ICTコラム
フェムテックで進める女性の働き方改革記事ID:D40062
女性の健康課題をサポートし、働きやすい職場環境をつくるために、企業によるフェムテック導入が進んでいます。3回連載の2回目は、ICTを活用したフェムテック商品やサービスの具体例を中心に、企業が取り組むべき理由や導入事例を紹介します。
女性をサポートするフェムテックの多彩な商品やサービス
図:女性のライフステージと健康課題の例
女性のライフステージごとの健康課題には、月経、不妊、妊娠、出産・育児(産後ケア)、婦人科系疾患、セクシャル・ウェルネス※1、更年期など、さまざまな領域があります(図参照)。こうした領域ごとにジャンルやカテゴリを整理することで、企業が取り入れやすいフェムテックの商品やサービスが理解しやすくなります。
例えば、経済産業省はフェムテック企業と導入企業(女性を雇用する企業)、自治体、医療機関などが連携し、働く女性の健康の悩みなどを解消するため、地域の実情やニーズに応じた形で、フェムテックを活用したサポートサービスを届ける実証事業「フェムテック等サポートサービス実証事業」を行っています。同実証事業ではさまざまな領域の商品やサービスが採択されており、単に女性のQOL※2(クオリティ・オブ・ライフ)向上を目指すだけではなく、職場での生産性や業務効率を高めるサポートツールとしても評価されています。
フェムテックは、単なるツール提供だけではなく、女性が自分の体の声に耳を傾け、健康を守るために行動を起こす手段を提供します。
ICTを活用したフェムテック
ICTを活用した代表的なフェムテック商品・サービスの一つが、オンライン診療やチャット相談です。これらのサービスは、短時間で気軽に利用できることに加えて、地理的制約を受けにくく、プライバシーが保たれやすいというメリットがあります。特に全国展開する企業や地方に支店を持つ企業での導入が進んでおり、従業員の健康維持に大きく貢献しています。例えば、産婦人科の受診は半日がかりになることが多い中、オンライン診療の導入により、女性社員が通院にかける時間を大幅に短縮できます。
また、メンタルケアを目的としたチャットサービスや、メンタルケアにも寄与する1on1の相談ツールも、フェムテックの例として挙げられます。メンタルヘルスは健康経営の観点からも重視される分野であり、特に更年期やメンタル面の課題を抱える女性にとって、アプリやチャットでの相談などは、大きな支えとなります。
このほか、スマホアプリを活用した健康管理ツールも、フェムテックの重要なサービスの一つです。代表的なものは、生理周期管理・妊活サポート・更年期症状管理アプリなどです。これらのアプリは、女性が自身の健康状態を把握し、必要に応じたケアを積極的に行う意識を高めるのに役立っています。
最新のAI技術を活用したアプリでは、入力されたデータを分析し、個々のユーザーに合わせた健康アドバイスを提供する機能も備えています。例えば、生理に関する悩みをAIチャットボットで相談できたり、生理周期の傾向や分析をAIが行い、妊活タイミングも教えてくれるアプリが好評です。
女性が働きやすい環境づくりに役立つフェムテック
女性が安心して活躍できる職場環境づくりにおいても、フェムテックは重要な役割を果たしています。福利厚生として導入されるフェムテック商品やサービスは、健康管理や予防ケアにとどまらず、職場の働きやすさや生産性の向上にもつながります。
例えば、企業内の女性社員専用オンラインコミュニティも、ICTを活用したフェムテックサービスの一例です。このプラットフォームでは、同じ職場環境の中で共有しづらい悩みや実情を話し合える場が提供されています。「職場に生理休暇制度があっても実際には休みを取りづらい、言い出しにくい」といった声が共有されることで、企業側も社員が抱える課題を把握しやすくなり、改善のヒントを得るきっかけにもなります。このほか、IoT対応の生理用品ディスペンサー※3の設置により、急な体調変化にも対応できる環境を提供し、女性社員が安心して働ける職場づくりをサポートする企業もあります。このようなフェムテックの取り組みは、職場全体のウェルビーイング※4を向上させ、従業員がより快適に働ける環境づくりに役立つでしょう。
中小企業のフェムテック導入事例
フェムテックの導入は、大企業だけではありません。中小企業の中には、従業員の健康維持と働きやすい職場環境づくりに注力しているところもあります。
ICT関連の取り組みからは外れてしまいますが、例えば、福井県の平田不動産は、社員の生理痛や月経に対する理解を深め、より働きやすい環境を提供するための生理休暇制度や低用量ピル補助などの導入を行っています。この結果、社員のモチベーションが向上し、就職フェアでも注目を集めるなど、社内外での評価も高まったとのことです。
また、オフィス用品総合商社のオカモトヤでは、女性向け防災キットの導入を通じて、非常時にも女性社員が安心して過ごせる環境づくりに貢献しています。ナプキンやデリケートゾーン用シートを含んだ防災キットは、企業が取り入れやすい商品であり、災害時に女性特有のニーズに応える重要な施策として注目されています。
こうした中小企業の事例は、他社にとっても参考になる取り組みでもあり、職場全体の働きやすさと従業員の健康意識を高める有効な手段となるでしょう。
- ※1 セクシャル・ウェルネス
- セクシュアリティ(性)に対して身体的、感情的、 精神的、社会的にも健康な状態であること。
- ※2 QOL(Quality of Life)
- 「人生の質」、「生活の質」などと訳されることが多く、私たちが生きる上での満足度を表す指標の一つ。
- ※3 生理用品ディスペンサー
- 緊急時などに生理用ナプキンやタンポンを簡単に取り出せるように設置された機器や装置のこと。
- ※4 ウェルビーイング
- well(良い)とbeing(状態)からなる、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。
株式会社シルキースタイル代表取締役CEO、一般社団法人日本フェムテック協会代表理事。大手下着メーカーで企画・開発を担当後、世界初の下着コンシェルジュとして独立。女性の体と下着の専門家として、インナー、コスメ、健康雑貨の商品企画開発を17年間行い、女性特有の健康課題に寄り添う活動を推進。2021年、日本フェムテック協会を設立し、ウィメンズヘルスリテラシーの重要性を発信。2児の母。
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