ICTソリューション紹介

-一般社団法人スマートフードチェーン推進機構-
データ連携がもたらす効率化と付加価値を生むスマートフードチェーンの現在と展望

記事ID:D10057

近年、食品業界では食の安全性に対するニーズへの対応や、減少する労働力を補うために、食のサプライチェーン(食の生産、加工・流通から販売・消費まで)の変革が求められています。ICTを活用したサプライチェーンのスマート化を通じて日本の食品ビジネス力の強化に取り組む、一般社団法人スマートフードチェーン推進機構の代表理事・折笠 俊輔氏に、スマート化の現実と可能性についてうかがいました。

食品流通の課題解決に欠かせないデジタル化

代表理事 折笠 俊輔氏

 令和の米騒動に見られるように、近年食品流通における信頼性や透明性、安全性などに対する消費者の関心が高まっています。さらに生産者の高齢化による労働力減少の問題もあり、食品の生産に関わる業界は今、市場環境に適応するための変革が求められています。
 こうした課題の解決に向けて、食のサプライチェーンをICTでスマート化する、「スマートフードチェーン」を構築する動きが活発になっています。

 「スマートフードチェーンとは、生産から消費に至る、従来独立していた各サプライチェーンの情報をICTによって連携させ、データの相互活用を可能にした食のサプライチェーンを意味します。食のサプライチェーン全体をスマート化することで、生産効率の高度化や商品の付加価値向上、流通の最適化などに資すると期待されています」(折笠氏)

 生鮮食品流通の世界は、半世紀以上にわたって卸売市場を中心に機能してきました。現在では流通の世界も多様化が進み、契約栽培などの直取り引き、インターネットによる販売量も増えていますが、それでも流通量全体の約6割程度は卸売市場を経由しています。しかし、卸売市場の情報ネットワークはいまだにアナログ中心です。多くの生産者が出荷情報をExcelで管理していますが、出荷情報を卸売市場に送る際には、わざわざ出荷伝票を手書きで起こしてFAXで送らねばならず、業務上のロスが生じています。さらに市場側は、それらを見ながら新たに別の書類を作成しているため、「生産者が作った出荷情報が卸売市場のプロセスで分断されてしまっている」と折笠氏は指摘します。

 「生産者と市場の間で情報の分断が発生すると、鮮度の高さや生産者のこだわりなど、さまざまな情報が小売業者や消費者にまで届かず、商機を逸してしまいます。また現在、食の安全性確保のために『トレーサビリティ』が注目されていますが、スマートフードチェーンが構築されていれば、誰がいつどこで出荷し、いつ小売店に届いたかなどの生産履歴や流通情報を消費者が手軽に知ることができ、食への信頼感の醸成につながります。それだけに食のサプライチェーンのスマート化による情報連携の実現、そのためのデジタル化は必須であると言えます」(折笠氏)

QRコードで広がる情報連携と効率化

 一般社団法人スマートフードチェーン推進機構が展開する、スマートフードチェーンのプラットフォーム「ukabis(ウカビス)」は、生産者や卸売事業者、小売業者から消費者までを鎖のようにつなぎ、ネットワーク化することで情報のやり取りをスムーズにしています。従来型のサプライチェーンでは、流れの中のどこかでトラブルが発生すると情報伝達の分断が容易に発生するという弱点がありましたが、ukabisではサプライチェーンをネットワーク化することで、その弱点を克服することが可能になっています(図参照)。

【図:情報が分断されないスマートフードチェーンへ】出典:一般社団法人スマートフードチェーン推進機構の資料を基に作成

 「ukabisは、需要と供給のマッチングの高度化や物流の最適化による食品ロスの削減、トレーサビリティの確保による食の安全性の担保などを実現する食品流通のデジタル基盤として期待されています。また、『消費者が食品の安全性をしっかり確認できてから食べられる環境を作りたい』『産地のストーリーなどをしっかり小売業者や消費者に伝えたい』『生産時に発生する環境負荷情報などもデータ化し、日本の豊かな食文化をしっかり次世代に伝えていきたい』といったニーズに応えられることも大きなメリットです」(折笠氏)

 ukabisには、農水産物などにつけられたQRコードを読み取ることで、さまざまな商品情報を取得できる仕組みがあります。例えばBtoBなら生産履歴情報や商品の取り扱い情報を、BtoCなら生産者のPR情報や安全性に関する情報を手軽に取得でき、現在、多くの導入事例が報告されています。

 「例えば、卸売市場では野菜の箱に貼られたQRコードをスマホで読み取るだけで、全体の出荷箱数、野菜のサイズや等階級までが一目瞭然に示され、さらにそれらの情報が直接卸売市場の基幹システムに送られる仕組みが構築されています。これにより、生産者はFAXで送付する必要がなくなり、卸側でも入荷集計にかかる時間が67%削減されました。また、日本の農水産物は高いブランド性を持つため、本物の日本産であることが消費者に一目で理解できるトレーサビリティ機能が海外の消費者に好評です」(折笠氏)

「香住ガニの大冒険」では、水揚げされた香住漁港から店頭までの流通履歴と輸送環境データを取得し、売場でQRコードを掲示して消費者に訴求する実証を行った

 国内でも、トレーサビリティ機能を活用した商品の付加価値向上への取り組みは、さまざまな成功事例があります。例えば、消費者がカニの入荷状況や鮮度が直接確認できる、「香住ガニの大冒険」と名づけられた食イベントが好評でした(写真参照)。これは朝に浜茹でした旬のカニを新鮮なままボイル・冷却し、QRコードを取りつけて小売店に直送したもので、店頭でQRコードを読めばカニの入荷状況や鮮度が直接確認できると、SNSでも話題を呼び午前中で完売しました。また、朝採れのレタスの販売なども同様の成功例の一つです。みずみずしく新鮮そのもののレタスは、通常よりも高い値段だったにもかかわらず、すぐに完売を記録しました。このように、スマートフードチェーンを活用した新しい商機が生まれ始めています。

物流の世界でも期待されるスマート化の恩恵

 折笠氏は、商品輸送などの物流面の需給の最適化にも、スマートフードチェーンは有益だと話します。

 「これまでは生産者間の情報連携が希薄だったため、隣接した生産者が同じ卸売市場に同じ商品を送る場合でも、別々にトラックを仕立て10トントラックに5トンだけ詰めて送るといった無駄が生じていました。しかし、ukabisを通じて生産者間の情報が連携されれば全体の物流量が分かりますので、それに適したトラックを共有し、生産者間を順番にリレーして市場に運ぶことで、効率化や経費削減が実現できます。また、業種を超えた物流の共有にも可能性を感じています。農水産物の物流は生産地である地方から消費先の都市圏へと流れる傾向が強いため、帰りのトラックが空荷となるケースが少なくありません。そこで都市圏から地方への物流量が多い産業と情報を連携すれば、業界を超えたwin-winの物流の仕組みができると期待しています」(折笠氏)

 スマートフードチェーン構想からは、さまざまな成果と可能性が生まれています。自社が保有するデータを内部で活用するだけでなく、サプライチェーン同士で連携し合うことで、新しいビジネスや業務の効率化に結びつけることができ、こうした発想を持つことは、あらゆる面で有益と言えるでしょう。

※ トレーサビリティ
生産から製造加工、流通や小売など、すべての移動経路を記録し、管理するシステムのこと。
組織名 一般社団法人スマートフードチェーン推進機構
設立 2022年(令和4年)8月
所在地 東京都千代田区九段南4-8-21山脇ビル10F
代表理事 折笠 俊輔
事業内容 業界団体活動、データ基盤事業
URL https://www.ukabis.com/
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