ICTコラム

第2回 “ペーパーレス化”が進む中で“AI-OCRブーム”を考える

第1回では、OCRの歴史と“AI-OCR”とは何か、についてお伝えいたしました。今回の第2回では、RPA市場やAI-OCR市場を通じたAI-OCRブームの背景と現状について解説いたします。

1. ペーパーレス化は進む一方で、伸び続けるAI-OCR市場

 “RPA”と聞けば、「今伸び盛りのマーケットだ」と捉える方も多いと思います。しかし、“AI-OCR”と聞くとどうでしょうか。「ペーパーレス化が叫ばれている中で本当に必要なのか?」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 たしかにここ数年、ペーパーレス化は着実に進んでいると考えます。例えば、今まで紙で送っていた注文書はEDI(企業間電子データ交換システム)や電子契約に、ホテルのチェックインは紙からタブレット受付へと代わってきていることを、多くの方はご覧になられていると思います。民間だけでなく教育現場を見ても、タブレット端末を導入する学校も増加している今、ペーパーレス化は着実に進んでいると言えるでしょう。一方で、請求書、アンケート、日報、報告書など、紙の書類がまだまだ存在しています。普段の生活や仕事の風景を思い浮かべてみると、紙に手書きで記載したり、紙を見ながらの入力業務が“ゼロ”になっていないということも事実ではないでしょうか。また、オフィスを見渡してみると、デジタルデータではなく、紙のままストックされている過去の情報があるかもしれません。実は、生産年齢人口が減少している昨今において、アウトソースを受託するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場が伸び続けており、その中でも最も大きな業務がデータ入力と言われています※1。ペーパーレス化が進む中でもなお、企業の課題となっているのが「データ入力業務」なのです。それを表すかのように、AI-OCR市場においても、市場規模は2017年度2.4億円(実績)から、2020年度には約7倍の17.0億に到達すると予測されています※2。

2. OCRは“AI”活用が簡単にできるツール?

 AI-OCR市場が伸びている背景は単純に「データ入力業務がなくならないから」というだけではなく、以下三つの要素も関連していると考えます。

① “AI”を自社に適用するハードルが低い製品としてニーズが高まっている

 第三次AIブームと言われる現在、なんらかの自社業務にAIを適用しようとした経験がある方もいらっしゃると思います。しかし、AIプロジェクトを検討するにあたり、「どの業務に適用してよいか分からない」「AIを動かすハードウェアの調達にコストがかかる」「オリジナルのAIを開発するのにも膨大なコストと時間がかかる」「そもそもAI開発ができる人材がいない」などがハードルとなり、結果として実用化に至らなかったという“しくじり事例”をさまざまな場所で聞くようになりました。

 これに対し、AI-OCRはコスト、導入工数などのハードルが比較的低いという特徴があります。中でもAI-OCRの導入工数は一般的なAI開発よりも少ないため(図1参照)、まずはAI-OCRからスタートし、効果を出して「AIを活用しよう」という社内の機運をより高めていく、という企業が増えていると実感しています。

▲図1):一般的なAI適用の難しさと、AI-OCR導入

② データ分析のニーズに合わせて、過去の書類のデータ化ニーズも高まっている

 DWH(データウェアハウス)、BI(ビジネスインテリジェンス)、ビッグデータ……。かねてより懸案であったデータ活用の流れは、ハードウェアの高性能化やクラウドの浸透、多種多様なツールの出現により、ビジネスシーンでの重要性がより強まってきています。

 自社に在籍する優秀な社員の共通項を見つけるためには、例えば履歴書やテスト結果などのデータを用いることになるはずです。住宅展示場のアンケートと購買データを用いてみれば、住宅購買までの最短プロセスが導き出せるかもしれません。日次で発生するデータ入力作業を自動化する、という目的だけでなく、自社の競争力向上に貢献するデータ蓄積のために利用されるケースが目立ってきています。

③RPAとの親和性

 最後に、AI-OCRブームを後押ししている大きな要因は、RPAとの親和性の高さです。ここ1~2年で急速に普及しているRPAは、パソコン上での業務自動実行を得意としています。RPAを用いて業務自動化、工数削減を目指そうと考えた時にぶつかる壁が「RPAはパソコンの上でしか動かないので、アナログ情報に触ることができない」ということです。業務の始めから終わりまでRPAに任せたいが、結局データ入力という一番工数がかかる業務が残ってしまった、という課題を解決するために求められるのがAI-OCRなのです(図2参照)。

▲図2):OCR+RPAで業務をより効率化

 次回は、AI-OCRを導入する際のポイントについてお伝えします。

※1: 出典「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場の実態と展望2018-2019」(株式会社矢野経済研究所)
※2: 出典「2019人工知能ビジネス総調査(2019年3月)」(株式会社富士キメラ総研)

PDF版はこちら

梅田 祥太朗氏

AI inside 株式会社
執行役員 CRO
事業開発本部長

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら