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「今すぐ始めるテレワーク」 対応は急務だが、注意すべき点は何か?

新型コロナウイルス感染の広がりで、多くの会社が業務遂行に大きな支障をきたしています。その解決策の一つ、テレワークを導入するにあたり、どのような手順を取ればいいのか、情報通信総合研究所の國井昭夫氏に聞きました。

“やむを得ず”のテレワーク、導入のステップとは?

新型コロナウイルス問題で、テレワークが注目されています。

  • ▲株式会社情報通信総合研究所
    社会公共コンサルティング部
    主任研究員
    國井 昭男氏

     「テレワークには大きく三つの類型があります。まずは移動中や外出先での仕事を想定した『モバイルワーク型』、サテライトオフィスやコワーキングスペースで仕事する『サテライトオフィス勤務型』、そして自宅で仕事する『在宅勤務型』です。それぞれにメリットはありますが、とくに今回は政府の『人と人との接触をできるだけ少なくする』という要請を受けて行う意味から、在宅勤務型のテレワークが中心となるでしょう。つまり『ふだん会社で行う仕事を、家でやる』イメージです」

とは言え、どのようにテレワークを導入すればいいのか分からない企業も少なくないと思います。

 「平常時でのテレワーク導入であれば、まず業務の切り分けから入るのが一般的です。つまり『社内でできる業務かどうか』や『一人で集中すれば、よりすぐれたアウトプットにつながる仕事なのか、それともグループで取り組むことがいい結果を生むのか』を検討し、その上で選択した業務内容をテレワークで行うというアプローチです。しかし今回は“やむを得ず”であり、言葉を換えれば『緊急避難的テレワーク』となります。業務の遂行を第一に考え、まずは『家でできる仕事』を持ち帰り、自宅で作業することが優先となるでしょう」

そうした仕事は、どのように“持ち帰る”ことになりますか。

 「社外から業務システムにアクセスできる仕組みがあれば問題ありませんが、中小企業の多くはそうした仕組みを導入していないと思います。つまり会社のデータや資料を物理的に“持ち帰る”必要があるということです。ここで課題になるのは『セキュリティ』ですが、今回は緊急避難であり、そのあたりには目をつぶるしかないと思います。つまりそうしたデータや資料をUSBメモリなどに入れて持ち帰り、自宅にあるPCを使い作業することになります」

USBメモリやファイルはパスワードで保護して対策を

しかしまったくセキュリティ対策を施さないというわけにもいかないと思います。

 「はい。そこでUSBメモリそのもの、さらにUSBメモリにコピーしたファイルにはパスワードを設定し、万一紛失や盗難にあっても、ファイルの中身を第三者が確認できないようにすべきです。また自宅のPCのOSにはアップデートを正しく適用し、アンチウイルスソフトも必ずインストールしましょう。またご家庭ではほかの家族とPCを共用している方もいらっしゃると思いますが、その場合は業務用に新たにアカウントを設定し、他の利用者から業務で使うファイルを“のぞき見”されないようにすべきです」

例えば製造業や、土木や建設など工場や現場で作業する会社では“仕事の持ち帰り”が難しいと思います。どんな対応が可能でしょうか。

 「『うちはテレワークできる仕事がないから』というご意見も、よくうかがいます。しかしそうしたお仕事であっても、準備や報告のため書類を作成する仕事はあるはずです。テレワークは、必ずしも『100%社外で仕事すること』を求めるものではありません。とくに今回は“人と人との接触を少なくすること”が目的です。『持ち帰れる仕事だけ、自宅でする』『出社しなければならないときだけ、出社する』というスタイルにすれば、“人と人との接触”を大きく減らすことができるでしょう。」

業務を継続しながら、次のステップに進む検討を

そうした緊急避難の次の段階では、どのような取り組みを進めるべきでしょうか。

 「USBメモリやファイルにパスワードをかけているといっても、物理的に持ち帰ることは、やはりセキュリティ上の弱点になります。この“持ち帰り”は1〜2ヶ月なんとか仕事を回す段階にとどめ、次に社内で仕事しているのと同様、もしくはそれに近いセキュリティを目指す仕組みの構築を目指しましょう。つまり社外から業務で使う情報にアクセスできるようにするということです」

