事例系トピック

企業同士の「マッチングの場」を提供、AI&IoTで新たなビジネスの創出を 広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム

広島県は、課題を抱える企業と技術を持つ企業をマッチングし、AI&IoT分野での3年間にわたる実証実験を支援する「ひろしまサンドボックス」を通じて、課題解決の取り組みを進めています。

最先端のデジタル技術を活用して“共創”により課題解決を目指す「ひろしまサンドボックス」

デジタル技術の活用による業務効率化は、コスト削減だけでなく、労働時間短縮など、働く人の環境改善にも大きく貢献します。ところが、有益なデジタル技術をどのような企業が持っているのかを調べることは、これまで大きなハードルでした。しかし今、そのハードルを企業間の協力、いわば“共創”により乗り越えようという試みが、広島県で進められています。

「広島県はモノづくりが盛んな県として知られていますが、近年ではそうしたモノづくりに関わる方々に、AIやIoTなど最先端のデジタル技術を取り込み、より一層進化していかなければ、時代に取り残されてしまうという危機感も共有されてきました。しかし、チャレンジしたくても、ROI(費用対効果)が不明確な中で投資するリスクや、技術や知見のある人材の不足などがネックとなり、なかなか踏み切れずにいる企業が多い状況でした。そこで県として、こうしたコストをカバーし、企業同士をマッチングする『ひろしまサンドボックス』を立ち上げたのです。具体的には、3年間で10億円規模という資金を県が用意し、公募から選ばれたプロジェクトを支援し、AIやIoTを活用してさまざまな課題を解決する実証実験を進めていくというものです」(北岡氏)

広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム 地域産業デジタル化推進グループ グループリーダー 北岡 慎也氏

▲広島県 商工労働局
イノベーション推進チーム
地域産業デジタル化推進グループ
グループリーダー
北岡 慎也

サンドボックスという名称はそのまま“砂場”を意味します。つまり、皆が集まって作ってはならし、失敗したらアイデアを練り直して何度でもチャンレジすることが可能です。また、公募には、条件が付いています。それは課題を抱える企業、その課題を解決できる技術を持つ企業などが4者以上でコンソーシアム(共同事業体)を組んで応募すること、そして、そのうち少なくとも1者は広島県内の企業などであることです。

「県が資金を出しますので、広島発で何か県に残るものを創ってほしい。ただ、県内の企業だけに限ると、技術やアイデアにも限界があるため、県内企業と県外企業のコラボレーションを想定したわけです。また、県内で課題を抱える企業、技術を持った県外の企業のどちらにとっても、自分たちだけでパートナーを探すのは困難です。そこで『ひろしまサンドボックス推進協議会』を作り、課題の提示と技術の提案を行うイベントを開催することで、企業同士のマッチングを進めました」(北岡氏)

3年間にわたり実験と検証を繰り返すスキームが、多数の応募につながる

公募にあたっての記者発表は、2018年5月に東京・渋谷区で行いました。そこにはウェブメディアを中心に、何十社もの取材陣が集まりました。

「東京を発表会場としたのは、首都圏には技術に長けた企業が集まっていること、そして全国各地に情報が伝わることを期待したからです。さらに首都圏で行われたイベントにも複数参加するなどしてPRを図り、大きな手応えがありました。公募には第1次、第2次合わせて89件もの提案があり、審査により、2018年8月に5件、12月に4件、合計9件が『優秀提案者』として選定され、現在実証実験が進んでいます。広島県としては、できるだけ幅広い分野での実証実験を考えていましたが、その期待どおり、実際に採択された提案は、観光、農林水産業、交通、健康・福祉など多岐にわたっています。行政が行う事業は一般的に年度に区切られ、その年度内に一定の成果を出すことが求められるため、今回の『3年間で10億円規模』『何度でも試行錯誤できる』という方法は異例です。単年度ではなく、3年間にわたり実験と検証を繰り返すというスキームが、89件という多数の応募につながったと考えています」(北岡氏)

多様な企業や人材の集積に向けて

最後に、このプロジェクトの3年後の「ゴール」についてうかがいました。

「まず実証実験を通じて、一つでも二つでも事業化可能なビジネスモデルが出てくることを期待しています。県としては、そうした新たなビジネスが発生し課題を解決することで、県内の経済が活性化することを期待しています。さらに、『広島県が面白いことをやっている』と認知され、技術や知見を持った企業や研究者などが広島に興味を持って、多様な方々に参画いただければと思っています。現在、県では、これらの実証実験に取り組んでいるコンソーシアムに新たなメンバーが加入することも推奨しています。協議会もマッチングやサポートを継続しており、現在は県内外から650を超える会員が参加して新たなチャレンジを進めております」(北岡氏)

「ひろしまサンドボックス」選定事例「宮島エリアにおけるストレスフリー観光」

廿日市市 環境産業部
一般社団法人 宮島観光協会
西日本電信電話株式会社

AI、IoTで宮島の駐車場問題、人混み問題解決を目指す

日本三景の一つとして知られる広島県廿日市市の宮島は、近年、観光客の増加によるさまざまな問題が浮かび上がっています。

「宮島島内は、休日になるとフェリー乗り場周辺の駐車場が早い時間に満車になり、空車待ちの列が国道2号線に延びて大渋滞を引き起こしています。これは観光客だけでなく、地域住民、さらには国道2号線を利用する物流にも大きな影響を与えています」(田宮氏)

