電話応対でCS向上事例

特別対談 平田 オリザ氏×岡部 達昭氏「電話応対に必要とされるコミュニケーション能力とは」[後編]

「電話応対に必要とされるコミュニケーション能力とは」[後編]

前回は、電話を通じたコミュニケーションのあり方をテーマに、現代の日本社会が抱える言語コミュニケーションの問題、学校での教育、上手な電話応対について、劇作家・演出家の平田 オリザ氏と電話応対技能検定(もしもし検定)専門委員会委員長の岡部 達昭氏に語り合っていただきました。今回は、さらに電話応対の能力向上の方法論、電話応対の未来展望へと展開していきます。

電話応対能力を向上させる方法論

岡部 電話コミュニケーターは、相手の話をきちんと聞いて、返答する一連の応対を前提として、今後はどのような能力が必要になってくるとお考えでしょうか。

  • 平田 これは演劇も同じで、私は俳優や学生に「対話は聞いて話してワンセットだよ」と言い聞かせています。人が何かを話すのは、何かの動機によって話しかけられたから、あるいは聞かれたからです。これからの大学入試にも、聞いて話をする能力が問われるようになります。ある大学では、受験者が7人一組となって、討論しながら解答する入試方式を採用しています。この試験では「君、検索が上手いね。じゃ、僕はメモを取るほうに回るね」と自発的に役割分担を促したり、意見を聞いてまとめたり考えたりできる受験者が好評価を受けるのです。ここで求められる多面的な能力は、“優秀なコミュニケーター”と称される人にも備わっていると推測します。

岡部 こうした入試方式の発想を、電話応対のワークショップで活かすと、どういうことができるとお思いでしょうか。

平田 集団の中で意見が分かれて討論しなければならない状況を設定して、演じてみるのはどうでしょう。これを私は「フィクションの力」と呼んでいます。私が携わっている医療コミュニケーションの教育では、医師を中心に糖尿病の啓発劇を作って実演しています。特に、糖尿病のおじいちゃんとシングルマザーの娘、孫の家族の話はよくできていました。娘はシングルマザーだから働きに出るので、孫はおじいちゃんと一緒にいる。その孫が、おじいちゃんの誕生日に初めてケーキを焼いてくれた。さて、おじいちゃんはどうするか考えてみよう――。このように、答えに困ったり悩んだりするフィクションを設定すれば、参加者が意見をぶつけ合うことで多様性が生まれ、ワークショップはより充実します。電話の相手の話を聴いて、そのさまざまな背景が見えてくる設定にすれば、充実した討論になると思います。

岡部 なるほど。ところで、私どものもしもし検定では、今「自然な応対」ということが課題になっているのですが、自然に話すには、どうすればいいでしょうか。

平田 一つ目は電話応対のマニュアルです。話し言葉の箇所はそのまま書き起こすと、冗長になり過ぎるので、どれだけ簡潔に整理できるかがカギになります。二つ目は語順の操作です。本来、日本語にはほかの言語に見られない、語順を自由に入れ替えられる特性があります。応対が良いとされるコミュニケーターは無意識に、相手への印象が良くなるように、語順を考えて対話していると推測します。三つ目はうなずく仕草や表情の代わりに「あぁ、そうなんですね」と相づちを打つこと。電話では返答がないと、相手は不安になりますから。

岡部 私のアナウンサー時代には、先輩から「いい声出すな!」「上手に読もうと思うな!」という指導を厳しく受けたものです。そちらに気を取られると、肝心の内容が伝わらないと言うのです。でもコミュニケーターの皆さんも、やはり美しい日本語できれいに話すことを目指していると思うのですが。

平田 私も劇作家として美しい日本語、きれいな日本語を伝えたい、守りたいと考えているので、その想いはよく分かります。とは言え、話し言葉はきれい過ぎると、リアリティがまったくなくなるんですね。例えば、今時の女子高生の台詞は「ら」抜き言葉でなければ、不自然になってしまいます。

岡部 以前読んだ本に、外山 滋比古氏の「人に聞けない大人の言葉づかい」(中経出版)があります。英国オックスフォード大学には、「オックスフォード・アクセント」と呼ばれる独特の話し方指導のメソッドがあって、先輩学生は新入生にそれを伝えるのだそうです。その話し方は少し、つっかえながら訥々(とつとつ)と話すことで誠実さや一生懸命さが相手に伝わり、相手は真剣になって耳を傾ける。つまり話すと言うことは、話し手と聴き手の共同作業という考えに、私は同感します。

平田 演劇では、観客に台本があることを忘れさせるほど、自然に演技するのが上手い俳優と言われます。一方、台本に書かれた台詞をしゃべっているように見えてしまうのは下手な俳優です。それは、コミュニケーターがきちんと話そうとするあまり、マニュアルが見えてしまうことと同じです。流ちょうな話し方は、自然な状態ではありえないので、訥々と話すほうが相手には少なくとも共感してもらえるんです。

電話応対業務の未来のカタチ

岡部 オックスフォード大学の研究者の研究論文には、10~20年後に「電話による営業の仕事」は99%の確率で、コンピューターに取って代わられると予見されているそうです。

平田 そうなるには30~50年はかかるでしょう。コンテクストを理解するコンピューターやロボットが実用化するまでに、時間がかかりますから。曖昧な言葉を処理したり、相手の気持ちを察して共感したりする能力は、まだ人間のほうが優れているので、しばらくは人工知能(AI)やロボットに代わることはないと推測します。

  • 岡部 とは言え、そうした時代の到来に備えて、電話コミュニケーターが今からやっておくことはありますか。

    平田 将来は、AIやロボットにできない応対ができるコミュニケーターしか生き残っていけなくなるでしょう。その時まで、コミュニケーションの基礎力を高め人間力を養っておくことが重要になります。

    岡部 2017年より、NTTのメディアインテリジェンス研究所と私たち(日本電信電話ユーザ協会)はAIやロボットが電話応対できるか、電話応対の良し悪しを判断できるかなどをテーマに共同実験を実施する予定です。

平田 それは興味深い。AIやロボットが得意とする記憶力で、蓄積された電話応対の過去データを活用すれば、可能になるでしょう。そうなれば、「電話応対コンクール」の審査をロボットに任せることも技術的には可能です。ただ、参加者の方々がロボットの審査に納得されるかどうかは別ですけど(笑)。「ロボット賞」として表彰するのも良いかもしれませんね。

平田 オリザ氏

1962年、東京都出身。劇作家・演出家。東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、大阪大学COデザイン・センター客員教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐。劇団「青年団」主宰、こまばアゴラ劇場芸術総監督。各地で実施している演劇ワークショップの方法論は小学校・中学校の国語教科書に採用。

岡部 達昭氏

東京都出身。元NHKアナウンサー。(財)NHK放送研修センター理事・日本語センター長を経て、現在はコミュニケーション能力研究会を主宰。電話応対技能検定(もしもし検定)専門委員会委員長。言葉と非言語表現力、電話応対力、営業力、リーダー育成など、コミュニケーション全般の研究、研修、講演を行っている。

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