ICTソリューション紹介

-特定非営利活動法人 ITコーディネータ協会-
被災時の初動対応からBCP策定まで中小企業の事業継続力を高める実践ポイント

記事ID:D10066

近年、地震や台風、水害などの自然災害が激甚化・頻発し、多くの中小企業の事業継続が脅かされています。国は「事業継続力強化計画認定制度」などを通じて、企業の災害対応力向上を支援していますが、日々の業務に忙殺されている企業側の取り組みは、なかなか進んでいないのが現状です。そこで今回は、ITコーディネータ協会によるITコーディネータ向けの研修「中小企業の事業継続力強化計画策定支援の進め方」で講師を務めた赤羽 幸雄氏に、中小企業がICTを活用して最低限取り組むべき災害対策についてうかがいました。

災害時に企業を襲う 三つのリスク

ITコーディネータ
ケース研修インストラクター
防災士 北海道地域防災マスター
赤羽 幸雄氏

 日本を取り巻く自然環境はこの100年間で激変しており、内閣府の「令和5年版 防災白書」によると、日本の年平均気温は過去100年間で1.30℃上昇しました。この数値は世界平均の0.74℃を大きく上回り、大雨や短時間豪雨の発生頻度の増加につながっていると伝えています。また、政府の地震調査委員会は、南海トラフ地震(マグニチュード8~9級)の30年以内の発生確率を70%~80%(令和5年公表時)と評価しています。
 では企業が被災した場合、どのような影響が生じるのでしょうか。IT経営コンサルタントとして、防災対策や事業継続力の強化を通じて、企業経営の強靭化を支援する赤羽氏は、災害時に企業が直面する三つのリスクを指摘します。

 「まず、通信システムの不全による安否確認の遅延です。固定電話はつながらず、携帯電話も輻輳ふくそう状態に陥り通信が滞ります。SNSやインターネットが重要な連絡手段となりますが、利用環境が整っていなければ情報共有ができません。従業員や関係者の安否確認が遅れると、初動対応に深刻な影響が及んでしまいます。次に、ルールが整備されていないことによる現場の混乱です。被災時の対応手順や指揮命令系統が明文化されていないと、『誰が』『何を』『どの順番で』行えばよいかが分からず、復旧活動が停滞してしまうのです。私自身が被災者となった2018年の北海道胆振東部地震でも、大きな被害を受けました」(赤羽氏)

 この震災では、日本初のブラックアウトが発生し、北海道全域が最長3日間の停電に襲われました。信号機・公共交通・物流などが一斉にダウンしたため多くの企業が混乱状態に陥り、上長からは「自宅待機」、経営陣は「出社せよ」と異なった指示が飛び交うなど、事業の継続を妨げるさまざまな事態が発生しました。また、トヨタ苫小牧工場の操業停止の影響が全国の工場に波及するなど、全国規模でサプライチェーンが麻痺し、経済活動に大きな傷跡を残したのです。

 「当時は私自身も避難所生活を経験しましたが、被災者にとって最初に必要なのは、『水や食料ではなく情報』であることを痛感しました。どの場所が停電しているのか、復旧はいつになるのか、そして家族は無事なのか。情報がないため行動判断ができず混乱が増幅する状況は、企業も避難所も同じだったのです」(赤羽氏)

 そしてもう一つのリスクが、「データの喪失」による業務停止です。紙の資料は水害や火災に弱く、一度失われると復旧は困難です。一方、デジタルデータも決して安全ではありません。バックアップが複数あったとしても保全場所が同じだと、そこが被災してしまえばすべてが失われます。

ICTを活用した 初動対応が重要

 被害を最小限に抑え、速やかな復旧を果たすためには、「正確な情報」「適切な対応」「データ保全」が欠かせません。赤羽氏は、そのためには「初動対応」「復旧」「平時」の三つのタイムラインで対策に当たることが重要だと指摘します。特に、正確な情報収集や迅速な情報共有が求められる初動対応では、防災アプリなどICTの活用が非常に効果的だと語ります。

 「ICTの処理能力やスピードは人間の比ではありません。リアルタイムの災害情報を活用することで、初動の遅れや情報の錯綜、人手不足といった課題を大幅に軽減できます。現在は優れた防災アプリが数多くリリースされていますので、ぜひ全従業員のスマホにインストールしてください」(赤羽氏)

