ICTコラム

アフターコロナを見据えた人材育成の今後

記事ID:D40045

新型コロナウイルス感染症の流行による経営環境の変化に伴い、業務推進や人材育成においてICTの活用が促進されている中、働く人が新たなスキルを学び仕事に活かしていくことが求められています。連載最終回となる今回は、ICT活用やICTリテラシー向上の観点を交え、最近よく聞く「リスキリング」を中心に人材育成の今後について解説します。

リスキリングとは何か

 最近「リスキリング」という言葉をよく聞きます。リスキリングは直訳すると「再教育」という意味ですが、昨今言われているリスキリングとは、今の仕事で必要となるスキルの変化に対応するため、または新しい仕事につくためにスキルを身につけること、経営者の立場であれば従業員にスキルを身につけてもらうことを言います。
 リスキリングについて具体的に何をするかは、2022年5月に経済産業省から発表された「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」にて、リスキル・学び直しのための取り組みとして、次の五つが例示されています。
 (1)組織として不足しているスキル・専門性の特定
 (2)社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播
 (3)リスキルと処遇や報酬の連動
 (4)社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学など)
 (5)社内起業・出向起業などの支援
 また、人材版伊藤レポート2.0では、上記(1)のための工夫の一つに、自社の競争力向上につながるスキル・専門性の幅広い分析を挙げています。その一例として、「社会からの要請の変化や技術の進展と、それに対応する自社の経営戦略を踏まえ、デジタルやグリーンなど、自社に取り込むべきスキル・専門性を具体化する」(同レポートより引用)との説明があります。日本ではリスキリングをICTスキルの習得を中心に語るケースが多いのですが、欧州では持続可能な社会の実現に必要なスキルを身につけるグリーン・リスキリングの取り組みが盛んです。
 ウィズ&アフターコロナの時代において、日本では事業や働き方の変化に伴いICT活用が一層求められることは確かです。そこで本コラムでもICTスキルの習得を中心にリスキリングについて解説していきます。以下、特記しない限りリスキリングはICTスキルのリスキリングを指します。

企業におけるリスキリングの考え方

 産業界のDXが進む現在、「これからの時代はICTが必須だから従業員にもICTを学んでもらおう」と考える経営者は少なくありません。しかし、それだけではICTを学ぶことが目的化してしまいます。
 リスキリング実施の第一歩は、自社の方向性を踏まえて、従業員のどんなスキルを伸ばすかを考えることです。自社ビジネスの方向性とリスキリングを関連づけ、ICT知識の習得であれば、どの事業でどのようにICTを活かすのかを、人事部門だけでなく事業部門も巻き込んで考えていく必要があります。
 さらに、個人のキャリアとリスキリングを関連づけることも必要です。自社や事業の方向性と、個人のキャリア志向、さらに身につけるスキルを重ね合わせて考えます。つまりリスキリングといっても、基本的な考え方はこれまでの人材育成と同様、外部環境の変化を踏まえ、経営戦略や事業戦略を定め、それらに従い人事戦略・人材戦略を考えるということなのです(図1参照)。

リスキリングを事業変革・業務改革に活かす

 一方で「リスキリングでICTスキルを身につけると、従業員が転職してしまうのではないか」という心配があるかもしれません。せっかく従業員がリスキリングをしても、それを活かす場がなかったり、学んだことを活かし挑戦することを認められなかったりすると、社外に活路を求めてしまうのは自然なことでしょう。心配の原因は能力ある人材を活かしきれない企業側にあると言えます。そうならないためには、前述したように経営戦略とキャリアビジョン、リスキリングをつなげて考えることと、リスキリングによって企業に“プラスの効果”をもたらした人材には適切な処遇を行うという、「経営戦略+キャリアビジョン+処遇」の3点セットが有効です。
 リスキリングすることの“プラスの効果”の例としては、ICTを活用して生産性を向上させることや新規ビジネスを創造することなどが考えられます。さらに、ICT活用を積極的に進めるにあたっては、情報システム関連以外の従業員(情報システム部門がない企業や情報システム部門以外の従業員)もICTを学び、専門用語やシステムの考え方を理解していると、ICTベンダーなど専門家とのコミュニケーションが円滑になり、自社の現場に合ったシステム化が実現しやすくなります。そのためにはICTスキルに加えて、課題発見力・解決力やコミュニケーション力、プロジェクトマネジメント力なども高めておくとよいでしょう。従業員のリスキリングを事業変革・業務改革に活かすために必要なスキルを図2にまとめましたので、参照してください。

 ICTスキルの習得を中心としたリスキリングにより、事業変革や業務改革ができる人材を育てることが、今、求められています。中小企業では、一人の従業員の変化・成長によってもたらされるインパクトは大きいはずです。政府もリスキリングに対して5年間で1兆円投資する方針を打ち出しています。経済産業省や厚生労働省の補助金・助成金も活用し、リスキリングの第一歩を踏み出すことをおすすめします。

※RPA
Robotic Process Automationの略で、人間がパソコン上で行っている作業をロボットにより自動化することを指す。主に事務作業の自動化に役立ち、RPAの活用で生産性向上ができる。

有馬 祥子氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット HR第4部マネージャー。慶應義塾大学経済学部卒業後、ITベンダーによるSE経験を経て、2005年より株式会社UFJ総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)入社。企業内人材育成や階層別研修、組織開発、女性活躍などのプロジェクトに従事し、従業員がイキイキと働ける組織づくりを支援している。(一財)生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナーマスター。

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