ICTソリューション紹介

-株式会社コークッキング-
ICTで食品ロス削減を実現するフードシェアリングサービスに注目

記事ID:D10053

食品の売れ残りの処理が環境に悪影響を及ぼし、経済損失を生む「食品ロス」の問題が深刻化しています。そこで近年、売り手側の飲食店や生産者と、買い手側の消費者をICTでつなぎ、廃棄される可能性の高かった食品をロスから救う、フードシェアリングサービスが注目されています。日本で初めて事業化に取り組んだ株式会社コークッキング代表の川越 一磨氏に、食品ロスの現在やサービスの可能性についてうかがいました。

毎日10トントラックで1,290台分の食品ロスが発生

代表者 川越 一磨氏

 食品ロスとは「まだ安全に食べられるのに、捨てられてしまう食べ物」を意味します。食品ロスは外食産業、食品製造業、食品小売業などから発生する事業系食品ロスと、一般家庭から生まれる家庭系食品ロスに分類され、事業系では「売れ残り」「食べ残し」「規格外品」「返品」などの食品ロスが発生し、家庭系からは「食べ残し」「食べずにそのまま廃棄」「調理時の食材過剰除去」などのロスが日々生まれています。消費者庁消費者教育推進課は、2024年6月に、2022年度の日本の食品ロス推計量が472万トンだったと発表しました。この数字は国連世界食糧計画(WFP)による食糧支援量370万トン(2023年実績)の約1.3倍にのぼり、日本は毎日10トントラック約1,290台分の食品を廃棄している計算になるそうです。食品ロスはなぜ生まれるのか、川越氏は次のように語ります。

 「食品業界特有の商慣行である『3分の1ルール』が、食品ロスの発生源の一つと考えられます。3分の1ルールとは、メーカーから卸売業者を通じて小売業者に納入できる期限を、製造日から賞味期限までの3分の1までとする業界ルールです。例えば賞味期限が6ヵ月の商品の場合、卸売業者はスーパーなどの小売業者に2ヵ月以内に納品しなければなりません。2ヵ月を超えた在庫は卸売業者からメーカーに返品され、廃棄されてしまいます。また販売期間は、製造日から賞味期限の3分の2までと定められ、賞味期限まで3分の1を切った商品は店頭から撤去され、やはり廃棄されてしまうのです(図1参照)」(川越氏)

 3分の1ルールは、食の安全性の担保に大きく貢献しています。店頭には常に賞味期限が十分に確保された商品が並び、消費者は安心して買い物を楽しめます。しかし同時に、賞味期限切れまでまだ日数が残っている商品も返品され、廃棄されているのです。
 また、コロナ禍以降生活に定着したレストランのテイクアウトやコンビニのお弁当や惣菜、パンやケーキ屋さんなどの「中食(なかしょく)小売り」では、商品の作り過ぎが食品ロスを生んでいると川越氏は指摘します。

 「中食では、消費者の購買心理が食品ロスの発生に影響しています。店舗が食品ロスを出さないために適正量しか作らないと、閉店時間が近づくにつれ商品棚の品揃えはどうしても寂しくなります。しかし、常に豊富な品揃えを期待する消費者心理はその状況を許してくれません。一度品揃えの悪い店と認識した消費者に再来店を期待するのは難しく、小売店にとっては機会損失になってしまいます。そのため、どうしても商品を必要以上に用意し、その後廃棄する状況が生まれています。特に恵方巻きやクリスマスケーキ、バレンタインチョコなど、季節商品は多くの食品ロスが発生しています」(川越氏)

 食品ロスで発生した多くの廃棄物の処理には、多額の費用がかかっています。焼却することにより、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出増加など、環境への影響も懸念されています。消費者庁の「食品ロス削減ガイドブック」(令和6年度版)では、2022年度の食品ロス量(472万トン)を基に推計した結果、食品ロスによる経済損失の合計は4,0兆円、食品ロスによる温室効果ガス排出量の合計は1,046万トンに及んだと発表しています。また日本の食料自給率(カロリーベース)は約38%(農林水産省「食料需給表(令和5年)」)で、世界でも有数の食料輸入国でありながら、大量の食品ロスを生んでいる矛盾も気になるところです。

