ICTコラム
AI技術の導入とメリット記事ID:D40049
2023年のビジネス界では、AI(人工知能)が多くの話題を集めました。特に、ChatGPTに代表される生成AIが注目を集めており、自社のビジネスにおける活用を模索する企業は多いでしょう。そこで、生成AIも含めたAI技術について3回連載で解説します。第1回目の今回は、AIの基礎知識、導入メリットについて解説していきます。
AIはどのように学習するのか
AIとは何か、明確な定義はありませんが、AIとは「人の知能や知性を人工的に再現したもの」と言えるでしょう。そして、知能や知性を再現するためには、コンピューターにさまざまなことを学習させる必要があります。その学習方法には、機械学習とディープラーニングの二つの方法がありますので、まずはこの二つについて解説していきます。
機械学習とは、データからパターンや知識を自動的に学習する手法です。主な学習アプローチには、データにラベル(正解データ)をつけて学習する「教師あり学習」と、ラベルがないデータからパターンを発見する「教師なし学習」などがあります。
「教師あり学習」は、猫の写真をたくさん与えて「これは猫だ(正解は猫)」という情報を学ばせる方法です。写真の特徴を抽出し、それが猫に関連していることを学ぶことによって、新しい写真に対しても「これは猫だ」と判断する能力を持つようになります。
「教師なし学習」はデータが持つ構造や特徴を分析して法則を見つけ出し、グループ分けするもので、あるグループは三毛猫が好き、別のグループは子猫が好きといった具体的な傾向を発見することができるようになります。
次にディープラーニングとは、物事を認定する特徴をコンピューター自身が探して学習していくものです。機械学習は原則として特徴を人間が選択するのに対し、ディープラーニングは自律的に選択する点に大きな違いがあります。例えば、猫を認定する場合、機械学習は参考にすべき特徴を人間が選択しますが、ディープラーニングは人間が選択しなくとも、コンピューター自身が判断して学習していきます。これには、大量のデータと計算能力を必要としますが、近年はコンピューターの高性能化や、あらゆる情報がデジタル化されることによってデータの入手が容易になったことで急速に進化しました。
AI導入で何ができるのか
機械学習でもディープラーニングでも、AIは膨大なデータを高速かつ効率的に処理し、パターンや傾向を抽出する能力があり、膨大なデータから相関関係や予測モデルを導き出すことができます。そして、大規模で統計的な分析を効率的に行うことが可能になり、現在は、画像認識や自然言語処理、音声認識などの分野で驚異的な成果を収めていて、自動運転、医療診断、売上・需要予測などのさまざまな応用分野で活用されています。
例えば、AIは長い報告書や文書から主要なポイントと要約を自動的に生成したり、手書きのメモやフォームから情報を自動的に抽出し、データベースやシステムに入力して事務作業の負担を軽減してくれます。
また、ビジネスにおいては、売上予測や需要予測、顧客行動の分析などにもAIは活用されています。日本の古いことわざである「風が吹けば桶屋が儲かる」は、「一見なんの関係もないようなところから、意外なところに影響が出る」とか「可能性の低い因果関係を無理矢理つなげてできたこじつけの理論・言いぐさ」などの意味で使われてきました。ところが今や「風が吹く」という情報から想像できる因果関係をAIが分析し、一気に先読み(図参照)することで儲かるチャンスを見つけることができるような時代になり、このことわざも従来とは違う意味を示すことになったのです。
例えば、AIで天気や観光者情報、ホームページアクセス数、飲食店サイトの口コミなどを組み合わせて分析することで、自社が飲食店であれば来店人数などを割り出し、売れると予想した料理メニューから食材の仕入れ、適切なパートタイム労働者の人数まで割り出すことが可能になっています。そして、この分析結果を食品ロスの防止や従業員の適正配置、お客さまのニーズに合ったメニュー開発などに活用している企業があります。
ビジネスでAIを導入した際のメリット
IT技術の発達により、10~20年後には、日本の労働人口の半数近くが人工知能やロボットなどで代替が可能と言われていますが、その反面、人間にしかできない仕事も増えるとも予想されています。そのため、「AIはやがて人間の能力を超え、自分たちの仕事を奪ってしまう」と将来を安易に悲観する人もいますが、逆にAIを有効に活用することで、会社の生産性や競争力を向上させていこうと前向きに考える人もいます。このように前向きに考えてもらうため、最後にAI技術を導入した際のメリットを解説します。
①カスタマーサービスの向上
AIをカスタマーサービスに組み込むことで、顧客の問い合わせや要望に迅速かつ正確に応答することに活用できます。これにより電話の待機時間を短縮し、初期の問い合わせ処理や簡単なトラブルシューティングを可能にしています。
②商品・サービスの提供
AIは顧客のデータや行動履歴を分析し、個別のニーズや好みに合わせた商品やサービスの提案、推奨を行えます。例えば、AIが組み込まれたショッピングサイトは分析結果に合わせて、ユーザーへ関連商品や類似商品をAIで推薦することができます。
③事務業務などの効率化
AIを業務プロセスに組み込むことで、ルーチン業務の自動化や情報の取得・整理が可能になります。例えば、会議やセミナーの音声をリアルタイムでテキストに変換するAIを利用することで議事録の作成時間が大幅に削減されます。また、製造現場の外観検査などに活用すれば、検査時間の削減に大きく寄与します。
④新たなビジネスチャンスの発掘
AIは顧客の声や要望を把握し、市場のトレンドや需要の変化をリアルタイムで把握できます。そのため、顧客の購入履歴や対話履歴を基に、次に提案すべき商品やサービスを自動的に予測してくれます。
⑤製品やサービスの改善と新需要発見
AIチャットボットなどを活用すると、顧客とのリアルタイムな対話やフィードバックの収集が可能です。例えば、AIが問題の複雑さや顧客の感情を評価し、必要に応じて高度なサポートや専門家にフィードバックし、顧客需要に対し迅速な対応が可能となります。
⑥経営と業務の意思決定支援と予測分析
AIは膨大なデータを処理しながら、さまざまな市場のシナリオやビジネス戦略をシミュレーションし、それに基づいて最も効果的な戦略を意思決定することが可能となります。
ここまででAI技術の基礎知識とAI導入で何ができるか、ビジネスでAIを導入した際のメリットを説明してきました。ぜひAIに関心を持ち、有効に活用してください。
阿部 満氏
富士ゼロックスIT関連企業にて、日本最大のネットワーク・セキュリティ業界のマーケティング関連に従事。その後、京セラ関連IT企業にて、事業開発部長、経営企画部長、コンサルティング部長に従事。ITコーディネータ協会職員を経てブリッジソリューションズ株式会社を創業。一般社団法人AI・IoT普及推進協会代表理事兼事務局長、一般社団法人ITC-EXPERT代表理事兼会長。
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