企業ICT導入事例

-植山織物株式会社-
地場産業の危機をICT活用で乗り越え、将来への活路を拓く

「播州織(ばんしゅうおり)」のメーカーである植山織物株式会社では、従来の業務フローでボトルネックになっていた発送管理の工程に、ICT活用で自社オリジナルのシステムを構築。これにより作業の効率化、管理の「見える化」が進んで経営が改善され、生み出された経営資源の“ゆとり”を、自社ブランド開発や海外市場開拓などに振り向け、地場産業の新たな活路を拓こうとしています。

【導入の狙い】場所、時間、人手が大幅にかかっていた作業工程を効率化したい。
【導入の効果】業務の一元管理と「見える化」を実現でき、経営改善に役立っている。

地場産業「播州織」の伝統を25歳で引き継ぐ

  • ▲代表取締役社長 植山 展行氏

    兵庫県南西部は「播州」(播磨(はりま))と呼ばれ、江戸後期から綿花の栽培と織物が盛んでした。特に北部では、紡糸、染糸、織、加工などの分業が組織的に行われ、「播州織」という特産綿織物が作られてきました。しかし、低価格輸入品の攻勢と消費の低迷により、地場産業としては衰退。そんな状況下でも、国内外トップブランドからも注文を受け、この数年で輸出比率を2割に伸ばしているのが創業約70年の植山織物株式会社です。

    同社の植山 展行社長は、2011年に先代社長の父が急逝したため、勤務していた東京の大手精密機器メーカーを退職して、25歳で事業を引き継ぎました。

    「エンジニアの世界から“五感”が重視されるテキスタイル産業(織物などのファッション産業)に転じて、当初、戸惑いはあったものの、父が作ってくれた事業の土台と、従業員や取引先、地元の方々の応援があったおかげで経営できていると感謝しています」(植山氏)

  • ▲先染め織という手法で作られる「播州織」

ボトルネックになっていた物流面を改善した発送管理システム

織物業界では、衣料品メーカーの注文を受けて生地を納入しますが、定番でないものは「カット見本」と呼ばれるサンプル生地を送ってから注文を受ける場合が一般的です。在庫から正確にピックアップして迅速に発送することが商談の決め手になります。同社は豊富な在庫と生産能力の高さでは業界トップクラスですが、ニーズへの対応スピードに難点がありました。企画・販売や加工を行うグループ会社、倉庫など5拠点が別々にサンプル出荷を行っていたため、在庫スペース、時間、手間を必要以上に割いてしまい、出荷作業と在庫確認が業務のボトルネックになっていたのです。サンプルを大量に作り置く無駄も発生していました。

事業を継承した植山氏の課題は、短納期・小ロット・多品種に対応できるスピーディで効率的な経営へ改革することでした。植山氏は、まずサンプル出荷の作業場所を集約し、サンプルに添付したQRコードを読むことで出荷と在庫の管理が一度にできる「発送・在庫管理システム」を構築しました。織の種類や生地の色・柄、風合いなどによって数千種もの製品を作ることができる同社ですが、それらのサンプルを分類・保管して在庫も管理するのは大変です。これまでは、ベテラン作業員の知識や経験でピックアップして発送していたのです。これをコンピューター管理に移行したことで、ほしいサンプルの所在と在庫量がすぐ分かり、ピックアップされたサンプルに貼られたQRコードラベルをタブレットで読み取れば、該当品かどうかを確認でき、その情報は発送情報の管理にも使われます。

また取引先の発注書式をそのまま使えるようデータ連携させる(EDI※化)ことで、注文を書類に印刷したりFAXを使う従来のやり方が一掃されたのです。

  • ▲豊富な在庫を誇るサンプル生地で多様なニーズに対応

トップが舵を切ってICT改革が成功した理由

  • ▲オンライン化により効率化された受発注管理

    一連のICT改革による成果は劇的でした。物流拠点は1カ所になり、無駄なく必要分だけ作れば済むようになったサンプル作成コストは3分の1に。さらに、EDI化で直送できるようになった取引先数は約3倍の488件(月間)になり、売上高も月平均で4%アップしました。トップが舵を切って、改革に成功した例といえます。

    植山氏は、前職でセールス・エンジニアとして働き、顧客の課題をICTで解決する経験を持っていました。グループの一員でもあるシステム開発会社と協力して行った自社の改革も、その知見が活きたことで迅速かつ効果的に進めることができたのです。

「まず、どこにどんな問題があるかを見つけるのが最初の課題でした。現場でのヒアリングを重ねて、人員や作業量、在庫、コストの実態を把握してみると、無駄やムラが多いことに気づきました。もちろん、従来の方法に慣れていた現場にはシステム化に抵抗がありました。そこで資源の無駄をなくして業務を効率化すべきこと、また属人的だったノウハウを共有すべきことの必要性、そしてシステム化による効果をそれぞれの現場に理解してもらうよう何度も説明を重ね理解してもらいました。また、受注の際のEDI化は、取引先関係者と直に調整を図ったことが成功要因だったと思います。最大の成果は、将来に対する危機意識を全社で共有できるようになったことです」(植山氏)

現在、従業員たちは、在庫のピッキングや業務で必要になる情報については、タブレットを身近に置いて作業するようになりました。確認のために必要な一部書類以外はペーパーレスになり、他拠点の進捗把握などは携帯端末でクラウドにアクセスして行います。

  • ▲ICT改革による「見える化」で作業効率も高まりました

地場産業の活路を世界市場に求めて

  • ▲出荷された播州織はさまざまな製品に加工されます

    業界が求めるスピードと多様性にICT活用で見事に対応した同社ですが、植山氏は別のテーマでもさらなる改革を進めようとしています。例えば、自社提案品の比率を高めたり、シャツなどの自社ブランド開発やその通販も開始し、海外販路の開拓にも積極的に取り組んでいます。繊維業界が「世界に誇れる日本ブランド」に与える「J∞QUALITY」認証も受けました。最近では、ホームページサイトを多数開発し、英語主体にグループ力をアピールするもの、生地見本紹介のもの、通販用のものなど、検索ニーズに即応できる情報発信体制を整えています。雇用を確保しつつ将来への布石を打つ、そのためにもICTを活用して経営資源を無駄なく活かし、機動力を高めようとしているのです。

    「『播州織』は、北播磨一帯の暮らしを支えてきた地場産業です。その担い手として、その可能性を追求する使命を感じています」(植山氏)

予期せぬ経緯で異業種から伝統産業の分野に入り、事業承継の苦労もあったものの、逆に先入観のない視点で問題点を見つけ、若い感覚でICT活用を推進した植山氏。同社の事例は、衰退傾向にある地場産業の活路を求める方々にも大いに参考になります。


※EDI:Electronic Data Interchangeの略。電子データ交換と訳し、商取引のための各種情報(注文書や請求書など)を、ネットワークを通じてコンピューター同士で交換すること。

会社名 植山織物株式会社
創業 1948年(昭和23年)4月
所在地 兵庫県多可郡多可町八千代区仕出原681
資本金 3,600万円
代表取締役 植山 展行
事業内容 綿スフ織物業
URL https://www.ueyama.net/
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