ICTソリューション紹介

-NRIデジタル株式会社-
2023年に注目したいビジネスキーワード「メタバース」が生む新たなビジネスチャンスを探る

クラウド

公開日:2022/12/26

近年、ビジネスの世界では「メタバース」の話題が増えています。特に2021年、Facebook社が「Meta」へと社名変更したことで、メタバースは新時代のビジネスキーワードとして一気に注目を集めるようになりました。メタバースとは何なのか、どのような新しいビジネスチャンスにつながるのか。デジタルを活用した広範な知見と実績で新たなビジネスソリューションを発信する、NRIデジタル株式会社の庭野 幹生氏に話をうかがいました。

仮想空間上に誕生するもう一人の自分と世界

NRIデジタル DXエンジニアリング2
システムエンジニア 庭野 幹生氏

 メタバースとは、多数の参加者がその中で自由に行動できる、ネットワーク上に作られた仮想空間を意味します。meta(超える)とuniverse(宇宙)をかけ合わせた造語で、メタバース内で私たちユーザーは、自分の分身であるアバター※1を操作し、同じ仮想空間に集まった人たちとの相互コミュニケーションを通じて、さまざまな活動が可能となります。
 アバターを介することで、実際には非対面であっても直接会って話をしている感覚が得られるため、現実の日常と同一感覚で交流したり、ショッピングやイベントを楽しんだり、ビジネス活動などが行えます。メタバースとは、オンライン上の仮想空間に生まれた、もう一人の自分と世界だといえるでしょう。

 「現在メタバースにはさまざまな解釈があり、統一的な定義は確立されていません。現段階では『誰もが現実世界と同等のコミュニケーションや経済活動を行うことができる、インターネット上のバーチャル空間』と考えてよいでしょう。よくゴーグルなどを着用して体験する近未来的な3DCG※2空間をメタバースとイメージしがちですが、ゴーグルなどはよりリアルな没入感を得るための道具であり、スマホやパソコンなどでも、メタバースの世界は体験可能です。
 実際にメタバースの概念は、私たちの生活にすでに浸透し始めています。ゲームソフトなどが良い例ですが、世界的に大ヒットしたゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』の、仮想空間上の島で暮らしながら人生を作り上げたり、さまざまな経済活動が生まれるゲーム性は、まさにメタバースの一種と解釈できると私は考えています」(庭野氏)

インフラの進化が実現した仮想空間上の経済活動

ARやVRなどの最新技術がメタバースの可能性を大きく広げる

 メタバースの誕生は意外と古く、考え方自体は1980年代には提唱されており、1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」の中でメタバースの名が登場しました。そして2003年には、メタバースを現実世界でサービス化した「セカンドライフ」がアメリカで誕生し、世界中にブームを巻き起こしました。
 アバターを介して仮想空間に入り、コミュニケーションや経済活動を行う概念は、まさに現在のメタバースそのものでした。しかし、ブームは数年で終焉を迎えてしまいます。当時はまだスマホも普及しておらず、通信速度やパソコンなど通信端末のアクセス環境は現在とは比較にならないほど貧弱な時代でした。セカンドライフを楽しむためには相当な高スペックの機材が必須であり、誰もが気軽に楽しめる世界ではなかったのです。

 「考え方は素晴らしかったのですが、当時の技術が追いついていませんでした。セカンドライフが普及しなかった要因は、時代を先取りしすぎた点にあると思います。しかし、現在は通信速度も格段に進化し、高精細な3DCG技術を誰もが簡単に体験できる環境が整備されました。スマホも普及し、ゴーグルなどの価格もリーズナブルになってきています。何より、関連ソフトウェアのオープンソース※3化が進み、企業の参入障壁が下がったことも大きいですね」(庭野氏)

 また、昨今のコロナ禍がメタバースの普及促進に大きな影響を与えました。テレワークが日常となり、コミュニケーションの手段がオフラインからオンラインへと大きく変換することで、メタバースの持つメリットが広く注目を集めるようになったのです。Meta社の「Horiz onWorkrooms」、Microsoft社の「MicrosoftMesh」などが続々と3Dによるオンラインミーティング空間を実現し、既存のコラボレーションツール※4を凌駕したリアルなメタバース会議機能が話題を呼びました。何より実際にオンライン空間に参加者が一堂に会し、リアルタイムで双方向の会話が成立するため、その場で会議を行っているような没入感を得られることで、注目を集めています。こちらから発信したら相手の返事を待つといった、一方通行的なコミュニケーションで成立している既存のSNSやアプリに対し、メタバースが持つ同期生は、大きなメリットだといえるでしょう。

 「高精彩な3DCG空間内で行われるリアルな会議は、自分が自宅にいることを思わず忘れてしまいます。コラボレーションツールも充実しており、例えば空間内でホワイトボードを共有した議論が可能になるなど、現在普及しているビデオ会議アプリとは、明らかに一線を画しています。世界的なICT企業を筆頭に、このようなコラボレーション機能を有効活用して、メタバース空間内でビジネスを展開し、売り上げの拡大や生産効率の向上などを図る企業も増えていくことでしょう」(庭野氏)

