企業ICT導入事例

-日本電鍍工業株式会社-
クラウド型の生産管理システムで業務効率化と技術継承を実現した多品種変量生産企業のDX戦略

記事ID:D20046

多くの品目を扱いながら、需要や受注状況に応じて品目ごとの生産量が大きく変動する多品種変量生産型のものづくり企業は、生産管理が煩雑になるため、業務効率の低下を招きやすいという課題を抱えています。そんな課題を解決するクラウド型の生産管理システムを開発し、業務効率化だけでなく技術継承も成し遂げた日本電鍍工業株式会社の代表取締役・伊藤 麻美氏に、同社のDX戦略や成功ポイントについてうかがいました。

属人化と世代交代の壁に直面

代表取締役 伊藤 麻美氏

 日本電鍍工業株式会社は1958年の創業以来、めっき加工会社として日本のものづくり産業の一翼を担ってきました。しかし、かつての同社は昔ながらの職人気質が色濃く残っていて、アメリカ留学を終えて2000年に代表取締役に就いた伊藤 麻美氏は、あまりに前時代的な状況に戸惑いを覚えたと回顧します。

 「当時、売上の9割を占めていた時計の受注が不調だったことや、経営者の放漫経営の結果、私が代表に就任する前年には、負債10億円を抱える危機的な状況に瀕していました」(伊藤氏)

 同社の業務は伊藤氏が代表就任以降、時計依存から脱却し「多品種変量生産」へと移行しました。一点ものから始まり、年間数万点に及ぶめっき作業を、主に手作業で対応しています。そのため社内で共有すべき情報は増えたものの、管理体制が昔ながらの体制のままで、さらに職人個人の技量や感覚に依存する工程が多く、「今日はAさんが休みだから、この作業は明日」「Bさんがいないと、この製品は出荷できない」といった、典型的な属人化現象が現場の当たり前の風景となっていました。

 「忙殺されているベテランを見かねて、若手への業務移譲を提案するのですが、自分で抱え込もうとする姿勢を崩しません。理由を聞くと、『忙しすぎて技術を教えている暇などない』と言うのです。団塊世代の従業員がいつまでも現場に立てるのであれば問題はないのですが、引退までに残された時間は多くありません。また、世代間の価値観の隔たりが大きく、十分なコミュニケーションも取れていませんでした。このままでは20代、30代の若手に当社の技術が継承されず、経営が立ち行かなくなるのは明白でした」(伊藤氏)

妥協の運用から本当に使えるシステムへ

 こうした状況下、伊藤氏は2008年にオフィスコンピューター、2012年に汎用型の生産管理システムを導入し、業務の効率化と情報の共有化に取り組みました。しかし、期待したほどの成果は得られなかったと言います。

 「多品種変量生産に対応するには、汎用型システムの汎用的な仕様は適しておらず、妥協を重ねながらの運用が続きました。例えば、入荷情報を入力すると伝票が出力されますが、項目や字数に制限があり、手書きの追記が必要で、内容や数値の記入ミスもよく起こりました。さらに、時代とともに工程はより複雑化し、新しい技術の登場により営業品目も多様化しましたが、システムを対応させるには、莫大な予算と時間が必要なため、踏み出せませんでした」(伊藤氏)

 転機となったのは、2016年でした。ある事務機会社の当時の社長との出会いをきっかけに、生産管理システム改革に向けた提案を受け、クラウド型の生産管理システム「TKiS」の新規開発と、従来会計業務で利用していた業務ソフトを併用する新たなシステムの構築に着手しました。同提案は、金額では既存システムの入れ替えにかかるとされる費用の3分の1ほどに収まったものの、前述のとおり、多品種変量生産と複雑化した工程に対応した生産プロセス・工程の管理が必要で、そのカスタマイズのために本稼働までの開発期間は約3年の月日を費やしました。

