ICTコラム

企業の生産性向上のために注目されるフェムテック

記事ID:D40061

女性のウェルビーイング※1を向上させ、企業全体の生産性向上にも寄与するフェムテックの導入が、多くの企業で進んでいます。3回連載の初回は、フェムテックの概要や市場規模、企業が取り組むべき理由について解説していきます。

フェムテックとは何か

 フェムテック(Femtech)とは、「Female:フィーメール(女性)」と「Technology:テクノロジー」をかけ合わせた言葉で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する商品やサービスを指します。月経や妊娠、産後ケア、更年期障害など、女性のライフステージに関わる健康問題を支えるために進化してきた分野です。
 私自身、18年間にわたり、女性の健康課題に寄り添った商品作りを行ってきましたが、当初は「フェムテック」という言葉は存在しませんでした。現在は、女性が健康と向き合うための商品の認知度が少しずつ高まり、フェムテックへの見方も変わりつつありますが、日本では女性が自分の健康に向き合う機会が少なく、深刻化してようやく行動に移すケースが多いと感じています。
 女性が一生懸命に働きたい一方で、自分の健康を後回しにする現実もあります。例えば、仕事に没頭して自分の体調を無視し、いざ妊娠しようと思った時に「できない」と気づくケースが多く見られます。早い段階で自身の健康リテラシーを高めていれば、防げる問題も多いはずです。
 フェムテックは、単なるツール提供だけではなく、女性が自分の体の声に耳を傾け、健康を守るために行動を起こす手段を提供します。
 さらに、日本フェムテック協会ではテクノロジーに依存しない「フェムケア」の重要性も強調しています。フェムケアとは日常的なセルフケアを指し、その延長線上にフェムテックがあります。
 つまり、女性が自分自身の健康をケアする土台があってこそ、フェムテックは効果を最大限に発揮できるのです。

フェムテックの市場規模や今後の成長予測

 フェムテック市場は、近年急速に拡大しています。経済産業省の資料「フェムテックの推進に向けた取組状況」によると、2025年には5.5兆円に達する見込みです。この背景には、全人口の半数を占める女性をターゲットとしている中で、女性の社会進出とともに女性特有の健康問題に対応する商品やサービスが多様化してきている点が挙げられます。その市場規模は日本国内でも拡大していて、矢野経済研究所の市場調査によると、2022年には約695億円、2023年(見込み)には約744億円という規模(図参照)となっています。

出典:株式会社矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査(2023年)」(2023年11月30日発表)
注:各アイテムは小売金額ベースで、各アプリ及びサービスはユーザー消費金額ベースで算出した。アプリ及びサービスの市場規模は、広告収入を含まない。

 さまざまな展示会でもフェムケア・フェムテック商品が注目され、大手企業もフェムケア商品を独立したコーナーで展開しています。例えば、妊活タイミングをチェックできるおりものシートなど、女性の健康に配慮した商品を続々と発表しているユニチャームや、妊娠・授乳中でも楽しめるカフェインレスコーヒーを販売するUCC上島珈琲などが、展示会でフェムケアコーナーを展開するなど盛り上がりを見せており、それらを背景に多くの企業が新しい製品開発に取り組んでいます。
 また、多くの企業が女性従業員のニーズに応えるために積極的にフェムテックを取り入れており、今後も市場は拡大していくでしょう。

企業がフェムテックに取り組むべき理由とメリット

 企業がフェムテックに取り組むべき理由は、働く女性の健康とウェルビーイングの向上にあります。女性の健康問題に取り組むことは、個人の幸福感だけでなく、企業の生産性向上にもつながります。
 特に、女性管理職や役員には健康に対するサポートが必要です。キャリアを積んでいく中で、更年期障害や生理痛などの影響を受けやすい時期に適切なサポートがないと、優秀な人材が辞職や休職を余儀なくされることがあります。これは、企業にとっても大きな損失です。
 女性が安心して働ける環境を整えることは、企業の競争力を高めます。特に、大企業では女性管理職が少なく、役員に至ってはさらに少ない現状があります。このような状況を打破し、女性がキャリアを継続できるような支援を提供することは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)※2推進の一環として重要です。
 外資系企業では、更年期前に女性をマネージャーに昇進させるなど、柔軟な対応が取られています。フェムテックの導入は、男女間の理解を深め、企業全体の風土改善につながるでしょう。

フェムテック導入のポイント

 企業がフェムテックを導入する際には、まずリテラシー研修を実施し、社員全体の理解を深めることが重要です。特に上場企業では、リテラシー研修が実施され、男女間の理解を深めています。
 例えば、ある通信系企業では、女性社員の健康を支援すると同時に、男性社員も女性特有の健康問題を学ぶことで、コミュニケーションが向上し、職場環境が改善されました。また、企業がフェムテックを成功させるためには、社員のニーズをしっかりヒアリングすることが必要です。ある人材サービス系企業では、社内リサーチの徹底、導入すべきサービスの適切な選定によって、企業全体のパフォーマンス向上が図られています。
 こうした取り組みは、働きやすい職場環境を作るだけでなく、企業の成長にも寄与するでしょう。

※1 ウェルビーイング
身体的にも精神的にも社会的にも健康な状態であること。
※2 ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
多様な人材がお互いを認め合い、 一体となって組織を運営している状態のこと。

山田 奈央子(やまだ なおこ)

株式会社シルキースタイル代表取締役CEO、一般社団法人日本フェムテック協会代表理事。大手下着メーカーで企画・開発を担当後、世界初の下着コンシェルジュとして独立。女性の体と下着の専門家として、インナー、コスメ、健康雑貨の商品企画開発を17年間行い、女性特有の健康課題に寄り添う活動を推進。2021年、日本フェムテック協会を設立し、ウィメンズヘルスリテラシーの重要性を発信。2児の母。

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