ウェブ解析士に学ぶウェブサイト運用テクニック Vol.37

問い合わせや売上が増える!中小企業経営者のためのウェブ活用(後編)

加藤 雄一郎氏加藤 雄一郎氏(株)ピージェーエージェント代表取締役。
NTTコミュニケーションズにて、デジタルマーケティングに関するコンサルタントとして活躍後、スモールビジネス向けコンサルティング会社であるピージェーエージェントを設立。ブランド戦略の立案を強みとして、ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している。

https://pjagent.jp/

中小企業が、ホームページやソーシャルメディアなどを活用して、より効率的・効果的に売上を向上させるための考え方、ウェブマーケティングの原理原則について、前編・後編の二部構成にて解説をいたします。後編では、中小企業のウェブ活用の成功事例、ウェブマーケティング戦略の定義と実施の仕方についてお話しをいたします。ウェブの活用に関して、何から手をつけてよいか分からない経営者さまは、最初の一歩として、ぜひご一読ください。

中小企業のウェブ活用 成功事例

前編では、架空の産業用機器メーカー「ABC製作所」を例にしてお話ししました。後編では、同じく架空の産業用機器メーカー「XYZ製作所」を例にして、ウェブ活用の成功事例を見てみましょう。両社の違いを考察することで、マーケティング戦略の定義や実施の仕方のヒントが見えてくるはずです。

ステップ1:誰を対象に対して行う活動なのかを考える

「うちの会社も時代に乗り遅れないように、ウェブ活用に取り組まなければ!」ある日、XYZ製作所の社長はこのように思い立ちます。そこで、まずは「ウェブ活用とは、誰に対して行う活動なのか」を明確にするために、自社のターゲット顧客について、改めて考えることにしました。今まで「何となく」でビジネスがうまく回ってきたXYZ製作所では、自社のターゲット顧客などについては深く考えたことがありませんでした。全社員を集めて会議を行いましたが、社員の間で思い描くターゲット顧客像が全くバラバラで意識が統一されておらず、なかなか議論がまとまりません。それでもXYZ製作所の社長は諦めずに何度も会議を重ね、時間をかけて、自社のターゲット顧客がどのような人なのか定義をしていきました。

ステップ2:自社のサービスの売りを考える

ターゲット顧客を定義できたXYZ製作所は、次に、「なぜお客さまは自社のサービスを買ってくれるのか」を整理していきました。日々、最前線でお客さまと相対している営業マンを集め、競合とのコンペの際の受注・失注原因の洗い出しを行いました。また、お客さまからのクレームや、お褒めの言葉など、改めてお客さまの声を一つ一つ分析していきました。今まで、そこまで深く顧客や自社のことを考えたことがなかったため、自分の会社のことでも意外と分かっていないことも多いということに驚きつつ、自社の強みや競合との差別化といったアピールポイントが徐々に整理されていきました。

ステップ3:各顧客接点の役割を設計する

次にXYZ製作所では、お客さまが自社を知ってから、営業マンによる商談に至るまでの間に、どのような動線をたどるのかを整理していきました。一度全体のストーリー(カスタマージャーニー)を俯瞰して想像することで、インターネット広告、ソーシャルメディア、ホームページ、メルマガ、営業マンなど、自社とのさまざまな接点を持ちながら、徐々に顧客の購買意欲が高まっていくのだということが分かりました。インターネット広告やソーシャルメディアの投稿を見た人にはどんな行動をして欲しいのか?ホームページに訪れた人には、どんな行動をして欲しいのか?メルマガを読んだ人には、どんな行動をして欲しいのか?……など、それぞれの顧客接点の役割と目的をきちんと整理し、一連の流れとして動線設計をしていきました。