スマホのアプリを活用した食品ロス削減ビジネス

  近年「フードシェアリングサービス」と呼ばれる、ICTを活用した食品ロス削減を目指す取り組みが、世界的に注目されています。フードシェアリングサービスとは、売れ残りを避けたい飲食店などと消費者を、スマホのアプリやECサイトでマッチングさせるサービスです。店舗は、食品ロスになりそうな商品の情報を発信し、情報を見て興味を持った消費者が購入を申込み、店舗へ引き取りに行きます。出品される商品は定価よりも割安な値段に設定されますが、店側は従来ゼロだったものを売上として計上でき、廃棄コストも削減できるなどのメリットがあり、消費者もお得な価格で購入できるメリットがあります。
 フードシェアリングの活動は世界各地で広がっていますが、日本では同社が2018年に開始した「TABETE」が、日本初のサービスとなります。首都圏や大都市圏を中心に全国で展開しており、現在会員登録者数が約113万人、登録店舗数は3,000店舗を超えています。「TABETE」の登録店は、持ち帰りを前提とした中食の店が中心で、地域に密着した店舗が多数派です。「TABETE」では、商品の売買に「レスキュー」という言葉を使用し、消費者・店舗双方の会員に、食品ロス問題を考える大切さを啓蒙しています。近所で助けを求めている店舗のレスキュー依頼(商品情報)をアプリで検索し、食べたいメニューを見つけたら、「レスキューにむかう!」をタップし、クレジットカードで決済します。そのため店頭では店員にアプリの画面を見せるだけで、レスキューは簡単に完了します。また登録してあるお気に入りの店からは、出品と同時に「レスキュー依頼」が通知されるので、瞬時に情報取得が可能です。

 「開発当初はWeb版でサービスを展開しましたが、登録者数は伸びませんでした。Webだと、消費者はサイトを開き、レスキュー依頼の情報を自分から確認に行く手間が発生します。正直、中食情報を得るのにパソコンを一から立ち上げる消費者は少なく、行動パターンを見誤っていたのです。その後アプリ版とし、お気に入りに登録した店からリアルタイムにレスキュー依頼が飛んで来る、アプリならではの通知機能を実装したことで会員数は一気に増加し、これまでに約140万食のレスキューを実現しています」(川越氏)

地域の食品ロス削減に向けて地方自治体との協働も増加

 使い勝手の良さに加えて、中食中心のサービスならではの、地域に密着した展開も好評だと言います。

 「商品は店頭で受け取るシステムですので、消費者も近所の方が多数を占めています。弊社アンケートによると、『TABETE』でその店を知った消費者の約6割が、通常来店客になっています。つまり『TABETE』を通じて、消費者は日常の食の選択肢が増え、店には常連客が増えるメリットが生まれています。フードシェアリングサービスが生む地域の食コミュニティの活性化が、食品ロスの削減に結びついていると考えています(図2参照)。弊社アンケートでは『TABETE』に登録した理由として、『食品ロス削減目的』が48%で、『お得目的』の39%を上回っています」(川越氏)

 また、消費者庁の「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」には、「フードシェアリングの活用などによる売り切りの工夫を行う」と明記され、地方自治体からの協働オファーも増えているそうです。「TABETE」は、現在25の自治体と食品ロス削減に向けた連携協定を交わし、地域の飲食店でのサービス展開や、フードシェアリングの啓蒙活動などに取り組んでいます。
 政府は2025年2月の消費者委員会で、「第2次食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」案を提示しました。対2000年度比で、2030年度までに事業系食品ロス60%減を目標に据えています。官民一体で食品ロス削減に取り組む時代の到来を機に、フードシェアリングの活動に参加することを検討してはいかがでしょうか。

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会社名 株式会社コークッキング
設立 2015年(平成27年)12月1日
本社所在地 東京都渋谷区本町2-33-23階 HANARE
代表者 川越 一磨
事業内容 フードシェアリング(TABETE)事業、TABETEレスキューデリ事業、パターン・ランゲージ制作事業
URL https://www.cocooking.co.jp/

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