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-デジタル庁- 一人残らずわくわくする社会を創りたい記事ID:D10017
2022年は、ポストコロナ社会への変革が本格的にスタートする年と言われています。その実現に向け、大きな期待を背負って昨年9月にデジタル庁が発足しました。1月号では今後を展望すべく、これからデジタル庁がどのような役割を担うのか、また、デジタル化により私たちの生活がどう変わっていくのか、デジタル庁のデジタル統括官・村上 敬亮氏に話をうかがいました。
デジタル庁の役割とは、ITを使って社会の仕組みを変えること
2021年9月に「デジタル庁」が発足しました。その背景には、日本の省庁や自治体が個別に構築したシステムではデータが上手く連携できず、使い勝手が悪いITサービスとなってしまったことがあります。当然ながら、使い勝手が悪いサービスでは利用が進まないため、デジタル先進国と比べて日本は大きく後れを取りました。OECD(経済協力開発機構)※1の2018年調査によると、国の行政手続きをオンラインで行ったことがあると答えた人の割合は7.3%で、回答した30ヵ国で最下位でした。この課題は以前から指摘されていましたが、新型コロナウイルス感染拡大で緊急の対策が求められた際、国と自治体のシステムのフォーマットが合わないことなどから、給付金や助成金の手続きが遅れる、新型コロナウイルスワクチン接種が進まないなどの事態が浮き彫りになりました。デジタル庁には、これらの課題を解消し、デジタル社会を推進する役割が期待されています。
課題は新型コロナウイルス対応だけではありません。日本でデジタル化の推進が急務なのは、1人当たりGDP※2が大きく落ち込んでいることが物語っていると、村上氏は指摘します。
デジタル庁 デジタル統括官
村上 敬亮氏
「2000年時点で世界2位だった人口1人当たりのGDPは、その後の成長が小さく、2020年にはOECD加盟国中20位にまで落ちています(図1参照)。平均年収も3万8,515ドル(約424万円)で先進7ヵ国の6位です(OECD[2021],Average wages)。このように日本人の年収が伸び悩んでいる最大の要因は、生産性の低さにあります。生産性が低い限り、どれだけ売上が上がっても年収は増えません。そのため、ITを効果的に活用して生産性を高める必要があります。そこで、デジタル庁は『ITを効果的に活用できるような仕組み、環境を整備する』役目を負っていると考えています」(村上氏)
デジタル化が進むと、私たちの生活がどう変わるのか
デジタル庁では、新しい社会を「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」と定義しています。また、それを実現するためのミッションとして「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を提唱しています。この「一人ひとりのニーズに合ったサービスを選べる社会」とはどのような社会でしょうか。
従来、日本は国や自治体だけでなく、病院や学校、企業でもそれぞれ独自のシステムを持ち、データの持ち方もバラバラだったため、せっかく蓄積したデータを有効に活用できていませんでした。そのため、この縦割りの社会、組織、仕組みを横断し、システムやデータでつながる新しい社会を作る必要があります。それでは、デジタルでつながることによって、私たちの生活がどのように変わるのでしょうか。村上氏は、例えば医療分野でも各医療施設が組織の枠を超えて連携すれば、かなり効率的な医療が展開されると語ります。
「昨今、病院のカルテは電子化されているものの、病院ごとにフォーマットが異なるため、データを上手く活用できていません。処方の種類は2,000程度に分類されるはずですが、A病院、B病院、C病院それぞれが異なる名称、異なるコードで管理しているため、3病院のカルテを集約するとIDが6,000個できてしまった、というのが現状です。もし、この名称やコード番号を統一化すれば、将来の処方改善につながるビッグデータができ、新薬の開発などにも役立てることができるでしょう」(村上氏)
診療データが連携されると医療の可能性が大幅に拡大
医療系データの管理方法が統一され、本人の同意のもとに情報が各施設・組織に共有されると、医療(介護や健康サービス)の可能性がますます広がります(図2参照)。村上氏は「最近はスマートウォッチなどで、心拍数などを取得できますが、将来的に個人が計測したデータを病院の診療に使えるようになるといろいろな可能性が出てきます。例えば慢性疾患であれば、日々のバイタル(心拍数・呼吸数・血圧・体温)を確認するだけでも十分役に立つので、こうしたデータを医療の現場でも使えると、医師の診断により役立ち、患者の治療に関する選択の幅も広がるのではないでしょうか。
また、診療データが連携されると、病院に行かなくても診療を受けられるようなサービスが考えられます。例えば現在、地方では近くに病院がないため人工透析を受けるために長距離移動を強いられている方々がいらっしゃいます。しかし、もし過去の疾患、診療データが連携されれば、人工透析機を乗せた車などが患者宅へ行き、自宅で治療が受けられるというサービスが実現される可能性があります。このように、医療分野に限らずどんな領域においてもデータが連携される仕組みができれば、国民一人ひとりが自分に合ったサービスを選べるような社会の実現につながるかもしれません」と語っています。
デジタル化が進むと、企業活動はどう変わるのか
それでは、デジタル化が進み、行政と企業、企業と企業の間でデータが連携されるようになると、どのような変化が生まれるのでしょうか。
