ICTコラム

今こそ教育・研修を見直す時

記事ID:D40043

2020年春、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発出により、テレワークを導入する企業が増えたり、3密を避けたりなど、働く人々を取り巻く環境は大きく変わりました。企業内人材育成でも、対面の集合研修をオンライン研修に切り替えたり、e - l e a r n i n gを新たに取り入れたりする企業が増え、感染症流行が落ち着いた現在もその傾向は続いています。企業における人材育成や教育・研修は、その内容や方法が大きく変化しているのです。全3回連載の初回となる今回は、ウイズ&アフターコロナで求められる人材育成として教育・研修の見直しについて解説します。

人材育成に影響を与える「三つの変化」

 新型コロナウイルス感染症の流行以降、企業における人材育成は「外部環境の変化」「働き方の変化」「学習方法の多様化」という三つの変化(図1参照)から、大きな影響を受けました。中でもICTに関連した点を挙げると、産業界のDX推進によって企業の“外部環境”が、テレワークの普及によって“働き方”が、オンライン研修やe-learningによって“学習方法”が大きく変わり、企業の人材育成に影響を及ぼしています。現在、感染症流行は落ち着きを見せ、世の中はコロナ禍前の生活を取り戻しつつありますが、三つの変化は今後も続くことが想定されます。
 筆者は企業の経営者や人材育成担当者と話す機会が多いのですが、これらの変化を受け、自社の人材育成について改めて見直そうという動きがよく見られます。特に、教育体系と管理職育成の見直しを考えている企業が多いようです。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティングレポート「変革の時代を勝ち抜く!これからの教育体系のありかた」(有馬 祥子) より作成

求められる教育体系の見直し

 現在、国内外の政治・経済情勢などの外部環境はかつてない変化の真っただ中にあり、企業はその変化に対応していかなければなりません。この大きな変化の中では、今までと同じようなテーマや内容で人材育成を続けていくのは限界があります。外部環境の変化は経営戦略に影響を与え、それに伴い人事戦略も変化しますので、教育体系の見直しも必要になります。
 どのように教育体系を見直し、構築すればよいかについては、一般的なステップを図2にまとめているのでこちらを参照してください。

管理職育成の見直しも必須

 テレワークを活用する企業では、管理職が行うマネジメントが変化しつつあります。出社して仕事をする必要がなくなりましたが、その一方で管理職は部下の様子や仕事ぶりが見えづらくなりました。また、部下も職場の仲間と話す機会が減り、一人で悩みを抱えやすくなりがちになっています。こうした働く環境の変化により、管理職は今まで以上に部下の話をよく聴き、部下の状況や気持ちに対して理解・共感することが望まれています。
 管理職育成で力を入れるべきテーマの1点目は、コミュニケーションスキルの向上です。最近では上司と部下が1対1で対話する、いわゆる「1on1」を取り入れ、上司・部下のコミュニケーションを増やす企業もあります。これを上手く機能させるためには、管理職に対して今まで以上に傾聴力や質問力、コーチング、フィードバックなどのスキル向上を図る必要があります。またテレワーク下では、ZoomやMicrosoft Teamsなどのコミュニケーションツールを使って部下の話を聴く機会もあるため、柔らかい表情やリアクションを大きくといったオンライン会議のコツも押さえておきたいところです。
 2点目は、業務マネジメントスキルの変化です。マネジメントがしづらい環境になっているからこそ基本に立ち返り、管理職に、PMBOK※2のようなプロジェクトマネジメントの基本を改めて学んでもらうとよいでしょう。また、プロジェクト管理用のICTツールを使えば、進捗管理やタスク管理もしやすく、チーム内での情報共有にも役立つので、利用してみるのもおすすめです。

新たな学習方法を取り入れる

 教育体系や管理職教育を見直すにあたっては、教育の中身(何を)だけでなく、方法(どのように)も見直すとよいでしょう。企業における人材育成の方法にはOJT、OFF-JT、自己啓発の3つがありますが、新たな学習方法を取り入れることにより、OFF-JTと自己啓発を充実させることができます。
 OFF-JTの代表的な方法は集合研修です。集合研修はこれまでの対面研修・オンライン研修と、両者を組み合わせたハイブリッド研修があります。参加者を1ヵ所に集める対面研修は、拠点が分散していると参加者の移動時間や出張費用がかかるため、感染症の流行が落ち着きつつある今も対面に戻さず、オンライン研修を継続する企業も少なくありません。一方で、参加者間のネットワーク構築を重視したい場合は、対面研修を実施することに意味があります。
 社員の自己啓発にe-learningを活用していた企業もすでにあると思いますが、今はe-learningと一口に言っても、マイクロラーニングのような短時間で気軽に学べる動画学習や、コンテンツが豊富な定額制学習動画配信サービスなどのさまざまなサービスがビジネスパーソン向けに提供されています。
 また最近は集合研修とe-learningなど、さまざまな学習方法を組み合わせたブレンディッド・ラーニングにより、効率的・効果的にスキルアップを図ることもできます。例えば、集合研修とe-learningを組み合わせれば、e-learningを活用して集合研修の事前・事後学習(知識習得)を行い、集合研修ではグループディスカッションを中心に実施するといったことも可能です。さまざまな学習方法のメリットを組み合わせて、学習効果を高める工夫ができるとよいでしょう。
 企業にとって人は財産であり、どのような人材を育てるかは自社の将来を大きく左右します。外部環境が大きく変化する今、自社が何を大切にしてどの方向に向かっていくのか、そのビジョンを明確にした上で人事戦略を描き、それを実現する人材育成のあり方を考え直す時期に来ていると言えるでしょう。このプロセスをきちんと踏むことにより、そこで働く人たちが時代に合った力を発揮できるようになり、企業としても時代の変化を乗り越えることにつながるのです。

※1 VUCA
変化が激しく不確実性が高いため、将来を予測することが難しい時代のことを、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって「VUCA」と言う。
※2 PMBOK
Project Management Body of Knowledgeの略で、プロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立ててまとめた知識集。プロジェクトマネジメントの世界標準になっている。

有馬 祥子氏

三菱U FJリサーチ&コンサルティング株式会社コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット HR第4部 マネージャー。慶應義塾大学経済学部卒業後、I TベンダーによるS E経験を経て、2 0 0 5年より株式会社UFJ総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)入社。企業内人材育成や階層別研修、組織開発、女性活躍などのプロジェクトに従事し、従業員がイキイキと働ける組織づくりを支援している。(一財)生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナーマスター。

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