ICTコラム

ロボット進化と汎用化のキー「ロボット基盤モデル」が注目を集める背景

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我が国では少子高齢化の進展に伴い、人手不足が深刻化しています。その解決策として工場のラインだけでなく、私たちの身近な家庭や医療、介護の現場などでもロボットの活躍が期待されています。従来のロボットは決められた動作を単純に繰り返すものと捉えられてきましたが、AIという頭脳を得て進化を遂げようとしています。本連載(全3回)の第1回は、ロボットの進化の鍵となるロボット基盤モデルとその背景について解説します。

普及するさまざまなロボット

 ロボットは大きく「産業用ロボット」と「サービスロボット」に分類されます(図1参照)。
 産業用ロボットは、分かりやすく言えば産業用途のロボットで、工場などで作業の自動化・効率化を目的としたロボットです。産業用ロボットは与えられた動作を正確かつ高速に長時間繰り返すことが得意です。1960年代に米国で初の産業用ロボットが開発され、主に自動車の組み立て(溶接、塗装など)に利用されました。
 その後、ロボットの腕や足を動かすモーター技術や、ロボットを制御するコンピュータ技術の進歩で、小型の電子製品の組み立てなどの精密作業にも対応可能となりました。近年では食品工場での食品の盛り付けや、医療現場での検体検査や薬品の調合・計量など、活躍の場が広がっています。産業用ロボットは日本のものづくりを支える縁の下の力持ちとして、生産性向上や品質の安定化に貢献してきました。
 一方のサービスロボットは、産業用ロボットを除き、人や設備の役に立つ作業を行うロボットです。人々の生活を代行・補助し、効率化・省力化・快適性向上が目的とされます。例えば、受付・案内ロボット(例:Pepper)、ロボット掃除機(例:ルンバ)、ペットロボット(例:aibo)があります。そのほかにも、農作物の収穫補助、手術・リハビリ支援ロボットなども開発されています。
 近年では人手不足への対応や、コロナ禍を契機とした非接触ニーズへの対応として、特に物の搬送を目的としたサービスロボットの利用が拡大しています。レストランで食事を配膳するロボット、ホテルでアメニティを部屋まで届けるロボットなどを見かける機会も増えていると思います。そして近年では、産業用ロボットよりもサービスロボットの市場規模が拡大しており、今後もこの傾向が続くと予測されています。総務省「令和7年版情報通信白書」によれば、サービスロボットの市場規模は2022年の257億ドルから2028年には347億ドル(年平均成長率5.1%)に達する見込みです。

従来のロボットの弱点

 ロボットはさまざまな用途で普及していますが、弱点もあります。主な弱点は教えられたことしか対応できない点です。従来のロボットは、その動作を技術者が一つひとつプログラミング(ティーチング)する必要があり、専門知識と多くの時間が必要です。多様な状況に対応するには特別なケースも含めてプログラムする必要があり、現実的には対応範囲に限界があります。そのため、普段と物の配置が異なるなどの予期せぬ変化への対応は困難です。
 つまり、ロボットの「頭脳」は人間と比べて自身で考える能力が乏しく、人間に教えられないと新しいタスク(作業・課題)や状況に対応できません。

ロボット基盤モデルとは

 この弱点を解決するために「ロボット基盤モデル」が注目されています。ロボット基盤モデルは、幅広いロボットのタスクに対応できる汎用的な知識や行動能力を獲得するように設計されたAIモデルです。
 ロボット基盤モデルは大規模かつ多様なロボットに関するデータで学習されていることが特徴です(図2の左側参照)。それによって、ロボット基盤モデルは一般的な知識や行動能力を獲得し、それを活かして新しいタスクや状況に対応します。
 このようにあらかじめ学習しておくことを「事前学習」と呼びます。さまざまなタイプのロボット(片腕ロボット、双腕ロボットなど)、タスク(調理、物の移動、組み立てなどのような作業・課題)、データの形式(画像、動画、ロボットのセンサーデータなど)を含むデータでモデルが事前学習されています。
 さらに、ロボット基盤モデルは事前学習で獲得した知識をベースとしつつ、特定のタスクのデータを集中的に学習しなおすことで、特定の能力を強化することができます(図2の右側参照)。このことを「再学習」と呼びます。ロボット基盤モデルをベースとすることで、ゼロから学習するより、少ないデータで高い性能が得られます。
 加えて、ロボット基盤モデルはChatGPTなどで用いられている大規模言語モデルなどと組み合わせる(または内包する)ことで、さらに能力を高めることが可能です。大規模言語モデルと組み合わせると、インターネット上に公開されている一般的な知識や常識もロボットの中に取り込むことが可能となります。

ロボット基盤モデルへの期待

 ロボット基盤モデルの活用により、従来よりも未知の環境や新しいタスクにも臨機応変に対応する汎用性の獲得が期待されます。単なる指示通りの動作だけでなく、状況を理解し、人間のように賢く自然な振る舞いが可能になります。
 例えば、工場のラインにおける物をつかんで別の場所に置く(ピックアンドプレース)作業では、従来は決まった形状・固さの物体のみを扱っていましたが、ロボット基盤モデルを搭載したロボットは、さまざまな形状、素材、壊れやすい物体を状況に応じて適切に処理できます。家庭を例にすると、従来は床掃除といった決まった作業に特化したロボットが主流でしたが、将来的には掃除や調理など複数の家事を担うロボットの登場も期待されます。
 このようにロボット基盤モデルを搭載したロボットは、従来は導入が難しかった複雑な環境やタスクにも対応し、幅広い場面での活躍が期待されます。米McKinsey & Companyによると、さまざまなタスクに対応できる多用途ロボットの 市場規模は2040年に3,700億ドルに達すると予測しており、今後の発展が注目されます。

近藤(こんどう) 浩史(ひろふみ)

株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ 次長兼エキスパート。2011年、日本総合研究所に入社。2018年よりAI技術の調査・研究を担当し、SMBCグループ向けのAI技術を用いた実証実験に携わる。現在、生成AIを中心としたAI技術の中長期的な動向に関する技術リサーチとAIの調査・研究チームのマネージャーも担当。共著に「AI時代の人的資本経営」(日本能率協会マネジメントセンター、2025年)。

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