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-株式会社日本総合研究所/日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)-
デジタル「治療用アプリ」の普及により広まる次世代の医療体制 記事ID:D10025

スマートフォンなどから患者に対して適宜アドバイスや処方を発信することで自己管理を促し、症状の改善に寄与するソフトウェア「治療用アプリ」が注目され、早くも各社の参入が相次いでいます。新時代の治療法として期待される「治療用アプリ」をはじめ、「デジタルヘルス」に関するサービスや技術開発の促進に向けた政策提言などを推進する、日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)事務局である株式会社日本総合研究所の南雲 俊一郎氏に話をうかがいました。

「治療用アプリ」が実現する新時代の医療のかたち

リサーチ・コンサルティング部門
部長兼プリンシパルヘルスケア・ 事業創造グループ担当
南雲 俊一郎氏

 医療・健康の世界で、デジタル技術を活用した取り組みが積極的に推進されています。デジタル万歩計や服薬管理アプリなど、多くのデジタルヘルス製品が市場をにぎわしていますが、現在はエビデンス※1に基づいて開発された、診断・治療・予防緩和などを使用目的とした「デジタル医療」と呼ばれるプログラム医療機器が注目されています。特にスマートフォンなどを活用した「治療用アプリ」は世界的にも開発が盛んで、日本でもニコチン依存症を対象とした治療用アプリ※2が2020年に薬事承認※3、保険適用されて注目されるようになりました。

 「デジタル医療の中でも、実際の治療に使用されるものを『デジタル治療』と定義づけています。中でも直接治療に介入するアプリケーションは『治療用アプリ』と呼ばれ、現在は糖尿病などの慢性疾患や、精神疾患、神経疾患などの治療領域で活用されています」(南雲氏)

スマートフォンなどを介して治療情報、アドバイスを提供

 2010年、世界に先駆け米国でFDA※4の承認を得た、WellDoc社の「BlueStar」(日本では承認に向けて準備中)という糖尿病患者向け治療用アプリを例に仕組みを説明してみましょう。まず治療用アプリは医師によって処方されるので、患者は自分のスマートフォンなどにダウンロードし、日々の血糖値情報を入力します。アプリはその情報を解析し、患者個々の状況に応じた食事のアドバイスや運動を促すメッセージなどを最適のタイミングで発信します。同時に投与すべき適切なインスリン量が報告される仕組みです(図1参照)。従来の単発的な通院に比べて継続的な治療が受けられることや、効果的な自己管理や最適のタイミングでの情報提供が実現することにより、症状改善に結びつくエビデンスが報告されています。このような患者の行動変革をうながす治療用アプリの特性は、生活習慣に原因を求められる疾患の治療と、特に親和性が高いとされています。

 「患者が入力したデータは、クラウドを通じて医療サイドで常時確認できます。患者の状態を連続的にモニタリングし、よりタイムリーな治療が可能になりました(図1参照)。また、従来の療法は一人の医師が一人の患者と相対して行われていましたが、アプリの導入により一対複数の治療が可能となり、現場の効率化や医療サイドの負担削減にも大いに貢献しています」(南雲氏)

合併症、周辺症状などの治療に期待される「治療用アプリ」

 アプリを活用したデジタル治療は、副作用や合併症、周辺症状※5に悩む患者がアプリを通じた医師の診療を受けながら自己管理を行い、悩みを軽減することに特長があると考えられています。

 「例えば主症状が認知症やがんの場合、精神疾患を合併するケースが多く見られます。鬱などが代表的な症状ですが、そのために治療から離脱してしまう方も少なくありません。また、医療サイドが主症状の対応に追われ、周辺症状まで十分なケアを提供できないケースも見られます。そんな時こそ、治療用アプリが役立ちます。治療用アプリは医療サイドの手の回らない部分の問題点を早期発見し、緩和を促しつつ、患者が高いQOL※6を維持しながら治療を受け続けるサポートを行います。さらに主症状に対しても、副作用の危険などから治療できない患者や、現状では充足されない患者に多様な選択肢を提供します。健康管理、治療、リハビリから再発防止まで、疾病にかかわる患者の時系列を継続的に支え、心と身体の健康を応援する特性こそ、治療用アプリの本領だと言えるでしょう(図2参照)」(南雲氏)