「休日の宮島は人であふれ、通り抜けることもままならない状態です。紅葉の時期はロープウェーに観光客が集中し、長い待ち時間ができます。観光協会が掲げる『宮島で、安全・安心・快適に過ごしていただく』というポリシーの実現のため、これは解決しなければならない課題でした」(上野氏)

(左)廿日市市 環境産業部 観光課 専門員 田宮 憲明氏(右)一般社団法人 宮島観光協会専務理事 兼任 事務局長 上野 隆一郎氏(中央)西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 公共ソリューション営業部門 公共営業担当 山本 麻祐子氏

▲(左)廿日市市 環境産業部
観光課 専門員
田宮 憲明
▲(右)一般社団法人 宮島観光協会専務理事
兼任 事務局長
上野 隆一郎
▲(中央)西日本電信電話株式会社 広島支店
ビジネス営業部 公共ソリューション営業部門
公共営業担当
山本 麻祐子

これらの課題をデジタル技術により解決すべく、廿日市市、宮島観光協会、NTT西日本、広島修道大学、株式会社ウフルがコンソーシアムを結成して「ひろしまサンドボックス」に選定された提案が「宮島エリアにおけるストレスフリー観光」です。

AI、IoTによる実証実験で解決策を検討

「本土・宮島口側の駐車場問題、対岸・宮島側の人混み問題の双方で、それぞれAI、IoTを使った解決策を検討し、実証実験を進めています。駐車場問題解決に向けては、まず簡易型のセンサーによる駐車場混雑状況の把握と周知を図れる仕組み作りを目標としました」(山本氏)

宮島の駐車場は海側と山側にありますが、海側で最も遅く満車になると予想される駐車場に自動車のタイヤが踏むことで通過台数をカウントするセンサーを新規開発して取り付け、データ収集を開始しました。今後は入庫車/出庫車の差分で満空情報を判定して駐車場混雑状況を“見える化”し、満車になった時点で山側の駐車場への誘導を行います。

「さらに国道2号線にカメラを設置し、渋滞の状況を撮影した映像や、ナンバー情報取得に対応したカメラで取得した地点間の通過時間を配信する取り組みを今後の実施事項としています」(山本氏)

利用者は宮島観光協会の公式LINEアカウントと“友だち”になることで、こうした情報をスマートフォンで取得できる予定です。

「専用のアプリ導入も考えましたが、インストールすることがハードルになると考え、QRコードからLINEへアクセスできる簡易な方法を選択しました。将来的にはAIによる判定で渋滞通過時間や特定日のおすすめアクセス手段の提供、さらには近隣にあるショッピングセンターの駐車場などと連携したパークアンドライド※にも活用できればと思っています」(山本氏)

デジタル技術の活用で“線の観光”から“面の観光へ”

宮島島内においては、混雑情報や観光情報を提供し、観光客の分散、そして観光をゆったりと楽しめる環境作りを目指しています。表参道の商店街、厳島神社出口、宮島ロープウェーなどにカメラを設置し、情報をスマートフォンに配信。また島内4ヶ所のトイレにドアの開閉を感知するセンサーを取りつけ、混雑状況を配信、「今どこのトイレに行けば待たずに済むか」を知らせることもできます。

「今回の実証実験では、カメラによる顔認証で性別・年代などの属性情報を取得するとともに、同一人物の判定により島内滞在時間も取得し、満足度を推定するために表情や感情を読みとるなどの試みも行っています。またチャットボット(テキストや音声を通じて自動的に会話するプログラム)を使った“おすすめ”の紹介も、今後スタートする予定です。将来的にはAIによる予測情報により、お客さま一人ひとりに合った島内周遊が出来るようになるのが目標です」(山本氏)

「情報取得で混雑や待ち時間を避けることができるようになれば、現在のフェリー乗り場から厳島神社を往復するという“線の観光”から、宮島全体を楽しむ“面の観光”に自然にシフトしていただくことになるでしょう。そして新しい魅力に触れ、一層ご満足いただけると思います。そして二度、三度と宮島にご来訪いただくことが、宮島口、宮島双方の観光業の発展に寄与するはずです」(上野氏)

  1. ※パークアンドライド:出発地から自動車で移動、途中の駐車場に自動車を停めてから電車・バスなどの公共交通機関で目的地へ向かう方法。



ひろしまサンドボックスQRコード

利用者は左記QRコードより宮島観光協会の公式LINE※アカウントと“友だち”になることで、各種観光情報をスマートフォンで取得できます。
※スマートフォン用コミュニケーションアプリ「LINE」は、LINE株式会社が提供するアプリです。LINEのご利用設定は、利用者さまのご判断でお願いします。


ひろしまサンドボックス
「ひろしまサンドボックス」
AI、IoT、ビッグデータなどの最新のテクノロジーを活用し、広島県内の企業が新たな付加価値の創出や生産効率化に取り組めるよう、技術やノウハウを保有する県内外の企業や人材を呼び込み、さまざまな産業・地域課題の解決をテーマとして共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場。