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-神戸市役所-
「スマート市役所」の実現へ 神戸市が挑むデジタル業務改革と“ガブテック”

記事ID:D10024

複雑な書類の作成・交付など行政サービスの大半は、そのプロセスに非効率なものが散見され、市民にも職員にもムダな手間と時間を要しています。こうした課題の解決に神戸市はいち早く向き合い、「ガブテック(GovTech)」という取り組みを推進し、成果を上げました。今回は、神戸市がどのように「ガブテック」に取り組んできたのか、話をうかがいました。

きっかけは震災からの復興 職員減をカバーする業務のデジタル化

(写真左から) 企画調整局 デジタル戦略部 ICT業務改革担当 係長 元村 優介氏
企画調整局 デジタル戦略部 ICT業務改革担当 係長 稲田 真也氏
医療・新産業本部 新産業部 新産業課 イノベーション専門官 織田 堯氏
企画調整局 デジタル戦略部 ICT業務改革担当 係長 田中 純子氏

 「ガブテック」とは、「政府(ガバメント)」と「テクノロジー」を組み合わせた言葉で、行政自身が主体となることもありますが、多くは民間のスタートアップ(新規事業を立ち上げる企業)などと行政が組み、ICTによって行政の効率化と行政サービスに改革をもたらすこと、もしくはそのサービスを指します。2017年以降、神戸市は「Urban InnovationKOBE」(以下、UIK)や働き方改革の推進など、国内でいち早くガブテックに取り組みました。ICT業務改革担当の稲田氏は、「神戸市が働き方改革に取り組んできた背景は阪神・淡路大震災までさかのぼります」と解説します。

 「神戸市は震災後の財政危機に対応するため、震災後20年間で職員数を約3分の2まで削減してきました。職員一人あたりの業務量が増加する中でも行政サービスを維持し、新たな行政課題に対応するために、働き方改革が必要でした。2017年に『働き方推進チーム』を設置し、ムダな業務を『やめる』、やめられないのであれば『へらす』、へらせなければ業務のプロセス・発想を『かえる』という観点で働き方を見直してきました」(稲田氏)

 そこで、神戸市はペーパーレス化やウェブ会議の導入、グループウェアによる情報共有&コミュニケーションの効率化を次々と実現させたほか、窓口における業務負荷軽減にも取り組みました。

 「例えば、これまで窓口で対応していた市民一人ひとりの問い合わせについて、AIチャットボット※1やFAQ検索システム※2を活用することで対応力を強化するとともに、職員の負担を軽減していきました」(田中氏)

 このほか神戸市は、自治体としてはいち早く「kintone」のようなアプリ開発ツールを導入しました。このツールを用いることで、チーム、部課単位で業務内容、課題に即したアプリを自分たちで開発し、業務を効率化する環境が整い、同時に職員のデジタル化による働き方改革への意識を向上させています。
 さらに、2021年には神戸市への申請や届け出の手続が自宅でできる電子申請システム「e-KOBE」を稼働させており、2025年までに市民が窓口を訪れることなく行政手続きの7割を実施できることを目標とし、対面手続きを必要最小限にできる「スマート市役所」の実現を目指しています。

市民、企業、行政すべてにメリットがある神戸市流の課題解決術

UIKの課題解決の一つ、子育て情報サイト「ためまっぷながた」では、長田区内で約20の子育てサークルが月50~60回開催す るイベントの告知を確認できます

 職員によるデジタル化と並行して進められた「UIK」担当の織田氏は、「2016年に久元 喜造市長が視察でサンフランシスコを訪れた際、さまざまな行政課題をデジタル化で解決・解消できるスタートアップを募集する取り組みを目の当たりにし、この行政モデルを持ち帰ったことが『UI K』の始まりです」と説明します。以降、神戸市はUIKにて5年間で47課題を取り上げてきました。

 「期間は1課題につき4ヵ月間で、まず各課が課題を公示し、1ヵ月ほど企業の提案を募ります。その後、各課の審査・面談を経て採択された企業は、1ヵ月目でプロジェクトメンバー同士の認識合わせの後、2ヵ月目か3ヵ月目から実証、4ヵ月目に振り返りや、今後の本格導入などに向けてのアクションというような流れで取り組みます。当初は、行政とスタートアップでは発想の組み立て方、物事への取り組み方がまったく異なるケースもありましたが、働き方改革でデジタル化への理解が高まったことなど、年度を重ね相互理解が高まったことで、より促進される流れが生まれました」(織田氏)

 各課の課題は、「区内の育児に関する情報を市民へ効果的に届けたい」「中学校の体育館を貸し出せるように開放したい」など多岐にわたりました。これに対し、例えば前者の課題には、子育てサークルなどのイベント情報を集約することで、行きたいイベントを簡単に見つけられるアプリを作っている企業と組み、実証をしました。これにより、育児に悩むお母さんたちから、同じ悩みを持つ仲間との出会いの場を簡単に探せるようになったと喜ばれています。また、後者の課題には体育館の利用予約受付機能と校門・体育館の電子キー管理機能を一体化したシステムを実証しました。そのおかげで、施錠や解錠などを遠隔で操作できる仕組みで実証することができ、実証参加者にも好評をいただいております。結果的に次年度の導入に向けた予算も確保でき、当初より導入校数を増やすこともできました」(織田氏)

スマート市役所実現へ向けた神戸市の取り組み

フリーアドレスを導入し、脱固定電話化も進めた庁内の様子

 庁内の働き方改革とUIK、二つの柱で推進してきた神戸市のガブテックは、さらなる課題を抱え変換点を迎えると考えられています。

 「庁内の環境も意識も変化し、ある程度の課題なら職員がアプリを開発して解決できるようになりました。そのため、今後は業務改善以外、例えばサービスの周知や、情報をいかに届けるかなど発展的な課題の磨き上げが急務だと考えています」(織田氏)

 また神戸市は、「スマート市役所」実現の重要な布石として、昨年、働き方改革の一環で本庁舎一号館の固定電話をモバイル電話に置き換えました。

 「フリーアドレスを活用するには、庁内の脱固定電話化が必須だと思っており、その意味でモバイル化は重要であると同時に、緊急時の対応にも役立ちます。例えば昨年、新型コロナウイルス関連の電話窓口を急遽設置する必要に迫られましたが、モバイル化のおかげで配線工事などを気にせず150台の電話を1ヵ所に集められました。こうした機動性を求められる対応にも役立つほか、災害時などのBCP対策※3の観点でも有用なはずです」(元村氏)

 働き方改革と行政サービスの向上を実現してきた神戸市のガブテックは現在、国内の市町村から問い合わせや視察が相次ぐなど、本格実行から5年を経てますます注目を集めています。ICTの活用で業務の効率化を図り、サービスの質を向上させる必要性が分野・業界を問わず求められており、神戸市のガブテックに対する取り組みは、今後、全国へと波及していくことが考えられます。

※1 AIチャットボット
LINEなどのチャットツールに投稿された質問をA Iが解析し、データベース化された回答を即座に返信するサービス。
※2 FAQ検索システム
「よくある質問」とその回答をデータベース化し、利用者がキーワードやカテゴリーを入力することで、質問とその回答が表示されるサービス。
※3 BCP対策
自然災害などの非常事態が発生した時に、業務を復旧・継続していくための対策。
PDF版はこちら
組織名 神戸市役所
所在地 兵庫県神戸市中央区加納町6-5-1
URL https://www.city.kobe.lg.jp/
YouTube https://www.youtube.com/user/kobecitychannel

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