電話応対でCS向上コラム

第71回「変わる電話応対教育」

電話応対は未経験の分野

 最近、企業に入ってくる若い社員たちには、できないことが三つあると先輩社員が嘆いていました。取次ができない、電話で道案内ができない、それに伝言ができない、というのです。確かに、“スマホ世代”の若者には、この三つはほとんど未経験の分野でしょう。一人一台とモバイルが行き渡った家庭では、電話を取り次いだり伝言を頼むことがありません。道案内もスマホを見れば済みますから、口頭で説明することはないのです。知人が、ある市役所に行くために電話で場所を尋ねたところ「誰かその辺に歩いていませんか?その人に訊いてください」と言われたと怒っていました。伝言にしても然りです。誰から、何の件で、何時に、折り返しまたかけてくださるのか、電話番号は……。これらのことを確認する伝言の基本を知らないのです。

生き残れる応対者とは

 AI(人工知能)が電話応対をする時代が始まっています。人間の応対者は、より専門的で高度な応対だけを担うことになりそうです。研究者によれば、その時代に生き残れる能力は、クリエイティビティー、マネージメント、ホスピタリティーだというのです。具体的に言えば、高度な専門知識、技能、経験を求められる応対。苦情対応などを含めた経営、組織運営に責任を持つ応対。それに、悩みごとや相談ごとなど、メンタルな内容に特化した応対ということになりましょうか。その応対者は、知識や経験、スキル以上に、究極の人間力を問われることになるのです。

変わり切れない電話応対

 敏感に時代の変化を捉え、新しい電話応対教育に取り組んでいる企業や指導者もいます。しかしその一方で、旧態依然の指導も残っています。親切、丁寧、正確、迅速という昭和の電話応対指導から抜け出せないのでしょう。それはかつての正解であり、今もなお必要なことでもあります。しかしその実現へのアプローチは明らかに違うはずです。例を挙げれば、ここ数年の電話応対コンクールです。変わりつつはありますが、まだまだ正しい言葉づかい、流暢できれいな話し方へのこだわりを感じます。未だにスクリプトを書き、練り上げた文章を覚えて、それを音声化している選手が多いのがとても気になります。一度書いてしまった文章は、自然な応対にはならないのです。電話応対で必要なのは、聴き取り訊き出す力と、インプロ力(即興力)です。本格的なAI時代に入りますと、その差が歴然としてくるでしょう。

心が伝わる電話応対

 最後にもう一度、改めて「電話応対とは何か」をシンプルにまとめます。
「電話をかけてきたお客さまから、その用件を聴き取り訊き出し、迅速に的確に、感じよく応えること」一言でいえば、まことに単純なことです。そのことをどう実現させるかのノウハウは、皆さんそれぞれがお持ちだと思います。以下は私の考えです。

①お客さまは何を知りたいのか。
②そのことを聴きながら考えながら話す。
③流暢でなくてもよい。訥々でもよい。
④言葉より気持ちを伝える声の表情を磨く。
⑤正しい敬語より心の込もった敬意表現。
⑥文法より音法が大事。
⑦常套句より自分の言葉。

 この7項目を簡単に補足説明します。①何を知りたいかの情報は、お客さまが持っています。その情報を知るためにまず訊くのです。②話し言葉では「間」が大事です。聞いた言葉の意味は「間」で理解します。真剣に聞き、真剣に考えながら訊くことで自然な「間」が生まれます。③「流暢に話す人は考えていないからだ」と、言語学者の外山 滋比古さんはおっしゃいます。きれいで心地よくても、質問も挟めません。④一つ一つの言葉には表情があります。文字の言葉の意味は一つですが、声にした時の表情は全部違います。その違いを表現する力が必要です。⑤「総務課長にこの書類を届けてくれませんか」「忙しいところを悪いんだけど総務課長にこの書類届けてくれない」どちらが気持ちよく動いてくれるでしょうか。⑥話し言葉では、文法にこだわるより音法が大事だとおっしゃるのは、筑波大学名誉教授の城生 佰太郎さんです。⑦手垢のついた常套句、常套表現より自分の言葉を大切にしましょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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