 防災アプリは、気象庁や自治体などが発信する災害情報をスマホへリアルタイムで通知し、避難情報や危険箇所、気象警報などを迅速に把握できるツールです。無料で利用できるものも多く、中小企業でも手軽に導入できる防災対策の一つと言えるでしょう。

 「講演会などでは、『Yahoo!防災速報』や『NHK ONE ニュース・防災』、自治体が提供する防災アプリなどを紹介しています。従業員の安全確認には、ビジネスチャットの活用も有効です。一斉連絡や自動集計機能により、災害発生から数分で安否や状況確認が可能となります。例えば『LINE WORKS』や『Googleフォーム』などは、比較的導入しやすいと思います。また、NTTの『災害用伝言版(web171)』は、安否確認の最後の砦となるサービスですので、ぜひ概要を理解しておいてください」(赤羽氏)

 そして事業復旧のカギとなるデータ保全でも、デジタル活用は欠かせません。

 「クラウドへのデータ保存は必須です。たとえ社屋が被害を受けても、クラウド上にデータがあれば、速やかな復旧が可能になります。また『3-2-1ルール』の実践も重要です。三つのコピーを作成し、二つは異なるメディアに保存し、残る一つはオフサイト(遠隔地)に保管します。こうした対策を講じることで、自然災害だけでなく、サイバー攻撃にも高い耐性を持つバックアップ態勢を整えることができます」(赤羽氏)

平時からの備えが 企業の防災力を高める

【図:BCP策定率の推移 ―規模別―】出典:帝国データバンク事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2026年)

 デジタル化と並行して、平時から具体的な防災策を全社で立案・共有し、適切な初動対応を実現するための「事業継続計画(BCP)」の策定も欠かせません。BCPとは、人命の安全・業務の順位づけ・代替手段や連絡体制などが明記された計画書です。自然災害や感染症、サイバー攻撃などが発生した際に、事業を継続し、早期復旧を図るための重要な指針となります。

 「現在、大企業のBCP策定率は76.4%に達し、毎年着実に上昇しています(内閣府「令和5年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」)。一方、別の調査になりますが、中小企業の策定率は令和8年現在18.3%に留まっています(帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2026年)」:図参照)。しかし近年では、BCPの策定を取引条件の一つとする大企業も現れているため、サプライチェーンの一員である中小企業にとっても、BCPへの取り組みは今後ますます重要になるでしょう」(赤羽氏)

 中小企業庁では、BCP策定に取り組む中小企業を支援する「事業継続力強化計画認定制度」を推進しています。認定されると「信用保証枠の拡大」「貸付金利の引き下げ」「税制優遇」「ものづくり補助金の加点」など、さまざまな支援を受けられますので、積極的に活用したいところです。そして、赤羽氏はBCPとデジタル活用の効果を最大限に引き出すには、平時からの備えが何より重要だと強調します。

 「デジタルツールを円滑に活用するには、ある程度の慣れが必要です。実際にツールに触れる体験型研修会などを開催して、従業員の習熟度向上に努めてください。また、ビジネスチャットは、日常業務でも積極的に活用することをお勧めします。災害が起きて初めてアプリを開いても、使いこなせません。普段から使い慣れていれば、災害時に『使い方が分からない』といった事態を防げます。さらにBCPとは別に、役職や部署ごとの役割を整理明記した、実践的な初動対応マニュアルも作成し、全社で共有してください。そして、経営陣や管理者が率先してこれらを活用し、防災の重要性を従業員に周知することが何より肝要です」(赤羽氏)

 このように平時から備えを積み重ねることは、災害への対応力を高めるだけでなく、組織の情報共有や業務効率化といった日常の経営基盤の強化にもつながります。企業防災は、将来に向けた投資であると同時に、企業価値を高める取り組みでもあります。

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組織名 特定非営利活動法人 ITコーディネータ協会
設立 2001年(平成13年)2月
所在地 東京都中央区日本橋浜町2-17-8浜町平和ビル7階
代表者 野村 真実
事業内容 ITコーディネータの資格認定・育成カリキュラムの策定・研修、ITコーディネータと経営者などとのマッチング、ならびにITの利活用に関する研究・啓発活動
URL https://plus.itc.or.jp/

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