ステップ4:ホームページの閲覧から営業マンの商談開始までの一連の仕組みを作る

ステップ3で設計した一連の流れに沿って、ホームページのリニューアル及びメルマガなどを使った顧客の育成の仕組みを構築していきます。ホームページでは、顧客情報を獲得することを目的として、コンテンツやフォームなどの構成を検討してリニューアルを実施していきました。もちろん、XYZ製作所には、ホームページを自分で制作できるようなメンバーはいませんので、外部の業者に依頼をすることが必要です。XYZ製作所の社長は、今までまとめてきた「ターゲット顧客像」「自社のアピールポイント」「ホームページの役割と目的」を、業者に対して自分自身で直接説明を行いました。業者が具体的な制作作業に着手する前に、しっかりと時間をかけて打ち合わせを行い、プロジェクトの目的を明確に伝え、認識の齟齬がないように最新の注意を払います。

ステップ5:徐々に予算を使って流入数を増やす

ホームページの閲覧から営業マンの商談開始までの一連の仕組みは、すでにステップ4で構築できているため、あとはホームページへの流入数を増やすだけです。XYZ製作所では、この段階で、予算をかけてインターネット広告に取り組みました。まずは少額の予算から様子を見ながら実施し、徐々に予算を大きくしていくことで、ターゲットとなる顧客層のホームページへの流入数を着実に増やしていきました。どのくらいの広告予算をかければ、どのくらいの流入数が見込めるか。そこから顧客情報が獲得できる割合、商談化する割合など、すべてを定量的に計算できるようになり、ウェブ活用に取り組む前と比較して、飛躍的に安定してビジネスを回せるようになったとXYZ製作所の社長は笑顔で話しています。

ウェブマーケティング戦略の定義

「ウェブマーケティング戦略」とは何でしょうか?前述の成功事例からも分かるように、「ウェブマーケティング戦略」とは、以下の3つをしっかりと明確にし、その上で一貫性を持った戦術(施策)を実施することです。ここでは、架空のホームページ制作会社の「ZZZカンパニー」のウェブマーケティング戦略の立案を例に解説をいたします。

1:誰が買ってくれるのか(ターゲット顧客の明確化)

自社のターゲット顧客がどのような人物なのかを明確にすることが最も重要です。あなたの会社の製品・サービスはどんなお客さまのどのようなニーズに応えるためのものですか?ここでは、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ペルソナ」というマーケティングのフレームワークを利用するとよいでしょう。まず、顧客の属性やニーズによって市場を細分化し、その中から標的とするターゲット層を選定します。例えば、ZZZカンパニーにおいては、「業種」「所在地」「従業員数」「予算感」「社内リソース」というセグメンテーションを切り、「BtoB企業」「一都三県」「従業員数50名以下」「低予算」「リソースが足りない」というターゲティングを実施しました。

そして次に、選定したターゲット層をさらに具体的にイメージするために、「ペルソナ」と呼ばれる自社の製品・サービスにとって最も重要で象徴的なターゲット顧客のモデル像を創りあげます。ZZZカンパニー用に具体的に策定をしたペルソナの例は以下の図の通りです。ペルソナ例の中にも記載されている通り、ペルソナを創る際には、セグメンテーション・ターゲティングで定義した属性情報や行動情報だけではなく、その人物の悩みや課題感、思考などを深堀りして考えることがポイントです。

セグメンテーション・ターゲティング・ペルソナ
ペルソナ例

2:なぜ買ってくれるのか(自社の強みと競合との差別化)

1で明確にしたターゲット顧客が、なぜ競合他社ではなく、あなたの会社の製品・サービスを購入するのかを考えましょう。ここでは、「3C分析」というマーケティングのフレームワークを利用するとよいでしょう。顧客(Customer)、自社(Company)、競合(Competitor)の3つの視点から分析を行い、自社の強みと競合との差別化について考えていきます。ZZZカンパニーでは、「細かな指示をしなくてもお任せで作れる」「中小のBtoB企業に強い」「初心者にも優しい」「丁寧なヒアリング」「誠実で安心感がある」「個別対応が可能」「料金が安い」などの自社の強み、競合との差別化を明確にした上で、「ホームページに関する検討に時間を割けない、東京・神奈川の従業員50名以下の中小製造業向け。担当者が直接お客さま先に伺って、難しいIT専門用語などを使わずに、Face to Faceで誠実に要件をヒアリングして個別対応。お客さまに寄り添って丁寧に一つ一つ制作する、安心で安価なホームページ制作サービス」というコンセプトを掲げました。

