企業ICT導入事例

-岩田地崎建設株式会社-
ICTの積極活用により、工事の作業工程を効率化。職場環境を改善し、競争力を強化

北海道に本社を置き、東北から九州まで各地に支店を持ち、海外でも事業を展開する岩田地崎建設株式会社は、工事現場での作業支援からBIM※1・CIM※2まで、ICTを広く導入。工事の的確かつ効率的な遂行と、若手育成、働きやすい職場環境の実現や競争力の強化を目指しています。

【導入の狙い】ICTを活用し、工事の精度向上と効率化、技術の確実な伝承、働きやすい職場を実現する。
【導入の効果】ICTの支援により作業効率が向上し、職員・作業員の負担が軽減され、職場環境の向上につながった。

ドローンにレーザースキャナーを搭載し「見えない地形」も正確に測量

  • ▲ICT推進部推進課 課長 山田 雅氏

    人が機械を動かし、技術は人から人へ伝承されていく。そうしたイメージがある土木建築業にも、今ICT化の大きな波が押し寄せています。

    北海道札幌市に本社を置く岩田地崎建設株式会社は、創業90有余年の歴史を誇る総合建設会社です。同社は2017年に、社内にICT推進部を設置し、「ICT活用工事」を積極的に進めています。

    「ICT活用工事とは、GPSや無線LAN、インターネットなどの情報通信技術や、三次元モデルを活用する工事のことです。例えば、設計と工程の見える化を行う『BIM/CIM』などを用いて業務プロセスの改善に取り組み、『調査・設計・施工・維持管理』という一連の建設生産管理システムの効率化により生産性の向上や品質確保を目的とする工事手法などです」(山田氏)

  • ▲総務部広報課長 100周年事業推進室課長 柴﨑 真氏

    こうしたICT活用工事の導入例の一つが、工事着手時の測量です。

    「工事には、事前の地形の測量が不可欠ですが、傾斜地など人の立ち入りが容易ではない場合も少なくありません。そのような場合に活躍するのがドローンです。ドローンを測量対象となる場所に飛ばし、上空から撮影した画像を解析しデータとして活用します」(柴﨑氏)

    「最近はレーザースキャナーを搭載したドローンの活用も始まっています。土地が樹木に覆われている場合、肉眼や写真でその形状をきちんと把握することはできません。しかし、レーザースキャナーは樹木のわずかな隙間を通り、土地の形状を正確な三次元データとします。こうしたデータを活用し、掘削にかかる日数や生じる土量を細かく算出することで、作業日程の緻密な計画が可能となるのです」(山田氏)

ウェアラブルカメラの映像を通じ、ベテランが複数の現場を遠隔指示

また、人が行う作業そのものにも、ICTの活用が始まっています。

「土木建築業の現場での確実な施工作業やその確認には、経験に裏づけられたベテランの知見が欠かせません。しかし、そうした人材には限りがあり、請け負う工事現場すべてに配置することは困難になりつつあります。そこで、作業員のヘルメットに装着したウェアラブルカメラの映像を遠隔地にいるベテランに音声とともに配信し、ベテランが質問に答えたり、指示を行うという作業支援方式がスタートしました。これならベテラン一人が複数の現場を管理できますし、作業員は空いた両手を使い、ベテランの監修の下で作業できます。また騒音の激しい現場でも確実なコミュニケーションを実現するため、ベテランの指示を作業員が装着したスマートグラス※3に文字表示する仕組みも取り入れています」(山田氏)

「こうしたICTの活用は、作業そのものを効率化するだけでなく、若手労働者の習熟度を高める上でも大きな効果があります。“見えるもの”をベテランと共有し、会話を通じて『ここで何をすべきか』『確認すべきはどこか』といったベテランの知識を共有することが、“勘どころ”の理解をうながします。そうした経験を積み重ねることで、より早い成長が可能となるのです」(柴﨑氏)

