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2020年6月に施行される「改正食品衛生法」で義務づけられる“HACCP(ハサップ)”とは何か?

2018年6月に公布された「食品衛生法等の一部を改正する法律」のうち、「HACCPに沿った衛生管理の制度化」が、今年6月1日に施行されます。この法改正で、お弁当屋さん、レストラン、食品メーカーなど、食品関連事業者さまにはどのような衛生管理が求められるのでしょうか。厚生労働省に聞きました。

これまでの「完成品からの抜き取り検査」から、「工程そのものの管理」へ

2018年に食品衛生法が改正され、今年施行されます。まず、この改正の理由について教えてください。

  • ▲厚生労働省
    医薬・生活衛生局 食品監視安全課
    HACCP推進室 HACCP推進専門官
    奥藤 加奈子氏

    「現在の日本においては、少子高齢化や共働き世帯の増加にともなう外食、中食の需要増や、輸入食品増など食の“グローバル化”が進んでおりますが、そうした環境の変化にともない、食中毒事案数、被害者数は下げ止まっている傾向にあります。そうした食中毒の多くは飲食店であったり、お弁当や仕出しのお店で発生していますが、最近は流通の広域化にともない、それらの食中毒がより広がりやすくなっています。こうした下げ止まりの傾向をなんとか打開し、食中毒事案そのものを減らせないかということで、今回、食品の安全性を確保する法律である食品衛生法を改正するに至ったのです」

この食品衛生法改正で、食品の衛生管理はどのように変わるのでしょうか。

「改正のポイントはいくつかありますが、その中でも大きなものが『HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化』です。HACCPとは『Hazard Analysis and Critical Control Point』の頭文字をつなげたもので、海外でも広く利用されている衛生管理の国際規格です。これまでの食品衛生管理では、最終製品から抜き取り検査を行い、問題がないかを確認する方法が一般的でしたが、HACCPでは原材料の受け入れから最終製品までの全工程の中から、危害要因の防止につながる特に重要な工程、たとえば何度まで加熱する、何度で何分冷却するといった部分を『CCP(Critical Control Point/重要管理点)』と定めて連続的、継続的に監視し、記録することにより、製品の安全性を確保することになります。このHACCPは、じつは改正前の食品衛生法にも一部採り入れられていましたが、普及が進まないことから、2013年よりあらためて検討が行われ、今回の法改正で義務化されたのです」

これまで“経験上やってきた衛生管理”の見える化、明文化を

対象となるのはどのような事業者なのでしょう。

「食品を製造、加工、販売する事業者、飲食店や喫茶店を営業する事業者などのほか、野菜をカットして容器に入れ販売する八百屋さん、量り売りするお米屋さんなども対象となります」

そうした新たな手法が義務化されることにより、事業者さまの負担はどうなりますか。

「厚生労働省としては、HACCPの義務化で事業者さまの負担が増えるとは考えていません。これまでの食品衛生法は、企業の規模や事業内容が異なっていても、画一的な管理が求められていました。しかし今回の法改正では、事業者さまの事業内容に合った適切な衛生管理を行うことができるようになり、負担の軽減にもつながるのではないかと考えています」

HACCPの義務化により、食品等事業者の衛生管理はどのように変わるのでしょうか。

「HACCPの義務化は、まったく新しいことをはじめるものではありません。また新たな機器や設備の導入も、基本的には必要ありません。現在、食品関連で事業を続けていらっしゃる方は、いま行っている衛生管理に問題がないからこそ、営業できているはずです。HACCPで求められているのは、その現在行っている衛生管理の手順をきちんと記録するということです。たとえばお豆腐屋さんだったら豆乳を加熱する時の温度を確認する、ハンバーグを出すレストランであれば焼き上がったハンバーグに串を刺して肉汁が透明であることを確認するといった内容になるでしょう。つまり今まで経験上やって確認していたことを明文化して記録するということです。お願いしたい具体的な中身は二つ、『衛生管理計画の作成』と『管理記録の作成保存』になります」

