォンやパソコンを使いこなせない方はどうすればよいのでしょう。

 多くの市区町村役場にはマイナポータルにアクセスできる端末が設置されており、そこで申込むことができます。また、セブン銀行のATMや一部のチェーン薬局でも申込めるようにする予定です。

将来的にはより多くの情報を活用できるようになり、より便利に進化

─今後、追加される機能はありますか。

 年内に医療費通知情報との連携がスタートするほか、令和4年の夏をめどとして、どんな手術を受けたことがあるのか、透析を受けているのかといった情報を含める予定です。また、投薬情報をリアルタイムで把握できるようにする「電子処方箋」という仕組みも導入予定です。現在の投薬情報はデータの繁栄まで1月程度のタイムラグがありますが、「電子処方箋」ならどのような薬が処方されているのかをリアルタイムで確認できるようになります。

─この仕組みの普及について、どのような計画を考えていらっしゃいますか。

 目標として、令和5年3月にはほぼすべての医療機関や薬局での利用を可能とすることを掲げています。顔認証付きカードリーダーは、使っていただくと、非常に簡単に手続きができる仕組みです。ぜひ多くの方にご利用いただき、その便利さを体験していただければと思っています。便利だと感じていただければ、多くの医療機関や薬局に広がっていくのではないかと考えていますので、まずは円滑に導入されるよう、多くの方にご協力いただきたいと思っています。

※ マイナポータル:政府が運営するオンラインサービス。子育てや介護をはじめとする行政手続がワンストップででき、行政機関からのお知らせも確認できる。(図3参照)

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