スマホやパソコンで楽しめるメタバース空間が続々と誕生

 国内でも続々と誕生しているメタバース空間ですが、「モール型」「都市型」と呼ばれる多数の小売り店舗でショッピングやイベントなどが楽しめるものや、前述したコミュニケーションに重点を置いた「コラボレーション・会議型」をはじめ、技術の向上や伝承を目的とした「トレーニング型」など、いくつかのカテゴリーに分類されています。特にモール型、都市型のメタバース空間で展開されているEコマース事業には多くの企業が興味を示し、積極的な参画が始まっています。
 リアル世界でEコマースを利用する際には、サイズやデザインなど、自分が本当に期待している商品なのかを注意深く見極める必要があります。しかし、メタバース空間内でのショッピングでは、3DCG化された商品をさまざまな角度から確認できる上、スタッフへの質問も音声やチャットで自由に行えるので、トラブルの確率は低く抑えられます。そして最近ではこの売場から、実生活で使用する商品だけでなく、私たちがメタバース空間内で楽しむための、仮想的な商品を販売する新しいビジネスも生まれ始めているのです。

 「例えば、アバターに着用させる衣装やアイテムをリリースするファッションブランドも登場しています。『仮想世界で生きる自分だっておめかししたい』といった消費者心理を先取りした例といえるでしょう。実際に、ある世界的ブランドのバッグが、驚くほどの金額で売買されるケースもあるようです。今後、商品販売のチャネルや商品そのもののバリエーションがさらに増えるのは確実です」(庭野氏)

 このようなメタバース空間としては、凸版印刷が運営する「メタパⓇ」、NAVERZが運営する「ZEPETO」などが続々登場しています。スマホアプリ「メタパⓇ」は、同時に接続した友人たちとおしゃべりを交わしながら、リアル世界のようにショッピングが楽しめるようになっています(図1参照)。

図1:「メタパⓇ」では、ショッピングモールを巡る感覚で複数の店舗を周遊し、3DCG化された商品をさまざまな角度からチェックすることが可能

 このほか、メタバース企業HIKKYは定期的にVRを利用したメタバース関連のマーケットイベントを開催しています。会場にはトヨタやJR東日本、大丸松坂屋、ビームス、東宝などの企業が名を連ね、商品販売やイベント開催、PR活動などを展開しており、今後のメタバース市場の急成長を予感させる賑わいを見せています。
 また、実際の都市や施設をメタバース上に再現した、「バーチャル渋谷」「バーチャル秋葉原」「バーチャル東京タワー」といったプラットフォーム※5も増えています。「バーチャル東京タワー」では、バーチャルとリアルアーティストが融合したイベントなどを積極的に開催し話題を呼んでいます(図2参照)。また「バーチャル渋谷」は渋谷区と提携していて、将来的にはメタバース内での行政サービスの実現なども期待されています。

図2:バーチャル東京タワーでは野外フェスティバル会場が設けられ、音楽ライブやファッションショーなど、さまざまなイベントが開催されている

国内におけるメタバースの最新動向と可能性

 国内における最新動向に関しては、2022年10月にNTTドコモがグループのXR※6事業の強化を目的とした新会社「NTTコノキュー」を創立し、メタバースビジネスに本格参入したことが話題となりました。同社は独自のメタバース空間「XR World」や、スマホで街頭ARの体験が可能な「XR City」、個人・法人問わず、イベントやショップなどをメタバース空間で開くことができるサービス「DOOR」(図3参照)などを運営しています。

 「『XRコンテンツ』とそれを利用するための情報端末、NTTグループ最大の強みである『通信インフラ』などを統合した、完成度の高いサービスを提供したい狙いがあると思われます。現在、5G環境を活かした一般向けサービスは、ゲームなどに留まっていますので、同社には『高速』『低遅延』『多数同時接続可能』な強みを発揮していただき、遠隔地や多人数の人々とシームレスにつながれるようなサービス展開を期待したいですね」(庭野氏)

図3:「DOOR」は、アバターを通したコミュニケーション機能が標準で用意されたバーチャル空間を、法人・ 個人問わず各種イベントや展示会の開催、バーチャルショップなどに活用できるサービス

 同社の参入により、国内のメタバース市場のさらなる活性化やマーケットの拡大が期待されています。その中で庭野氏は、「メタバースによりビジネスの規模が広がり、市場も今後、ますます拡大されていく」と予想しています。

 「メタバースの世界が体験できるアメリカのゲーム『Roblox』の日常的な利用者は、一日で5,000万人を超えています。またメタバース上で開催された有名アーティストのイベントでは、1,200万人以上のファンが同時接続し、ライブに酔いしれました。リアル世界では大きくても数万人規模のライブが、メタバース上では千万人規模のビジネスへと変貌するのです。
 メタバース市場は現在年43%程度の数字で急成長を続けており、2030年には全世界で6,000億ドル市場に達すると予測されています(米エマージェンシーリサーチ社)。現在、自動車産業全体の市場規模が約3兆ドルと言われていますので、メタバースがいかに将来性豊かな市場であるかが理解できるでしょう」(庭野氏)

