ICTコラム

AI技術活用シーンと注意点

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AI技術が世の中に進展し、規模の大小にかかわらずAIを導入して成功している企業が増えてきました。連載最終の今回は、小規模事業者や中小企業がAIツールを導入して経営課題を解決し、効果が上がった事例と誰でも利用できる無料のAIツール3選について説明します。

中小企業におけるAI活用事例

 AIを利用する中小企業が年々増加しています。誰でもどこでも利用できるクラウド環境の普及がその理由の一つです。手頃な価格で導入でき、専門的な知識を持つ社員が社内にいなくとも契約して即翌日から利用可能なAIツールが増えてきたことも追い風になっています。そこでまず、イメージしやすくするために分かりやすい事例を紹介していきます。

事例1 アパレル洋品店

 アパレル業界での音声会話機能を持つ顔認識AIの導入事例です。リアル店舗でベテランのスタッフ同様に売上や客単価向上に寄与した事例です。

経営上の課題

 アパレル業界では通常、ベテランスタッフになると、客の顔や年齢、洋服の好み、スタイルなどを覚え、それに基づいて適切なコーディネートを提案し、購入につなげることができます。しかし、新人スタッフにはこのようなコーディネートの提案が難しく、売上や客単価にベテランとの差が生まれるという問題がありました。

AI導入による解決策

 顔認識が可能なAIを搭載した音声会話ロボットが、来店した客にベテランスタッフと同様にコーディネートの提案を行います。例えば、「このジャケットにはこのスカーフがおすすめ」というように「コーディネート提案」といったアドバイスをすることで、客の購買意欲を刺激し、売上の向上が狙えます。

経営への効果

 この音声会話ロボットは、客の顔情報を基に性別を判別し、アイテムやコーディネートの提案を行います。さらに客の表情を読み取り、その反応に合わせて提案内容を調整する機能があります。コーディネートの提案には実際の店舗スタッフの経験や知識が活用され、リアルな提案ができ、売上や客単価の向上につながっています。

事例2 パン製造販売店

 パン・ベーカリー業界での画像認識AI及びPOS(販売時点情報管理)の導入事例です。

経営上の課題

 少子高齢化によるパン・ベーカリー業界の人材不足は、日常の販売現場に問題を生じさせていました。特に、新入りのパートやアルバイトは販売している100種類以上のパンをすぐに覚えられず、結果としてレジ待ちの行列が生じてしまいました。繁忙期に行列ができると、来店した人の一部は購入を避け、これが機会損失となりました。また、パンの種類を間違えてレジ処理を行うことで、クレームの原因ともなっていました。

AI導入による解決策

 パンの画像認識AIは、客がトレイに載せたパンをカメラで撮影し、それを自動で識別します。そして、識別したパンの種類と数量から、自動的に購入金額を計算するという、POSと連携したAIシステムを導入しました。

経営への効果

 画像認識AIにより、レジの処理速度が飛躍的に向上しました。これにより客の待ち時間が大幅に短縮され、その結果、顧客満足度が上がりました。誤計算によるクレームも減少し、新人スタッフの教育時間も大幅に短縮され、人材不足の問題も緩和されました。

事例3 日本酒製造業

日本酒製造業界で、伝統的に職人の勘と経験に依存していた製造プロセスにAIを導入した事例です。

経営上の課題

 日本酒製造では、杜氏(とうじ)蔵人(くらびと)と呼ばれるベテラン職人が高齢化し、また、酒づくりの肝となる業務が属人化する傾向が強まっていました。そうしたノウハウは文書や動画での記録がなく、「背中を見て覚える」方式での教育が中心であり、若手を採用しても職人として育成するには時間と労力がかかる問題があったため、結果として一定の品質で安定的に製造することが難しくなっていったのです。

AI導入による解決策

 日本酒製造の際の温度や湿度など、各種センサーから収集したデータを、数理モデルや成分の計測値と組み合わせることで、最適な製造プロセスをAIが算出しました。これにより、杜氏や蔵人のベテラン職人の技術やノウハウを次世代に伝える方法が確立されました。

経営への効果

 AIの導入により、収集した各種データを基にした予測や最適な製造支援が可能となりました。その結果、ベテラン職人の技術やノウハウがシステムとして可視化され、高品質な日本酒を安定的に製造することが可能になりました。

活用してみたい無料のAIツール

 こうした事例に見られる通り、中小企業でも、AIツールの導入で、さまざまな経営課題を解決し、経営効果を高めることができます。その中でもおすすめのAIツールといえば、前回の連載でも紹介したChatGPTですが、このほかにも有用なAIツールが多数あります。一例として、今すぐ始めることができる無料のAIツール(図参照)を紹介します。

【図:無料で活用できるAI ツール例】

 一つ目は、オンラインのグラフィックデザインツール「Canva」です。これは、SNSの投稿、ロゴ、プレゼンテーション、ポスター、動画などを作成できます。デザインのスキルがなくとも簡単に使用でき、テンプレートも豊富にあるので、好みに合わせてカスタマイズできます。
 二つ目は、テキストマイニングツール「UserLocalAIテキストマイニング」です。これは、アンケートの自由記述やクチコミを自然言語処理し、頻出語や特徴語を抽出でき、さらに音声認識技術による文字起こしも可能です。テキストから有益な情報を抽出したい時に便利で、アンケートやクチコミの分析、顧客のニーズ把握などに活用できます。
 最後は、AIライティングツール「ELYZA Pencil」です。メール文やニュース記事、職務経歴書など、さまざまな文章を自動生成できるツールで、無料版はアカウント登録不要で気軽に利用できます。

AI導入で気をつけること

 AIの導入には気をつけるべき点がいくつかあります。まず、顧客情報などのデータを扱う時には、その情報が守られるよう注意が必要です。特に顔認識や行動予測などの技術は、使い方によってはプライバシーの問題を引き起こすことがあるので、その辺りの規制やガイドラインに従うことが大切です。
 さらに、著作権と生成AIに関する問題があります。原則として、AI学習に写真などのデータを利用することは著作権侵害には当たらず、AIによって自動生成されたコンテンツには著作権は発生しません。しかし、そのコンテンツが既存作品と類似性や依拠性が認められれば著作権の侵害となります。これらには法改正を求める声もありますし、法解釈について未知な部分もあるため利用する際には注意が必要です。
 以上のことをよくご理解いただき、AIという素晴らしい道具を経営に活かしていっていただきたいと思います。

※ ワードクラウド
テキスト内の単語の頻度に応じて文字の大きさを変えたり文字を色分けするなどして、どんな単語が多く使われているかを見える化する手法。

阿部 満氏

富士ゼロックスIT関連企業にて、日本最大のネットワーク・セキュリティ業界のマーケティング関連に従事。その後、京セラ関連IT企業にて、事業開発部長、経営企画部長、コンサルティング部長に従事。ITコーディネータ協会職員を経てブリッジソリューションズ株式会社を創業。一般社団法人AI・IoT普及推進協会代表理事兼事務局長、一般社団法人ITC-EXPERT代表理事兼会長。

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