ICTコラム

偽・誤情報対策としてのリテラシーとファクトチェック

記事ID:D40071

本連載(全3回)の初回は「偽・誤情報とは何か。なぜ拡散するのか」について、バイアス(偏り)やアルゴリズム(記事や動画がおすすめされる仕組み)を中心に解説しました。人間の本性とデジタル時代の本質に関わる根深い問題ですが、第2回となる今回は個人でも実践できる対策として、メディア情報リテラシーとファクトチェックについて解説します。また、行政による取り組みや法律も紹介します。

メディア情報リテラシーとは

 メディア情報リテラシーとは、新聞やテレビ、ソーシャルメディアなど多様なメディアや、そこで流通する情報の特性を理解し、適切に吟味して活用する能力を意味します。現代の情報環境を鑑みると、偽・誤情報についての知識やバイアス、アルゴリズムへの理解はメディア情報リテラシーと直結します。
 ところが、日本ファクトチェックセンター(JFC)が電通総研と2025年に実施した「情報インテグリティ調査」(図1参照)では、前回で説明した基本的な概念に対する理解は広がっていませんでした。確証バイアスについて「人に説明できる程度に詳しく知っている」「人に説明はできないが、概念を理解している」は合わせて16.3%、エコーチェンバー(反響室)は10.0%、フィルターバブル(泡の膜)は8.3%にとどまりました。これでは多くの人が、特性や危険性を理解せずにSNSを使っていると言わざるを得ません。そもそもメディア情報リテラシーに関する科目が教育カリキュラムに入っておらず、また、社会人が学ぶ機会が少ないことが課題となっています。

【図1:情報環境を理解するための必須知識が普及していない】出典:情報インテグリティ調査2025

自分自身も吟味するクリティカル・シンキング

 メディア情報リテラシーの根幹にあるのは、「クリティカル・シンキング」です。直訳すると「批判的思考」ですが、情報を表面的に批判することではなく、情報の背景や根拠をじっくりと吟味して深く理解することが本質です。
 人間の脳の働きには、直感的に自動で働く「システム1」と、意識的に動かす必要がある「システム2」があると言われます。例えば、信号が青になったら大半の人が何も考えずに歩き出すはずです。「信号が青になったから法律的に横断歩道を渡ってよいので、右足から動かそう」などと考える人はいません。これが自動的に働く「システム1」です。
 私たちは、日常的に視覚や聴覚、嗅覚、触覚などから大量の情報を受け取っています。その一つひとつを頭で意識的に考えて行動を取る時間はありません。多くのことは、システム1が自動的に処理をしてくれます。一方で、複雑なことを考えるために意識的に動かす必要があるのが「システム2」です。
 この情報の発信者は誰なのか、背景や根拠は何か。直感的に「正しいに違いない」と考えたのは自分のバイアスのせいではないか。これらをじっくりと吟味するのが「システム2」の働きであり、クリティカル・シンキングであると言えるでしょう。

ファクトチェックで「事実」を検証する

 世の中に大量に溢れる偽・誤情報に対して、まずは情報を吟味するクリティカル・シンキングを身につけることが重要です。では、情報を吟味する際に、具体的に何をどう調べると真偽を見分けることができるでしょうか。そこで必要となるのがファクトチェックの技術です。ファクトチェックとは「事実の客観的な検証」です。誰かの「オピニオン=意見」を検証するのではなく、ある情報が客観的な事実として正確かどうかを調べます。
 例えば、「雲が出ている。雨が降りそうだ。傘を持とう」という投稿があったとします。ファクトチェックできるのは「雲が出ている」という部分です。これは空を見れば、雲が出ているかどうかを客観的に調べることができます。雲が出ていなければ「誤り」、少ししか出ていなければ「不正確」と言えます。
 しかし、「雨が降りそうだ」というのはその人の推測であり、「傘を持とう」というのは判断です。雲がほとんど出ていなくても、「雨が降るかもしれないから、傘を持っていこう」と判断するのは、その人の自由です。

まずは「三つの確認」を

【図2:三つの確認「発信源」「根拠」「関連情報」】出典:日本ファクトチェックセンターの図より作成

 具体的な手法については日本ファクトチェックセンター(JFC)のサイトで無料公開している「JFCファクトチェック講座」を参考にしてください。ここでは、基本となる「三つの確認」(図2参照)を説明します。
 第1に「発信源の確認」です。その情報を誰が発信しているのか、発信者はその情報を知りうる立場なのかを確認することです。次に「根拠の確認」です。その情報の根拠は何か、信頼するに足る根拠なのかを確認することです。そして、最後に「関連情報の確認」です。その情報に関係する公的機関や報道機関、専門家はどう発信しているかを確認しましょう。
 世の中の情報の大半は、この三つを確認するだけで信頼性をある程度判断できます。逆に言えば、偽・誤情報の大半は、この基本の三つすら確認せずに受け入れる人が多いからこそ拡散しているのです。

デジタル・ポジティブ・アクションと情プラ法

 総務省はこういった能力の向上を目指した官民連携の意識啓発プロジェクト「デジタル・ポジティブ・アクション」で、偽・誤情報の実態調査や教材の紹介、啓発イベントなどに取り組んでいます。しかし、偽・誤情報の問題を解決する魔法の杖はなく、官民問わず、関係するすべての人たちの努力が必要とされます。個々人のメディア情報リテラシーの向上やファクトチェック力の強化もその一つです。
 公的な取り組みで重要なものの一つが、法的な規制です。「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」は、ソーシャルメディアなど大規模プラットフォーム事業者を対象に、違法・有害情報への対応を強化する目的で制定されました。偽・誤情報がただちに違法・有害情報と認定されるわけではありませんが、例えば、誹謗中傷などは偽・誤情報混じりで拡散することが少なくありません。第3回はこのような法律も踏まえつつ、偽・誤情報や誹謗中傷に関して、企業としてのリスクと対策について解説します。

古田(ふるた) 大輔(だいすけ)

早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞記者、BuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立し、ジャーナリストとして活動するとともに報道のDXをサポート。2020-2022年にGoogle News Labティーチングフェローとして延べ2万人超の記者や学生らにデジタル報道セミナーを実施。2022年9月に日本ファクトチェックセンター編集長に就任。そのほかの主な役職として、デジタル・ジャーナリスト育成機構事務局長など。早稲田大、慶應大、近畿大で非常勤講師。ニューヨーク市立大学院ジャーナリズムスクール News Innovation and Leadership 2021修了。

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