製造業を悩ませる技術の継承もメタバースなら低コストで実現

 メタバースは技術の向上や伝承を目的とした「トレーニング型」のものも登場し、特に高齢な熟練者の技術の継承が課題となっている国内の製造業界や、医療業界などから熱いまなざしが注がれています。

 「フライトシミュレーターのような仮想トレーニング機器は以前から存在していますが、メタバースを活用すればより低コストで高度な訓練が可能になるでしょう。医療の世界では、3D空間上で手術のシミュレーションが行える画像処理ソフトウェアがHoloeyes社からすでに登場し、全国の医療機関での導入が始まっています。
 このほか、技術の属人化が各社共通の悩みとなっているモノ作りの世界などでも、メタバースへの注目度が急上昇しています。例えば、イマクリエイト社が開発した『NUP(ナップ)』は、VR空間内で現実のように訓練することに活用ができます。NUPは体の動きを3Dデータ化しVR空間内でシェアすることができるサービスで、例えば熟練者の体の動きを3Dデータ化しVRで再現すれば、訓練者は装着したゴーグル内で展開される映像をトレースし、身体の動かし方を学ぶことで技術や本人にしか分からない感覚が修得できます(図4参照)。このケースはVRサービスですが、今後、メタバース内のサービスとして盛り込まれることが増える可能性があります」(庭野氏)

図4:NUP溶接トレーニング。教えるのが難しく、研修コストも高い溶接実習を改善するためのツールとし て、コベルコE&M社と共同で開発された

新たな世界観だから生まれた今から取り組むべき課題も

 一見順風満帆に見えるメタバースの未来予想図ですが、新しい世界観ならではの課題も発生しています。

 「インターネットの普及によって私たちの生活は豊かになった一方で、プライバシーや著作権の侵害、匿名での誹謗中傷など、さまざまな問題が生まれました。メタバースの世界でも同様に新たな社会課題が発生する可能性があり、それに伴う対応も必要になります。先日、メタバース空間で発生したセクハラ事件が話題を集めました。男性アバターが女性アバターに対して反社会的行為に及んだわけですが、この行為が現実の社会で裁かれるべきか否か、議論を呼んでいるのです。現実社会のガバナンスを、仮想空間にまで適用してよいのか。あるいはメタバース内で通用する独自の法整備が必要ではないのか、議論は始まったばかりです。また、メタバースには労働問題を引き起こす可能性もあります。メタバース空間内でのスタッフはリモートワーカーでよいため、今までは物理的距離という壁で守られていた途上国の人々が、今以上に低賃金で雇われる可能があります。また労働規制はどの定めに準拠するのかなど、解決すべき課題は多々ありそうです」(庭野氏)

メタバースの真価は、やはり使い手の発想により発揮される

 今後、通信速度やマシンの進化スピードはさらに増し、10年以内には現在のスマホやパソコンなどの環境は、3DCGコンテンツの存在感が増してくるだろうと庭野氏は予測しています。メタバースの明るい未来は自然にやって来ると期待は高まるばかりですが、そう単純な話でもなさそうです。

 「メタバースの特性を理解した活用ができなければ、メタバースの利点は活かしきれません。先ほどご紹介したNUPの可能性も、医療や工業の分野に留まりません。例えば野球やサッカー選手の動きを3Dデータ化すれば、子どもたちにとって最高の教師になるでしょう。日本舞踊の名取の動きや陶芸家の所作や手順を保存すれば、未来につながる貴重な資産にもなるのです」(庭野氏)

 メタバースの可能性は使い手の発想次第であると庭野氏は指摘します。それぞれの業態に適した活用法に出会えた時、メタバースはゲームチェンジャーとしての真価を発揮し、新たなビジネスチャンスをもたらしてくれることでしょう。

※1 アバター
インターネットなどの仮想空間上に登場する自身の分身となる存在やキャラクターのこと。
※2 3DCG
3次元空間でのコンピューターグラフィックスの略称。
※3 オープンソース
ソフトウェアを構成しているプログラム「ソースコード」を無償で一般公開すること。
※4 コラボレーションツール
組織やチーム内のコミュニケーションや情報共有をサポートするツールのこと。
※5 プラットフォーム
ある機器やソフトウェアを動作させるための土台となる環境のこと。
※6 XR
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった先端技術の総称。
会社名 NRIデジタル株式会社
設立 2016(平成28)年8月1日
本社所在地 神奈川県横浜市西区みなとみらい4-4-1 横浜野村ビル
取締役会長・CEO 増谷 洋
代表取締役社長・COO 雨宮 正和
資 本 金 4億9,000万円
事業内容 野村総合研究所(NRI)グループのデジタルビジネス専門会社。デジタル化戦略の構想から、先端ITソリューションの選定・構築、事業の実行支援、プロジェクト全体の検証・改善に至るまで、顧客企業のDXをトータルに支援している。
URL https://www.nri-digital.jp/
PDF版はこちら

関連記事

ICTコラム

PAGE TOP