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-株式会社JTB総合研究所-地域連携で取り組む観光DXが創出する持続可能な観光産業と地域経済の活性化
記事ID:D10061
今年2月の訪日外国人旅行者数が約347万人と2月として過去最高を記録したように、コロナ禍を経た観光産業は現在、堅調に推移しています。しかし一方で、持続的な成長を脅かすと考えられる、いくつかの重要な課題も指摘されています。その課題を解決し観光産業を活性化させるため、観光庁が「観光DX」を推進していますが、その現状と可能性について、コンサルティングなどを通じて観光産業を支援するシンクタンク、JTB総合研究所の早野 陽子氏、三輪 夏菜氏にうかがいました。
活況を呈する観光産業に存在する課題と解決手段
主席研究員 早野 陽子氏
日本の観光産業は、コロナ禍での低迷を経て、再び活況を呈しています。観光庁「2025年旅行・観光消費動向調査」では、国内旅行消費額が27兆円弱と暦年最高を記録し、国内延べ観光客数も約5.5億人に達したと報じました。また日本政府観光局によると、2025年の年間訪日外国人観光客数も4,268万人を数えています。順調に回復しつつあるように見える観光産業ですが、復活した今だからこそ取り組みたい、三つの課題が存在すると早野氏は指摘します。
早野氏:第一の課題は「人手不足」です。観光産業はコロナ禍を契機に一定のスキルを有した人材が仕事から離れてしまい、現在も戻りきっていません。また離職率の高さも課題で、現場への負担が増加しています。次に「オーバーツーリズム」も大きな課題になっています。地域の観光受容力を超えた観光客が訪れることで、交通機関のマヒや大行列などにより観光満足度に悪影響を与えていますが、近年は文化遺産・自然遺産へのダメージやゴミ・マナー違反などによる観光地のブランド力低下や地域住民との摩擦が、よく話題になっています。第三の課題は「季節波動」です。観光需要は、盆暮れなどの特定の季節に集中する傾向があります。そのため年間を通した安定的な雇用が成立しづらいため現場に知見が溜まりにくく、生産性や利益率の低さにつながる課題が長年指摘されてきました。観光庁の参考資料「観光産業の利益率」では、旅行業全体の営業利益率は平均1.85%で、他産業よりも極めて低いと報告されています。
これらの解決策として、早野氏は次のように解説します。
早野氏:人手不足はデジタル化で効率を改善し、一人当たりの生産性を向上させる必要に迫られています。オーバーツーリズムは、人流データやAIによる需要予測などを活用して、混雑状況などをデジタルサイネージなどでインバウンドにも分かりやすく提示するなど、旅行者の分散化を図ると良いでしょう。季節波動は、需給データを分析したマーケティング戦略に活路を求めるケースが増えてきています。
観光DXの推進に向けた三段階の取り組み
主任研究員 三輪 夏菜氏
観光庁は、先進的な技術を活用して旅行者の消費拡大や再来訪促進、観光産業の収益・生産性の向上などを図る、「観光DX」を推進しています。
三輪氏:観光DXは、「旅行者の利便性向上・周遊促進」「観光産業の生産性向上」「観光地経営の高度化」「観光デジタル人材の育成・活用」の四つの柱で構成されています。例えば、地域サイトで宿泊や交通の予約・決済をシームレスに行える仕組みや、AIレコメンド※1の活用で快適な旅行を実現し、利便性向上・周遊促進による消費拡大につなげる。また、予約管理システムや自動チェックイン、キャッシュレスの導入などで業務を効率化し、生産性向上で人手不足や収益改善に対応する。さらに、宿泊・交通・購買データをDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)で統合・分析し、課題を可視化して戦略を立案するなど、経営の高度化に活かす。そして、観光DXの推進に欠かせない人材の育成支援にも力を入れていく、というものです。
このように、観光DXの核心はデータの有効活用にあります。しかし、宿泊業をはじめ中小企業が多い観光産業全体のデジタル化はまだ道半ばだと、三輪氏は指摘します。
【図:観光分野におけるデジタル化の広がり】
三輪氏:観光地におけるデジタル化は三つのプロセスに分けられます(図参照)。第一段階が「デジタイゼーション」で、紙の資料やアナログ業務をデジタルデータに置き換えることです。第二段階の「デジタライゼーション」は、そのデジタル技術を活用して業務効率を改善する段階で、例えば予約管理システムの導入などです。最後の第三段階「デジタルトランスフォーメーション(DX)」では、第二段階で得たデータをしっかり分析し、周遊率の向上を図ったり、AIによる旅程のパーソナライズなどを行います。この三つの段階において、日本の観光産業は第二段階で留まりやすい傾向があり、今後は短期的な効率化ではなく、中長期的な視点を持ちながら第三段階へ進んでいけると良いと考えています。
地域一体で進める観光DXの可能性
キャッシュレス決済にも使えるほか、自治体発行の商品券も入手できる「美村パスポート」
観光庁は、観光DXの目的の一つに「事業者間・地域間のデータ連携の強化により広域で収益の最大化を図ることで、地域活性化・持続可能な経済社会を実現」することを挙げています。この事業者間・地域間のデータ連携の一例として、早野氏は次のケースを紹介します。
早野氏:三重県中南部の多気町・大台町・明和町・度会町・紀北町が広域連携する「
このような地域連携を踏まえ、小規模な観光事業者がどのように観光DXを進めていくべきか、三輪氏は次のように語ります。
三輪氏:地域連携による観光DXの精度を高めるには、季節ごとの客数の変動や属性、国籍や嗜好などの顧客データの把握が欠かせません。そのためには、各事業者の協力による情報共有が重要です。例えば、宿泊業者であれば、予約管理システムの情報活用は有効です。加えて、顧客アンケートや駐車場利用者の地域傾向の把握など、日常の中にもデータ収集の機会はあります。こうして得られたデータを分析すれば、ファミリー層が多い時期の家族向け企画や、閑散期の割安プラン設定といった施策が可能です。さらに、土産店でのコミュニケーションツールなどを導入した多言語対応や、飲食店での夜間需要に合わせたメニュー強化など、分析に基づく具体的な戦略の実行が可能になります。
このような、大量のデータ分析やマーケティング戦略の策定には、まとめ役の存在が不可欠です。そのまとめ役として観光庁では、観光地域づくり法人(DMO)を有力な候補として想定していますが、ほかにも自治体、民間主導のコンソーシアム※3なども考えられますので、地域特性に適した形態を検討すると良いでしょう。事業体や自治体の枠を超えた観光地全体で旅行者を迎え、協働して顧客管理や消費拡大に取り組む観光DXは、広域収益の最大化が期待できるだけに、大きな枠組みとしての観光DXに対応できるデジタル化を考えてみてはいかがでしょうか。
- ※1 AIレコメンド
- AIが顧客情報を分析し、最適な提案を自動化すること。
- ※2 API連携
- 異なる事業者やシステムなどが、自動でデータや機能をやり取りできる仕組みのこと。
- ※3 コンソーシアム
- 共通の目標のために企業や組織が作る共同体のこと。
| 会社名 | 株式会社JTB総合研究所 |
|---|---|
| 設立 | 2001年(平成13年)6月21日 |
| 所在地 | 東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター6F |
| 取締役社長 | 風間 欣人 |
| 事業内容 | 交流促進による社会・地域活性化のための調査・コンサルティング・人材育成事業 |
| URL | https://www.tourism.jp/ |
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