食品等事業者団体が作成した「業種別手引書」のひな形を使うことで負担なく管理が可能

その二つは、具体的にどのようなものになるのでしょうか。

「こうした話しを耳にして、なにか面倒なことをやらなければならないと心配なさる事業者さまもいらっしゃるかもしれません。でもこれらは難しいものではありません。じつは厚生労働省は、業界団体と協力し、業界団体が食品関連事業の分野ごとに作成した『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書』をホームページで公開しています。この手引書はそれなりのボリュームがありますが、じつはその中に『衛生管理計画』ひな形を用意しています。事業者さまはご自身の業務にあてはまる手引書をダウンロードし、ひな形をそのままお使いいただければ、HACCPに沿った衛生管理ができるのです。『衛生管理計画』のひな形は、細かい規定を一から作るといったものではなく、選択肢に丸をつけるだけのものが中心ですし、『管理記録の作成保存』については、1カ月ぶんがA3の用紙に1枚、壁に貼り必要に応じて記入するレベルのもので結構です。重要なのは衛生管理が作業者の頭の中だけで行われているのではなく、第三者が見て、きちんとわかることです。実際に分野ごとの手引書をご覧になっていただければ、『ああ、今までやってきたことだ』とご理解いただけると思います」

ただ事業者さまによっては、製造工程で手が塞がっていて記録をつけることが難しいという方もいらっしゃると思います。

「手引書に用意したひな形はあくまでも例であり、必ずその通りでなければならないというわけではありません。たとえば確認した内容を音声で記録するなど、事業者さまのご都合にあわせた方式でも大丈夫です。さきほどハンバーグを例に出しましたが、これも一つひとつ焼き上がり、チェックするたびに記録するのではなく、営業終了後に『今日は全数チェックして問題がなかった』と記録を残すというやり方も可能です。また温度の管理については、ICT機器を導入して、自動的に記録する方法も考えられます。人手による確認よりもそうした方法のほうが簡易でかつコストダウンになるケースであれば、ご検討なさってはいかがでしょうか。厚生労働省の管轄外ではありますが、そうしたICT機器の導入に、国や地方自治体からの補助金や助成金が用意されている場合もあります」

HACCPの義務化後、保健所は「指導よりも助言」で対応

食品衛生法改正により、たとえばHACCPに対応していない事業者に罰則が与えられるといったことはあるのでしょうか。

「HACCPが義務化されても、事業者さまへの対応はこれまでと変わりません。事業者さまに直接対応するのは自治体の保健所の職員ですが、厚生労働省としては『まず施行当初は指導よりも助言を』というスタンスでの対応をお願いしています。以前と同じく、事業者さまには保健所の食品衛生監視員が定期的に立ち入りを行いますが、そこでHACCPでの食品衛生管理ができていなくても、すぐに罰則というわけではなく、改善に向けての助言を行い、より良い衛生管理を目指していくことになります。一方、HACCPとは直接関係しませんが、この法改正を機に、保健所の指導内容の平準化が行われます。これまで、極端な例では『東京都で営業していたお店が千葉県にお店を出す時に、東京都と同じ衛生管理ではダメだと言われた』とか、さらには『同じ保健所でも担当者が代わると今まで以上の衛生管理を要求された』というケースも見られました。今回の法改正で業界団体が手引書を作成したことで、事業者さまは保健所からこの手引書に書いてある以上の衛生管理を求められることはありません。なお罰則については、これまでと変わるところはありません。衛生管理に問題があると保健所が認めた場合は助言、指導を行い、改善が認められずこのままでは食中毒の発生につながると判断された場合には行政指導として営業の禁停止処分を行うこととなります。HACCPによる衛生管理の導入が遅れたことで、そのまま営業停止になるといったことはないのでご安心ください」

HACCP対応における不明点は地域の保健所や業界団体に相談を

HACCPへの対応でわからないことがある事業者さまも多いかと思います。どのようにすればいいでしょうか。

「まずは地域の保健所にご相談ください。保健所は事業者さまを指導、監督する立場であることから相談しにくいと感じられる方もいらっしゃるとは思いますが、さきほど申し上げたようにすぐに厳しい指導を行うというわけではなく、どのように対応していけばいいか相談の上、助言させていただくことになります。また業界団体にもご担当者がいらっしゃると思いますので、そちらにお問い合わせされてみてもいいかと思います」

HACCP対応を進める上で、ほかに注意点はありますか。

「HACCPは、ここまでやったからいい、ここまでやれば終わりだというものではなく、衛生管理をつねに振り返り、質をさらに向上させていこうという取り組みです。はじめてのことで事業者さまには戸惑いもあるかとは思いますが、これをみなさんがきちんと実行していただくことで、事業者さまそれぞれがどのような衛生管理を行っているか保健所でもきちんと把握できることになります。つまり言い方は悪いですが、保健所にとっても今までのような“重箱の隅をつつくような監視”をしなくても大丈夫になるのです。また事業者さまにとっては、事業の実態にあわせた管理ができることになり、より少ない負担での衛生管理を実現できるのです。法の施行まではもうわずかですが、こうした趣旨をご理解の上、ご協力をいただけたらと思います」

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