電話応対でCS向上コラム

第5回 じっくりと話しのできる環境をつくり、調停に臨む

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は話し合いを始める前にすべきこと、調停を行うのにふさわしい場所の選び方などについてお話ししました。今回はいよいよ話し合いを迎えた当日。第三者であるメディエーターは、どうあるべきかについてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

答えが出るまで決して諦めないこと

 一回目の話し合いというのは、往々にして上手くいかないものです。例えば、ある会社の社内でトラブルがあったとしましょう。ミスをした平社員のAさんに対し、部長のBさんが会社を辞めて欲しいと言ったとします。Aさんはメディエーターであるあなたに「辞めたくない」と相談を持ち掛けます。あなたは話し合いの場を設けますが、B部長は、Aさんの話しをろくに聞かず帰ってしまうかもしれません。

 しかし、それで諦めてはいけません。当事者同士が具体的な解決案を見つけられるまで、何度でも調停を行うべきです。そのためにも、調停を始める前にしっかりとそのことを宣言しましょう。「調停人は、お二人でお話し合いをしていただくことを支えます。したがって、私が結論を言ったり、解決案を申したりすることはありません。お二人が対話を通じて、今回のトラブルの具体的な解決案を見つけていただければと思います。私は、お二人がご希望される限り、この場から決して逃げずに、仲介役をしていく気持ちを持っております。また、必要な場合には、このような機会を複数回、作ることも厭いません」

 また、二人の呼称についても、メディエーターは提案すべきです。この場合、調停の間は常に「Aさん、Bさん」とお互いを呼び合うことを提案し、同意を得ることで、二人の立場がフラットになるような環境づくりを心掛けましょう。

第三者として成り行きを見守ること

 準備を整えたところで、いよいよ調停をスタートさせましょう。二度目の話し合いの場合にはまず、Aさんにもう一度最初から話しをしてもらうのが良いでしょう。しかしAさんがすぐに話し始めるとは限りません。そんな時には、一切口を出さず、ただ、Aさんが話しを始めるのを待つことが大切です。対話を促すことは決してせず、メディエーターとして、あくまで公正な立場を保つことを意識しましょう。

 Aさんもきっと、一回目の話し合いを経て考えたことがあるはずです。その、率直な思いをB部長に伝えてもらうことが解決の一歩につながります。まずは過ちを認め、B部長の思いを真っ正面からしっかりと受け止めた上で、お詫びの気持ちを伝えれば、B部長もAさんの思いを理解し、最悪の事態を避けられるかもしれません。

 しかし、B部長がAさんの思いを理解してくれたからといって、問題が解決したことにならないのも事実です。トラブルが起こった際には、当事者同士だけでなく、その周りにも迷惑を掛けているものです。

 業人として信頼されるためには、しっかりとスタッフとの信頼関係を築くことが重要です。そのためにも、調停を終えたAさんはこの後、定例のミーティングなどを通じて、周りのスタッフに、今の自分の思いをしっかりと伝え、理解してもらうことが必要になるでしょう。

こうして調停を重ね、問題解決の糸口が見つかれば、それまでの険悪さがまるで嘘だったかのように場は和み、当事者の二人からも自然と笑みがこぼれることでしょう。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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