  • ▲レーザースキャナー搭載のドローン

  • ▲地上型レーザースキャナー本体

  • ▲レーザースキャナーで計測した地下駐輪場のCIMモデル

建物と図面を一体化した3Dデータで工事現場全体を画面上で即座に確認

一方、ICTの支援で「現場でできること」を増やし、作業の効率化と作業員の負担を減らす仕組みの導入も進んでいます。

「現代の土木建築工事に欠かせない3D CADソフト(コンピューター支援設計ソフト)はライセンスが高価で、また快適な利用には高性能なワークステーションが必要であることから、現場のノートパソコンでの利用は困難でした。しかし、現場のパソコンから本社サーバーにログインし、リモート操作する『CAD VDI※4』の導入で、作業員はオフィスに戻ることなくCADソフトが利用できるようになり、負担が大きく軽減しました。また市街地での地下工事を行う際、レーザースキャンした既存の建物の3Dデータと設計図面のCADデータを三次元で合成し表現する技術も実用化し、これまで何枚もの図面やイラストで行われていた工事関係者の意識合わせが画面上で即座に確認できるようになりました」(山田氏)

ただ、こうしたI C T活用工事の導入には、課題もあったと言います。課題の中心となるのが、ICTという“新たなモノ”への、現場の戸惑いでした。

「大規模な工事は弊社のほか、多くの協力会社と一緒に行います。そうした協力会社の職人には、長年培ってきた技術や仕事の進め方へのプライドがあります。協力会社にもICT活用工事のメリットを伝え、導入に協力してもらうことが必要です」(山田氏)

「ICT活用工事による省力化、工期短縮といったメリットを、弊社だけが享受するのではなく、協力会社とも分かち合うことが、導入への大きなインセンティブになると思っています」(柴﨑氏)

さらなるICTの積極導入で一層の効率化と働きやすい職場の実現へ

こうしたICT活用工事は、今後の土木建築業界が抱える課題の解決に大きく役立つと期待されています。

「土木建築業界も、少子化に伴う労働力不足に直面しています。ICT活用工事は設計から施工に至る各段階での工程を効率化し、これまでよりも少ない人数で対応可能とすることで、そうした労働力不足解決の処方箋になると考えています。また、ベテランの知見をより早く若手が吸収できる体制の構築や、現場でできることを増やし、労働時間を短縮するなど、働きやすく魅力的な職場環境の実現に大きく寄与するはずです」(柴﨑氏)

「2020年にサービス開始予定の『5G通信』では、データの高速、低遅延、多数同時接続利用が可能になります。この5Gの導入で、ICT活用工事も大きく変貌するでしょう。今後も協力会社ともども最先端のI C T活用工事の導入を積極的に進め、短期間かつ正確な施工を実現し、競争力を高めていきたいと思っております」(山田氏)

※1 BIM:Building Information Modelingの略称で、コンピューターで作成した三次元の形状情報に、部屋などの名称・面積、材料・部材の仕様や仕上げなどの属性情報をあわせ持つ建物情報モデルを構築し、工事のあらゆる工程で活用するワークフローのこと。
※2 CIM:Construction Information Modelingの略称で、BIMの考え方を活用し、工事の計画・調査・設計段階から三次元モデルを導入し、事業関係者間でさまざまな情報を共有することで業務効率化を図る仕組み。
※3 スマートグラス:眼鏡型のウェアラブル(着用できるコンピューター)端末の総称。拡張現実(AR)技術により、現実の風景に文字や映像を重ね合わせて表示するものや、網膜に直接映像を映す網膜走査ディスプレイを用いるものなどがある。
※4 VDI:Virtual Desktop Infrastructureの略称で、デスクトップ環境を仮想化してサーバー上に集約したもの。利用者はネットワークを通じてサーバー上の仮想マシンに接続し、デスクトップ画面を呼び出して操作する。

会社名 岩田地崎建設株式会社
創業 1922年(大正11年)
本社所在地 北海道札幌市中央区北2条東17丁目2番地
代表取締役社長 岩田 圭剛
資本金 20億円
事業内容 建築工事、土木工事、舗装工事、その他建設工事全般に関する調査、企画、測量、設計、監理、施工、エンジニアリング、マネジメントおよびコンサルティングなど
URL http://www.iwata-gr.co.jp/
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