ICTコラム

第16回 ウェブサイトの“○秒ルール”と“ユーザビリティ評価テスト”

内容

1.はじめに~人工知能の波が到来

AI(Artificial Intelligence:人工知能)の新しい波が到来しています。AIは、まさにIT業界でいま最もホットなテーマの一つになっています。

「人工知能のプログラムがチェスや囲碁や将棋のプロ棋士に勝った」
「人工知能が短編小説を書いた」
「人工知能で“自動”走行可能な車が開発された」

皆さまの会社における業務にも、AI導入の波がやってくるのかと漠然とイメージしておられる方も多いことかと思います。

今回の記事の目的は、まず第一に「AIとは何か」を学んでいただくことにあります。そして、最後には「どんな仕事をAIに任せればいいか」について、昨今のウェブサービスを例えに、解説していきます。

そこで、二つのテーマを設定しました。

  • 人工知能(AI)が活用できる業務とは何か

  • 三つのキーワード

三つのキーワードとは
① 学習
② 推論
③ 機械学習
です。

2.「AIを活用できる業務」とはなにか

AIが活用できる業務とは一文で言い切ると人間が与えたデータ(知識)の中から“隠れた関係性”を自動的に「①学習」し「②推論」することができる業務」だといえます。

具体的に、オンラインビジネスにおけるAI活用事例で確認してみます。

3.オンラインビジネスにおけるAI業務

  • 図1 スーパーの買い物客が買った商品のバスケット内容調査[神嶌敏弘 2001]

    実は、ショッピングの分析などで用いる「バスケット分析」がAI活用事例の一つです。

    お客さまがある商品を購入された際に、同一レシートで一緒に買われている商品を分析し、関連性の高い商品を発見して、販売促進につなげるための分析を「バスケット分析」といいます。

    バスケット分析では、「買い物」という情報から将来使えそうな知識(データ)を「①学習」して「②推論」して見つけだしています。

    オンラインショッピングで、「お勧めの商品」が提示されるケースがありますね。購入者の過去の買い物行動の過去の知識を「学習」して「推論」して、おすすめ商品を見つけ出しています。このバスケット分析を応用しているのです。

    AIの分野では、単なる「学習」ではなく「③機械学習」という手法で知識を処理します。

(ア)機械学習とは

機械学習とは、簡単に定義すると、

  • 入力(データ)

  • 処理(パターン認識、形態素解析など)

  • 出力(処理結果に基づく最適なデータの表示)

を基本的な流れとする統計分析手法です。

例えば、AIの画像認識システムがあったとします。

画像認識に必要な「特徴」とは、色や、輪郭や、寸法や、実際に見えているサイズ……など考えればきりがないほど種類があります。

人間の着目点の限度を超えると統計分析で分類しようにも手計算では分析困難となります。そこで、機械学習のプログラムが代わりに延々と計算を繰り返して画像認識の精度を上げてくれるのです。

これを応用することで、近年では、人間とイヌとネコの写真からネコだけを抜き出す、といった単純な分析だけでなく、ネコの種類さえも識別できるようになりました。

この仕組みのウェブサービスでの実用例は、「Googleフォト」です。アップロードした写真を自動でアルバムに分類してくれる優れた整理機能を実現しています。

▲図2 これは筆者の飼いネコの写真。機械学習ではこの写真を分析しても「どれが本物のネコか」や「果たしてイヌなのかネコなのか」が判別できるはずです。しかし、以前Googleフォトへこの写真をアップロードしたら「犬」と分類された経験があります

(イ)AIにできる業務とできない業務

万能とも思われがちなAIですが、実は、人間であれば簡単にできる仕事が、まったくできないことがあります。

例えば、「評価軸」を自分で設定することができません。これは最低限、人間がやらなくてはなりません。“AIによるウェブ分析”を例に説明しましょう。

ある企業が予算をオンラインショッピングのリスティング広告に投下するか、SEOへ投下するかを決めようとしているとします。

過去の知識(データ)をもとに機械学習を行ったところ以下の二つの推測が出ました。

  • 広告に予算を投下したら、“利益率は目標を下回るが売上は目標を上回る

  • SEOに予算を投下したら、“利益率は目標を上回るが売上が目標を下回る

このとき、AIはどちらを選ぶかは判断できません。これは、企業の担当者によって、社内外のステークホルダー(利害関係者)の調整をして自分で「評価軸」を決める業務が必要なのです。

4.人の業務は「AI」にとって代わられるのか

このように、AIのビジネス活用が活発化している昨今、どんな顧客の価値を“評価軸”として定め、“独自性”を発揮して「非競争のサービス」を実行するのかが、「ニンゲン」の腕の見せ所になります。

AIを業務の中で生かすには、ビジネスの評価軸を選定するにあたって、AIが膨大な情報の洪水に埋没しがちな新しい発見をするためのナビゲーターとなりうるか、といった視点を持ち導入を検討すべきでしょう。

5.引用文献

Brown lee Jason.“日常にある機械学習の応用例.” Post D(リクルートホールディングス). 2014年8月18日.
http://postd.cc/practical-machine-learning-problems/

CopelandMichael. “What’s the Difference Between Artificial Intelligence, Machine Learning, and Deep Learning?” NVIDIA. 2016年7月29日.https://blogs.nvidia.com/blog/2016/07/29/whats-difference-artificial-intelligence-machine-learning-deep-learning-ai/

ジャストシステム.“『ビジネス2.0』の視点:人工知能に置き換わると思う職種――2位は企画・マーケティング、1位は?” IT Media エンタープライズ. 編集: 林雅之. IT Media. 2016年8月30日.
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1608/30/news044.html

ジャストシステム. 職業別の仕事と人工知能に関する実態調査. 2016年8月30日.
http://www.justsystems.com/jp/download/contents/fastask/biz/report/fa_report-ai-20160823.pdf

マービンミンスキー(Marvin Minsky). 知の逆転. 編集: 吉中真由美. NHK出版, 2012.

五味弘.“人工知能のつくりかたー人工知能プログラムと普通のプログラムは何が違う?” 日経BP IT-Pro. 2016年8月31日.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/082600181/082700001/

斎藤昌義. “コレ1枚で分かる「人工知能の3つのアプローチ」.” ITメディアエンタープライズ. 2016年4月11日.
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1604/11/news037.html

松田雄馬. “AIとは何か–コンピュータの歴史から紐解く人工知能.” ZD Net Japan. 2016年2月24日.
http://japan.zdnet.com/article/35077920/3/

神嶌敏弘. “人工知能って何?” 人工知能学会. 2001年7月.
http://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIwhats.html

茂木健一郎(インタビュー). “東洋経済オンライン.” 「今の人工知能には弱点がある」. 編集: 塚田紀史. 東洋経済オンライン. 2015年12月5日
http://toyokeizai.net/articles/-/95016

長澤 大輔氏

株式会社A&S代表取締役。

株式会社セガエンタープライゼス(現(株)セガゲームス)にて海外CS事業、新規事業開発プロジェクトマネージャーを経たのち、アメリカオンライン(AOL)、大手ウェブインテグレーション企業アイ・エム・ジェイを経て現在に至る。オンラインコンテンツビジネス開発業務に約20年携わる。筑波大学大学院ビジネス科学研究科(国際経営MBA)にて感性工学や統計分析を学ぶ。
ウェブ解析士協会公認ウェブ解析士マスター。中小企業庁委託(ミラサポ)派遣専門家。デジタルハリウッド主幹ディレクター。

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