「スマートシティ、スマートカーなど、最近『スマート』という言葉をよく使いますが、モノのスマート化の本質は、人の判断より先にモノが動くことです。例えば、物流業界では、ベンダーマネージドインベントリー(VMI)という考え方があります(図3参照)。本来は、顧客がベンダー(納入業者)に製品などを発注しますが、VMIでは納入業者側で顧客の生産状況や売れ行きを把握して在庫を補充していきます。仮に、ニューヨークのデパートでセーターが欠品したら、顧客の指示を待たずに、中国の工場で増産が始まるといったような仕組みです。これは、ベンダーと顧客がICTで連携、情報を共有することで効率の良い在庫管理を実現した例ですが、このように各企業や組織が横断的にデータで連携するようになると、さまざまなビジネスシーンにおいて生産性を高められる仕組みが作られていくと思われます」(村上氏)
マイナンバーカードの普及など変わる行政手続き
現在、マイナンバーカードの普及促進をはじめ、行政手続きのオンライン化や自治体で使用するシステムの標準化などが進められています。例えば、政府が運営するマイナポータルには、子育てなどに関する申請や届出がオンラインでできる「手続の検索・電子申請(ぴったりサービス)」(下部【解説】マイナポータルとは?参照)がありますが、従来、各自治体がこのサービスを利用者に提供するためには、自治体で接続環境を用意する必要がありました。しかし、2021年5月から国が無料で接続できる仕組みを整えましたので、予算の少ない小さな自治体でも住民に便利なサービスを提供することができるようになりました。
ほかにも、企業や個人事業主が主導して使いやすいシステムが生まれる施策として、「マイナポータルのAP(I Application ProgrammingInterface)提供・連携」もあります。API連携とは、アプリケーションなどの機能の一部を外部の事業者が利用できるようにすることで、複数のシステムで連携してサービスの提供ができるようにする仕組みです。マイナポータルのAPIを民間企業やほかの行政機関が使うことで、例えば、日本郵便が提供するインターネット上のポスト「MyPost」に届いたレターがマイナポータルの新着一覧に表示されたり、e-Tax(国税電子申告・納税システム)や「ねんきんネット」のサイトにマイナポータルからログインできるようになっています(図4参照)。
デジタル社会が進んだ先の課題とは
デジタル化によって私たちの生活は便利になりそうですが、利便性の裏には課題がつきものです。まず挙げられるのがセキュリティ面の課題だと思います。これに関しては、政府全体でセキュリティ強化対策を図っていく方針とのことです。また、先ほどふれたように人の判断より先にモノが動くと、人の意思が介入しないがゆえに責任の所在が特定できない、といった過失が発生することもその一つでしょう。
「仮に、人が運転するのではなく自動走行車両が事故を起こした時、それは車両の故障なのか、社会ルールの欠陥なのかなど、責任の所在を明らかにするのが難しいケースがあります。デジタルが広まれば広まるほど、このような責任の所在が特定できないトラブルが増えていくと思います。しかし、そういったトラブルを避けることは極めて困難であるため、損害にあった人を救済する仕組みが必要です。そのためには強制保険や供託金などの法制度を整備する必要があります。これらのデジタル時代の法整備は、私たち省庁が率先して進めなければならないことだと思っています」(村上氏)
デジタル化が進んだ未来の社会とは
デジタル庁では「オンライン化されていない行政手続の大部分を、5年以内にできるものから速やかにオンライン化し、オンライン化済みのものは利用率を大胆に引き上げる」と宣言しています。これが実現すると、未来の社会はどうなっていくのでしょうか。
「未来を見据えるという意味では、『一人残らずわくわくする社会』を創りたいですね。よく、『デジタル化によって何ができるの?』『デジタル庁はどうするつもりなの?』と聞かれますが、私たちは、まず皆さんが何をしたいのかを知りたいです。おそらく皆さんも自分たちの暮らしがどうなりたいか、どうあるべきかを政府に決めてほしいとは思っていないでしょう。未来の姿を考えるのは、皆さんの役割でもあるのです。
もし、デジタル化が進んだ未来が漠然としているのであれば、私たちと一緒に未来を考えてください。今の日本には、好奇心と創造力がもっと必要だと思います。どんなに些細なこと、くだらないと思うようなことでもいいので、『ITを使ってこれをやってみたらおもしろそう』を国民全体で考えることが大事だと思っています。それを実現するための仕組み、システム、データ連携、ルール化など基盤を整備するのはデジタル庁など省庁の役割です。皆さんと私たちが相互に連携して未来を創造することで、一人残らずわくわくする社会をぜひ実現させたいです」(村上氏)
【解説】マイナポータルとは?
マイナポータルは、政府が運営するオンラインサービスで、自治体や保険者に照会して自分の医療保険の薬の情報や所得税・住民税の所得情報を取得することができます。また、子育てや介護などの手続きの検索やオンライン申請、行政からの連絡確認をワンストップで行うこともできます。中でも「手続の検索・電子申請(ぴったりサービス)」では、知りたい制度や手続きを検索したり、児童手当などの申請手続きを好きな時にパソコンやスマートフォンからできます。マイナポータルは、マイナンバーカードと電子証明書パスワードでログインすると、さまざまなサービスを利用できますが、一部のサービス(「手続の検索・電子申請」の手続検索や申請書のオンライン入力など)はマイナンバーカードがなくても利用可能です。
※1 OECD(経済協力開発機構):"Organisation for Economic Co-operation and Development"の略称で、国際経済全般について協議することを目的とした国際機関のこと。
※2 GDP(国内総生産):国内にいて一定期間(通常一年間)に生産された財貨・サービスの付加価値額の総計。国内の経済活動の水準を表す指標となる。
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