アプリの普及に欠かせないクリアすべき課題とは

 スタートしたばかりの日本の治療用アプリですが、認証開発中、研究段階の製品数は増加の一途を辿っています。大手製薬会社はもちろん、百社を超えるベンチャー企業がすでに参入を果たしています。デジタル製品全般でも、がんを対象にした上市※7・開発品目数は2,000、神経精神疾患を対象にした上市・開発品目数も400以上を数えるなど、医療のデジタル化は時代の趨勢になりつつあります。それだけに、普及をより迅速に促進するための、参入しやすいルール、使いやすい環境の構築を今から始める必要がありそうです。

 「デジタル最大のメリットはスピードですので、以前と比べて技術発展は驚くほど速くなりました。反面、陳腐化しやすく製品寿命が短くなったとも言えます。それだけに製品化までの時間をいかに短く抑えるかは開発の生命線であり、薬事承認のプロセスなどに関しても、時代に即した新しいルール作りが必須だと考えています。治療用アプリの先進国ドイツは現在約40品目のアプリが製品化されていますが、安全性が担保できればまず承認し、その後臨床データを蓄積する条件付き早期承認制度を導入したことで、市場は一気に活性化しました。
 また、治療用アプリには患者の情報が蓄積され続けますので、治療レベルは常にアップデートされてしかるべきです。このデジタルならではの長所を活かすためにも、メーカーが積極的に開発に取り組める環境整備が大切だと考えます。承認までのプロセスをデジタルの特性に調和させた、迅速な対応が可能となる審査体制の整備やメーカーの開発にかかる経済的負担を軽減する工夫も、国内普及のポイントになるでしょう」(南雲氏)

 そして将来、個人が複数の治療用アプリを活用する時代を想定したケーススタディも重要です。はたして患者が多くのアプリを使いこなせるのか、また処方する医療サイドが管理しきれるのか。双方にとって各アプリの状況を一目で把握できるインターフェースの整備も必要だと言います。

 「患者、医療サイドの双方にとって使いやすいアプリ環境の整備、複数管理を容易にするプラットフォームの構築など、今目の前にある課題は無限です。そのためにも、医療の世界を超えた多業種連合体による取り組みが治療用アプリ普及には求められています。例えば複数アプリの管理は通信キャリアの知見に期待するなど、オールジャパンでの取り組みがあってこそ治療用アプリの国内普及、国際競争力の獲得が実現すると確信しています」(南雲氏)

 国内初の治療用アプリが薬事承認、保険適用されてまだ2年足らずです。世界的にも黎明期の分野だけに、まだまだ未開拓・未整備の部分があり、今後の進化に期待が集まります。

※1 エビデンス
医療からビジネスシーンまで広く使われているが、ここでは科学的根拠の意味。
※2 ニコチン依存症を対象とした治療用アプリ
ニコチン依存症治療アプリおよびCOチェッカー「CureApp SC」のこと。呼気一酸化炭素濃度が自宅でも毎日確認できる機能などがついた禁煙治療用のアプリ。
※3 薬事承認
医薬品や医療機器などの製造販売を厚生労働大臣が承認すること。
※4 FDA
Food and Drug Administrationの略語でアメリカ食品医薬品局のこと。
※5 周辺症状
認知症の発症により引き起こされる、徘徊、鬱、幻覚などの2次的な行動症状、心理症状。
※6 QOL
Quality of Lifeの略称で、「生活の質」や「人生の質」という意味で、生活や人生が豊かであるということの指標であり精神的な満足度。
※7 上市
初めて市場に出すこと。
会社名 株式会社日本総合研究所
設立 1969年(昭和44年)2月20日
本社所在地 東京都品川区東五反田2丁目18番1号 大崎フォレストビルディング
代表取締役社長 谷崎 勝教
資本金 100億円
事業内容 シンクタンク、コンサルティング、ITソリューションの三つの機能を担う各事業部門により、さまざまな分野で企業や社会が求める創造的な付加価値を創出し提供している。
URL https://www.jri.co.jp/
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