 「システムの開発には、会社の業務プロセスや収益状況といった情報を開発者と共有する必要がありました。そのため、信頼関係の構築は必須でしたが、事務機会社の社長をはじめ、携わっていただいた方々との人間関係に恵まれたことが、成功の最大の要因だったと感じています。また、従業員の努力も忘れられません。システムへのデータ入力作業は大きな負担でしたし、慣れないタブレットの操作も懸命に覚えてもらいました」(伊藤氏)

情報共有が生んだ業務効率化と属人化の解消

画像①:受注から納品までの工程をアプリ感覚で管理可能なTKiSは、若手を中心に全社的な支持を得ている

 TKiSの開発以降、「商談・受注・作業手配書の発行・めっき加工・製品検査・納品」という一連の工程間の情報が、タブレット上などで共有(画像①参照)できるようになったことで、全社的な業務効率化が一気に進みました。

 「作業手配書は、受注が決定した段階で営業部がTKiSを使って作成します。そこには受注額や資材費などの営業情報に加え、製品の仕様や作業手順、注意事項などが入力され、各部署で共有されます。例えば、会計部門では、その数字を見れば利益率が一目で把握できるようになり、原価計算の負担が大幅に削減されたと同時に従業員のコスト意識も向上しました。また、弊社は常に約600品目の資材を運用しており、従来は棚卸に一日の業務時間をすべて費やし、さらに残業も必要でしたが、TKiSでは最短20分で終了するようになりました。残業する機会も減り『安心して子育てに取り組める』といった意見が出るなど、従業員にも好評です。こうしてTKisは、現在PC99台、スマホ9台、タブレット25台体制にまで拡張され、全社に浸透しています」(伊藤氏)

 ここまで業務改善が進んだ背景として、伊藤氏はTKiSの高いカスタマイズ性を評価します。

 「導入以来、業務に応じてカスタマイズした項目は200ヵ所を超えました。例えば、『納期遅延が発生しそうな場合はアラートを出す』『在庫量が基準値を下回ったら関係部署に通知する』など、今では従業員自身が自主的にカスタマイズに関わり、より働きやすい職場づくりが進んでいます」(伊藤氏)

画像②: 現場に送付されるセルカードは、めっき液にも漬けられるセルロイド製で発行される

 こうした取り組みにより、工程の複雑さを理由に生じていた属人化の問題からも解放されつつあります。作業手配書には、めっきの仕様や加工方法などの具体的な指示から、作業上の注意事項までが細かく記録されています。その中から作業に必要な情報のみを抽出して転載された指示書「セルカード」(画像②参照)が現場に送られ、詳細を確認したい場合にはQRコードから検索できる仕組みになっています。これにより、これまで習熟者でなければ対応が難しかった作業も、若手従業員がその場で確認しながら進められるようになり、着実なスキルアップにつながっています。
 また、TKiSに保存されたデータは社内で自由に閲覧できるため、従業員は受注金額や仕入れ値、利益率や利益金額などの情報を容易に把握できるようになりました。

 「経営数字が共有されたことで、一人ひとりが品物にかかるコストを意識するようになりました。その結果、加工工程に携わる際の行動や発信にも変化が生まれ、『どう動けば効率的で、より良い製品に仕上がるか』を主体的に考えるようになっています。こうしたプロ意識の高まりは、エンゲージメント(従業員の会社に対する愛着や思い)の高まりにもつながっており、大きな成果の一つだと感じています」(伊藤氏)

 またトレーサビリティのため、社屋の各所にカメラを取り付けたことで、不良品が出た際でも、記録された画像によって要因が迅速に特定でき、再発防止策の検討や顧客への説明もスムーズになりました。
 会社にとって貴重なノウハウを、残らない記憶から持続可能な記録へと進化させた同社のシステム運用実績は、業界の枠を超えてDXの成功事例としての有益な情報になると思われます。

PDF版はこちら
会社名 日本電鍍工業株式会社
設立 1958年(昭和33年)2月
所在地 埼玉県さいたま市北区日進町1丁目137番地
代表取締役 伊藤 麻美
資本金 1,000万円
事業内容 電気めっき加工・無電解めっき加工・アルマイト・電着塗装
URL https://www.nihondento.com/

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら