ICTコラム

第42回 適切なコンテンツや施策を考え、検証する方法

デジタルマーケティングは企画段階で関係者が賛成したものが成功するとは限りません。
実際には、失敗するケースが多々あります。
それはユーザの態度変容の予測、コンテクスト理解、KPIの測定方法に課題がある場合が多く、また主体性が強すぎることに原因がある場合があります。
事業の成長に役立つ方法を説明します。

誤ったKPIの設定が成果に悪影響をもたらす

 デジタルマーケティングを組織で実施する際、社内でのコンセンサスが取れ、皆が成功を信じているのにうまくいかないことが多々あります。

 SEOや広告、SNSなど施策を行い、アクセス数や再生数も増えているのに世の中には多くの「結果論」としての失敗事例があります。
 売上が上がらない、利益が減る、評判がよくならない、リピーターが増えないなどが起きてしまうのです。

 例えば、下記のような事例は皆さんも思い当たるところあるのではないでしょうか?

・広告を大きく投下し、アクセスが急増。SNSのフォロワー数や動画の再生数が大幅に増え話題にもなった。しかし、注文は想定通り伸びず、大きな損失を出して撤退することになった。

・サービス開始後3か月は予定通りの伸びを見せる。
しかしその後急ブレーキがかかり、追加で広告を投入し続けるも挽回できず、企業の存続にも影響が出てしまい再生に入る。

・それまでに価値観を変えたプロモーション手法で脚光を浴びた組織。そこで発表された数字は空前絶後のものだった。
しかし本来の目的を達成できず、バッシングを浴びることになる。

 これらの中には撤退や転向を早期に判断し再生した例もあれば、大きな損失を出してから転換を不本意な方法で図るケースがあります。

 主体性が強いが故に、「自分たちのサービスは広く刺さるし、実際評価されている」と勘違いしてしまったわけですが、共通点として「量的なKPIを追う傾向」があります。

 量的なKPIとはデジタルマーケティングでいえば下記のようなものです。

・ページビュー数
・セッション数(訪問者数)
・動画再生数
・SNSのフォロワー数
・初動注文数

 何故、量的なKPIを設定し、その指標は順調に伸びていても目標を達成できないのでしょうか?

 これは事業者視点で「こうなれば売れるはずだ」が強すぎ、それを買うユーザではない人たちからの評判を勘違いし、自社とコンテクストを共有しないユーザに販売しようとしていることに気づかないからです。

※コンテクストというのは共通理解や文脈理解を差します。

 例えば、ブランド品を知っている人には「ブランド名の訴求」だけで売れますが、コンテクストを共有していない人には「そのブランド品を買うとこういうメリットがある」というところから入っていかないと売れないですし、それがそのユーザの価値観に合うかどうかは考える必要があります。

 特にイノベーターが離れた時に一気に転落してしまうケースがあるのは、コンテクストを共有している人が少ないことが多いです。

 デジタルマーケティングでいうと「セッション数(訪問者数)」や「ページビュー」などの指標がこれを勘違いさせる要因となります。

 下のグラフ(図1)を見てください。

▲図1

 この円の大きさを「認知度」や「来店数」、デジタルの世界でいえば「セッション数」や「ページビュー数」と考えてください。
 この数が大きくなった時、「順調に進んでいる」と錯覚することがあります。

 しかし、その数が「そのサービスを評価するために必要となる知識を提供せず、共感も得られていない」状態で大きくなると、マイナスの方向に大きな力が働くことがあります。
 人や企業がサービスに関心を持ち利用するためにはコンテクストの共有が必要です。
 コンテクストは大きくわければ、「知識」と「共感」の要素があります。

 知識がなければ正しい判断ができず、共感がなければ動機付けされません。
お金をかけたから人が来ただけ、炎上したから人が増えただけでは、成果(つまり売上や利益、ファンづくりなど)につながらないどころか、逆の作用が働いてしまいます。

 実際にはコンテクストを共有するところに時間をかけ、態度変容を促し、それを測定し前に進めていくことで、売れるようになります。

 ここで大事なのは、HOW(どうすればいいか)ではなく、WHY(なぜ選ばれるのか)なのです。

WHYにつながるKPI・施策を決めるために

 主体性が高いことは決して悪いことではありませんが、短期的になったり、考える範囲が狭くなり、HOW(どうすればいいか)ばかりを追うようになります。

 そのWHYにつながる要因に「知識」と「共感」があります。
事業者視点ではなく、ユーザ視点であることが重要です。
そのためには、範囲を広く、長期的視点で、コンテクスト共有を醸成し、質を高めていくことが大事です。

成功する時 陥る時
対象範囲 広い 狭い
視点 ユーザ視点 事業者視点
見通し 長期的 短期的
ユーザとのコンテクスト 醸成する ないことに気づかない

 一般の事業では当たり前なのに、デジタルマーケティングの話になると途端に、この視点が消えることがあります。

 コンテクストを育成し、それを測り、ユーザ視点で施策を考える方法を紹介します。
 ここでは「ダイエットしたい人にサービスを提供するスポーツジム」を例にあげます。

1)まず最初に考えるのは、「何故自社のサービスを使うのか」の本質的な理由です。

 例えば、ジムの場合「運動したいから」「痩せたいから」などと、この理由を考えることがありますが、そこが失敗の要因です。

 実際には「モテたいから」「結婚式でドレスを着たいから」「健康で長生きしたいから」という目的があり、「痩せる」「運動する」は過程であり、「ジムに通う」のは手段でしかありません。

 その手段を提供する会社が考えるのは、そのユーザが本質的に何故その過程・手段を検討しているかというところからです。
 ここでは健康で長生きしたい人をターゲットにします。

2)次に考えるのはその人の現状です。

 「健康を損なう要因が分からなく不安」「体の衰えを感じる」など現状を定義します。
 今までのお客さんと同じとは限りません。
 特に成長するステージでは今までと違う人が対象になります。

3)1)と2)の差を考えます。

 仮に現状が「健康を損なう要因が分からなく不安」、目指すところを「健康で長生きしたい」とします。
 その差は2種類あります。
 一つは健康を測定する方法や健康を保つための要因が分からないこと、つまり知識です。
 二つ目にはそのためにお金や時間などを犠牲にすることに対する意欲です。
 知識と意欲を交互に高めていけば、継続してそれに必要なサービスを利用し、満足度が上がっていきます。

4)そのための施策を考える

 そして、企業として何をすればよいのか。
 デジタルマーケティングでいえば、「コンテンツの種類やそのレベル」「導線(見せる順番やタイミング)」「コンテンツ提示の方法(ページ、SNS、広告、動画など)」を考え実施します。
 コンテンツ作りの注意点として、1)~3)までの流れから難易度やボリュームなどを考慮する必要があることです。
 詳しくなっている人には前提を省く内容がいいですし、初心者向けには簡単なことから書くとよいでしょう。
 動画や図の活用も対象に合わせて考慮する必要があります。

5)KPIの設計・設定

 4)の目的を達成できているかを測るKPIを定める。
 このKPIはセッション数やページビュー数などの大きな数字を稼ぐものではないことが多いです。
 また、セグメントも大事になります。

 セグメントとKPIの例として、下記のようなものが考えられます。

・2回目以降の訪問者がAページからBページ遷移した数
・SNSでフォロワーにCページの情報を送り、そのCページをスクロールして一定の場所まで見た人の数
・Dページの記事を起点にコンバージョン(申し込み)をした人の数

 です。

 また、KPIは「成否」を測るものだけではなく、「傾向」を測るものも必要になります。
 何故かというと、1)から4)は仮説にすぎず、その中で施策の特徴をつかむ必要があるからです。
「成否」だけを見てしまうと、次につながりませんが、「傾向」「特徴」をつかめると次の施策に活かせます。

 傾向・特徴というのは例えば下記のようなものです。

・Eページ内のFボタンクリック率が50%超えたら仮説通りだが、下回ったら、ボタンの内容をFからGに変えて検証する。
・地域でセグメントし、Hページの直帰率を測り、直帰率が一定以下の地域に広告を集中する。

 施策に失敗というものはなく、その結果を次にどう活かすかが重要です。

KPIの測定方法

 KPIを図るためには様々な技術を使う必要があります。

・Googleタグマネージャー(GTM)を活用し、クリック数やスクロール、直帰ユーザの滞在時間などを測定
・広告のパラメータを工夫し、測定可能な状態にする
・定めたセグメント軸が解るように、セグメントで使いたい指標を取れるようにGTMなどで設定する
・SNSのインサイト機能なども活用してください。どういう投稿をどういうタイミングで配信すると期待する効果があるのかを記録してください。
・動画の再生率や再生時間もKPIになります。

 検証する流れはこうなります。

1)セグメント軸を設定(年齢や見ているページ数などでセグメント可能な状態にする)
2)コンテンツの流れで遷移した数をそれぞれ測定可能な設定をする
3)セグメント軸で各数字を記録していく
4)想定通りであれば強化、想定と異なれば検証し改善

 このような取り組みをすることで、客観的に細かくユーザの気持ちを考えた施策や検証を実施できるようになります。

まとめ

・ユーザ視点でKPIや施策を考える
・簡単に設定できないセグメント軸やKPIでも設定をして取得できるようにする
・量的なKPIばかり追わず、セグメントしたKPIを追う
・施策の成否に一喜一憂せず、傾向を探り次につなげる

小坂 淳氏

株式会社メガ・コミュニケーションズ マーケティングディレクター。一般社団法人ウェブ解析士協会 理事 フリーランス

2000年にウェブ解析企業の設立に参画し、2010年ウェブ解析士資格立ち上げに参画。フリーランスを経て、2018年4月より札幌に拠点を移し中小企業や自治体のデジタルマーケティング支援やコンサルティングを行う。

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