ICTコラム
ノーコード・ローコード開発とは記事ID:D40067

近年、デジタル人材の不足は社会全体の問題となっており、特に中小企業において深刻です。そんな状況の中、プログラミング言語の知識を必要としないシステム開発を可能にした、ノーコード・ローコードツールの普及が進んでいます。本連載(全3回)の第1回は、ノーコード・ローコード開発の基本について解説していきます。
中小企業こそノーコード・ローコード活用を
「働き方改革」という言葉が使われ始めてしばらく時間が経ちますが、日本企業の、特に中小企業の現場においては依然として従来の働き方から脱却できていないようです。これは製造業、建設業、流通業、サービス業などすべての業種業態に言えることで、対応が待ったなしの状況です。
そんな中において、現場での課題解決の手段として期待を寄せられている技術の一つがデジタルツールです。各種クラウドサービスやパッケージソフトウェア※1などを利用されている企業も見受けられますが、中には自社の働き方にマッチしないケースもあるようです。こうした悩みを抱える企業において、ノーコード・ローコードツールの活用と選択肢が広まりつつあります。
アプリ(特定の目的のために作られたソフトウェア)を開発するには、プログラミングの知識が求められるのが一般的です。また、アプリの開発を外部のIT企業に任せるとなると、かなりのコストが発生することもあり、中小企業におけるDXの妨げになっています。
それに対してノーコードツールは、「コンピューターへの指示の記述」=「コード」を書かずにアプリを開発できるため、プログラミング言語の知識を必要とせず、最近では企業だけでなく市役所など自治体の一般職員でもサイボウズ社のキントーンなどの安価なノーコードツールのサービスを活用して、業務に必要なアプリを自ら開発しています(ローコードツールは若干のプログラミングが発生します)。このようなサービスは、ノーコード・ローコードツールを提供するベンダーのクラウドサーバー内でアプリ開発ができるため、専用アプリなどをインストールすることなく、普段使用しているパソコンやタブレットのブラウザでクラウドにアクセスして作業できる手軽さもあります。
そのため、DXを進めたくても十分なお金がない、さらには自社内にデジタルに詳しい人材がいないといった悩みを抱える中小企業にとって、ノーコード・ローコードツールはまさに救世主と言えるでしょう。ゼロからシステムを設計し、プログラミング言語によるアプリ開発を行う「プロコード」と「ノーコード」「ローコード」との違いや特徴については下記の図をご参照ください。
ノーコード・ローコードの強みと弱み

図:プロコード・ノーコード・ローコードの特徴
現在、国内には200種類以上のノーコード・ローコードツールが存在すると言われています。身近なところでは、ホームページを制作するアプリの多くはノーコードツールの一種と言えます。インターネット黎明期の1990年代、ホームページ制作といえば一からプログラミングするのが普通でした。しかし、現在では専用のアプリ(サービス)に用意されたテンプレート(ひな形)から選択して配置し、ホームページを制作する方法が一般的になりました。このように実は無意識のうちにノーコードツールを活用しているケースも少なくありません。
また、小学校でのプログラミング学習で使用される「Scratch(スクラッチ)」というアプリは、米国マサチューセッツ工科大学のメディアラボが無償で公開している「ノーコードツール」であり、まさに日本の小学生らは「ノーコードネイティブ」と言える状況にあります。このようにノーコードツールは私たちの身近な生活の中でも活用されるようになっているのです。
このようにノーコード・ローコードツールは、文系出身のデジタルが苦手な方にとっても容易に業務アプリ開発ができ、月額数百円から利用できるなどメリットがあります。その上、業務を効率化するアプリ開発用からホームページ制作用まで、さまざまな用途のツールが存在しているのですが、いくつかのデメリットがあるのも事実です。以下に弱みを挙げてみました。
(1)高度なデータ処理や複雑な計算
金融機関のリスク管理システムでは複雑な数式が使われています。そうした特定の業界固有の数値計算や複雑な手順、データ処理が必要な場合、ノーコード・ローコードツールは不向きです。
(2)複雑なユーザーインターフェイス
ノーコード・ローコードツールではテンプレートを利用しているケースが多く、画面作りがある程度固定されてしまうため、利用者が操作する画面を細かくカスタマイズするなど「ユーザーインターフェイス(UI)」が複雑なアプリ開発には不向きです。
(3)独自のワークフローやビジネスルール
保険業界での保険金請求プロセスや、製造業におけるカスタムの品質管理フローなど、独自のビジネスルールや複雑なワークフローがある場合には不向きです。
(4)特定のハードウェアやデバイスとの連携
工場の設備管理システムなど特定のIoTデバイスやハードウェアとの連携が必要な場合、ノーコード・ローコードツールの範囲を超えてしまいます。
(5)高度なセキュリティ要件
金融機関のマネーロンダリング対策システムや医療データのHIPAA※2準拠アプリなど、業界規制が厳しい分野ではセキュリティ面での高度なカスタマイズが求められ、ノーコード・ローコードツールでは不十分と言えます。
生成AIがアプリ開発の世界を変える
近年、生成AIの進化が著しく、文章や画像、音声の生成だけでなく、アプリ開発の現場にも大きな変革をもたらし始めています。注目すべきは、生成AIによるコード自動生成の精度とスピードです。ChatGPTのような大規模言語モデルは、人間の自然言語から即座にコードを生成し、しかもその品質も実用レベルに達しています。
例えば「顧客管理のアプリを作りたい」という要望に対して、基本的なUIやCRUD(Create:作成、Read:読み取り、Update:更新、Delete:削除)機能を備えたコードを即座に提示できます。従来なら数日かかっていた作業が、数分で試作できる時代が到来しています。さらに、生成AIはノーコード・ローコードツールとの親和性も高く、ユーザーが自然言語で「こんな機能がほしい」と伝えるだけで、AIがツール内に用意されている部品を適切に組み合わせて利用画面を構築してくれます。
生成AIやノーコード・ローコードツールは、アプリ開発のあり方そのものを根底から変えようとしています。私たちは今、その歴史的転換点に立ち会っているのかもしれません。
- ※1 パッケージソフトウェア
- 企業の業務効率化などの目的に応じた機能を持つ、あらかじめ開発され販売されているソフトウェアのこと。
- ※2 HIPAA
- Health Insurance Portability and Accountability Actの略。米国の医療情報に関する法律で、患者の個人情報を保護するための規則を定めたもの。

複数の外資系ITベンダーやソフトバンクの首席エバンジェリスト、富士通の常務理事などを経て、現在はアステリア社のCXO(最高変革責任者)として幅広く活動中。2022年9月には自らが設立した一般社団法人ノーコード推進協会の代表理事にも就任し、ノーコードの日本国内への普及にも努めている。AIなどの最先端テクノロジーを得意分野とし、年間100回を超える全国各地でのDX関連の講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。
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