電話応対でCS向上コラム

第31回 「悩んでいます『方言となまり』」

「故郷のなまりが抜けなくて悩んでいます。人と話すことにどうしても消極的になってしまいます」「コンタクトセンターで働く地方出身の部下の方言やなまりがとても気になります。本人も気にはしているようですが、どのように指導したらよいでしょうか」。読者の方からこのようなお尋ねをいただきました。今回はこの悩みをとり上げます。

方言となまり、共通語

方言とは、共通語に対して、ある地方だけで使用される語。なまりとは、標準語に較べて音韻上、多少の相違がある地方的な発音。共通語とは、言語社会において、その全域に渡って通用する言語や方言。広辞苑にはこう記されています。定義づければ簡単ですが、具体化するのは容易ではありません。語形だけではなく、アクセント、抑揚、発音、発声、語調など全てが関係してきます。

ひと昔前までは、地方出身者にとって方言やなまりは深刻な問題でした。特に若者たちにとっては、なまりを真似てからかわれたり馬鹿にされたりして、傷心のまま故郷に戻ったり、仕事をかわらざるを得ない人も数多くいました。しかし、電波メディアが普及した昨今では、ふるさと言葉と共通語をバイリンガルに使いこなす器用な若者が増えています。それでもまだまだ前述のような悩みを抱えた人が多いのも現実です。

知らずに使うと方言がトラブルに

かつて私が訪れた自動車のディーラーの担当者の話です。彼は私が何かを頼むたびに、「分かりました。やって上げます」「それでしたらサービスして上げます」「4時までには電話して上げます」と、必ず「~上げます」と言うのです。「その言い方は恩着せがましくてとても不愉快だ」と注意したところ、彼は驚いたように「私の村では、お客様や目上の人には皆こう言います」と反論してきました。東北の彼の村では、「~上げます」は立派に敬意を表わす方言だったのです。

地域によっては敬語がほとんどないところもあります。意味が全く違う方言もあります。信州のある地域では「急ぐ」ことを「いちゃつく」と言うそうです。修理を頼んできたお客様に「いちゃつきますか?」と訊いたりしたら、とんでもないことになりそうですね。

しっかり聞いてなまりを直す

私は東京生まれ東京育ちですが、両親が山口県下関市出身ですので、知らず知らずのうちに下関の方言が入っています。アナウンサーになってからも「この言葉、共通語?下関弁?」と迷って辞書を引くことがよくありました。日本では、NHKアナウンサーは一応共通語の担い手とされていますが、昭和50年代にその出身県を調べたことがあります。当時5百数十人いた現役アナウンサーは、見事に全国47都道府県を網羅していました。中には純粋に地方出身のアナウンサーもいました。その一人Aさんは、アナウンサーを目指した高校生の頃から、毎日ラジオから流れるアナウンサーのニュースを聞きながら、自分の言葉との違いを徹底的にチェックして共通語を覚えたそうです。彼のアクセント辞典の手垢と付箋とマーカーが、努力の歴史を物語っていました。

なまりや方言をバイリンガルで生かす

なまりや方言などは全く気にならない人と、反対にひどく気になる人がいます。気になりだすと肝心の話を聞いてくれません。「すみません。私○○の出身でしてなまりが強いんです。お聞き苦しい点はお許し下さい。お分かりになりにくかったら何度でもご説明いたします」。このように丁寧に誠実にお断りをしておけば、きっと気持ちよく聞いて下さるでしょう。

大切なのは、話す言葉よりもその言葉を話す人の心です。なまりや方言を卑下する必要は全くありません。なまりや方言にはその土地が守ってきた命があります。しんどい、しばれる、はんなりなど、共通語では言い表せない味のある言葉がいっぱいあります。どうぞバイリンガルで使い続けてください。美しい方言は、いつか共通語となって行くでしょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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