ここで最も重要なことは、一般論で考えるのではなく、徹底してターゲット顧客(ペルソナ)の立場に立って考えるということです。多くの人にとってはメリットと思えるようなことであっても、ターゲット顧客に響かないようなことであれば、それは強みとは言えません。逆に、多くの人にとっては些細なことであっても、ターゲット顧客にとっては響くことであれば、それが自社の強みです。徹底したターゲット顧客目線で考え、自社の強みと競合との差別化を明確にすることがポイントです。

3:どうやって買ってもらうのか(認知から購買までの一連の流れ)

ターゲット顧客は、あなたの会社の製品・サービスをいきなり購入してくれるわけではありません。何かのきっかけであなたの会社の製品・サービスを知り、興味を持ち、欲しいと思い、比較検討などを実施した上で、購入するはずです。「認知」「興味関心」「欲求」「比較検討」「購買」などの各ステージにおいて、あなたの会社はどのような顧客接点でターゲット顧客と接しているか整理できていますか?インターネット広告、ソーシャルメディア、ホームページ、YouTube動画、メルマガ、営業マンなどの各顧客接点は、どのステージの顧客に対して、どのような目的を持って接しているものか、明確になっていますか?また、各ステージにおける目標達成を評価するためのKPI(key performance indicator=重要業績評価指標)となる数字は明確に定義されていますか?これらの認知から購買までの一連の流れと効果測定の仕組みを一貫性を持って意図的に設計することが重要です。

ZZZカンパニーでは、東京・神奈川の従業員50名以下の中小製造業だけにターゲットを絞って、インターネット広告とソーシャルメディアを活用し、ホームページへの流入増の施策を実行していきました。自社ホームページは、極力難しいIT専門用語などを使わず初心者が好むようなお役立ちコラムを増やし、コラムと連動した無料ダウンロード資料を用意し、ダウンロードフォーム経由で顧客情報を獲得できるような作りにしました。獲得した個人情報には定期的にメルマガを配信し、誠実で安心感がある文面を強く意識してコミュニケーションを取りながら、特定のタイミングで格安でのホームページ制作キャンペーンなどのプロモーションを実施するようにしました。それぞれ、広告費・流入数・PV/UU数・回遊率・個人情報獲得数・メール開封率・メールクリック率・問い合わせ獲得数などのKPIを定義し、定量的に効果測定をしながら各数値を高めるためのPDCAを回していきます。

中小企業経営者がウェブマーケティングを学ぶことは必須

では、これらのウェブマーケティング戦略をえがけるのは誰でしょうか?営業やマーケティングの知識や経験が乏しい若手社員でしょうか?上記の定義を見ていただければ分かる通り、ウェブマーケティング戦略とは、経営戦略そのものです。自社の製品・サービス、そしてビジネスに関して、社内で最も精通している人物でなければ、これらの戦略をえがくことは難しいのです。つまり、最適なウェブマーケティング戦略をえがけるのは、経営者さましかいません。前編でもお話しをしましたが、中小企業のウェブ活用の失敗の原因は、ウェブマーケティング担当者である若手社員の能力が低いからでも、ホームページ制作業者やSEO業者の提供するサービスが詐欺だからでもなく、「経営者さまが戦略をえがいた上で指示を出していないから」です。ここまで読んでいただければ、冒頭で「中小企業の経営者さまにおいて、ウェブマーケティングを学ぶことは必須科目である」とお伝えした理由をご理解いただけるはずです。もちろん、経営者さま自身が自ら手を動かしてホームページ制作やSEO対策などを実施する必要は全くありませんが、自らが立てたウェブマーケティング戦略に基づいて、適切な担当者、外部業者に指示、委託ができるようになることが、あるべき姿であると言えます。やみくもに小手先の戦術(施策)ばかりを実施する前に、落ち着いてしっかりとウェブマーケティング戦略を立てた上で、ウェブの活用に取り組んでみてください。そうすれば、必ず良い結果につながるはずです。

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