具体的にはどのような方法が考えられますか。

 「一つは社内のシステムに外部からアプローチできる“入口”を作り、社内にいるのと同様な環境を実現するものです。社外のPCのディスプレイに社内のPCの画面を転送し、その上で作業するリモートデスクトップがその代表例です。もう一つは、インターネット上のクラウドに業務データ、もしくは業務システムの一部を移し、インターネットに接続できる環境があればどこでも作業できるようにする方法です」

社内にそうした方策に対応できる部署やスタッフがいない場合はどうすればいいでしょう。

 「総務省や厚生労働省、地方自治体がそうした相談窓口を設けています。また導入にあたっての補助金、助成金のアドバイスが受けられるケースもあります。そうしたところにご相談されるのがいいと思います」

テレワークをうまく進める上での課題は「コミュニケーション」の維持

今回の問題によるテレワークは、長く続く可能性もあります。うまく進める上で注意するべきポイントを教えてください。

  •  「まず一番大きな課題は、コミュニケーションだと思います。多くの企業で電子メールをコミュニケーションの手段として使っていますが、メールのやりとりは対面での直接的なコミュニケーションよりも情報が伝わりにくいですし、やりとりが長くなるとその管理も難しくなってきます。例えばクラウドで使えるグループウェアを導入し、共有の掲示板を使うなどの工夫が必要でしょう。またオフィスでの雑談、立ち話、自然と耳に入ってくる他人の会話も、仕事をしていく上でじつは重要な情報になっています。チャットツールなどでそうした環境を擬似的に作ることも検討してみてはどうでしょうか」

コミュニケーションでは、打ち合わせや会議も必要ですね。

 「現在はインターネットを使いテレビ会議、電話会議ができる仕組みが無料もしくは非常に安価に提供されています。テレワークでも社内、部署内の意思疎通や情報共有を行う上で、これらをぜひ活用すべきであろうと思います」

出社、退社がなくなることで、労務管理はどのようにすればいいでしょうか。

 「『テレワークを行うためには、就業規則の改正が必要ではないか』と思っている方も多いでしょう。ただ私は基本的には必要ないと思っています。そもそも中小企業では就業規則に厳しくしばられてお仕事をしているところはそれほど多くはないと思いますし、たとえ始業時刻に出社するという規定があっても、在宅でのお仕事は職務上必要なわけですから、『直行・直帰』と同様に考えればいいでしょう。もしきちんと整備したいというのであれば、社会保険労務士さんなどにご相談されてはいかがでしょうか。なお、これとは別に、仕事をしている姿が見えなくなることで、管理職は『部下がオーバーワークになっていないかどうか』に気を配る必要があると思っています」

テレワークで浮かび上がった課題は取引先も含め解決を

そのほか、テレワークにおける課題はありますか。

 「USBメモリを持ち帰っての仕事はともかくとして、会社のシステムに外部から接続する、クラウドを利用するといった段階では、自宅に光ファイバーなどのブロードバンドが導入されていることが前提となります。もしそうした環境がない場合には、会社がモバイルルーターを契約して社員に貸与する、社員のスマートフォンをテザリング利用した場合に利用データ量に応じた料金を補助するなどの手立てが必要になってくるのではないでしょうか」

今回、“やむを得ず”テレワークを導入した会社は、今後どのようにテレワークに向き合うべきでしょう。

 「新型コロナウイルスの問題は、時間がかかるかもしれませんが、いつかは解決するはずです。しかし同じような感染症、また天災などで、テレワークなしに事業継続が難しくなる可能性は大いにあります。そのときにスムーズにテレワークに移行できるよう、体制作りを進めておくべきでしょう」

その体制作りはどのようなところからはじめればいいのでしょうか。

 「社内のシステムに外部から接続できる仕組みを導入した企業であれば、それがよりスムーズかつ安全に運用できるよう、検討しましょう。また社内システムの更改に合わせ、システム自体をクラウドに設置するなどの方策も考えられます。また今回テレワークを導入したことで、テレワークの支障になった仕事の進め方や社内制度が明らかになったと思います。例えばそれが紙とハンコであれば、社内文書のペーパーレス化を進めるとか、取引先や業界を巻き込み、取引や契約もできうる限りペーパーレス化するなど、さらに進んだ取り組みも考えられるでしょう。新型コロナウイルスの問題は災厄ですが、これをきっかけにテレワークが認識され、生産性の向上などその良さが広がる契機になればと思っています」

※ BCP:事業継続計画(Business ContinuityPlan)の頭文字を取った言葉。企業が、テロや災害、システム障害や不祥事といった危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を用意し、生き延びることができるようにしておくための計画のこと。

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