電話応対でCS向上コラム

第54回「道案内ができない」

下手になった道案内

 最近、道を訊いても、きちんと分かるように説明できる人が少なくなりました。言われた通りに行こうとしてもますます迷ってしまいます。二人、三人と訊いてやっと辿り着いたという経験はありませんか。これはスマートフォン、パソコンの普及と大いに関係があるようです。それらのアプリケーションを使えば、道を訊くことなど、ほとんど必要なくなったのです。

 車にナビゲーションがついてから、地図を読めない人が増えたと言われます。20~30年前までは、ドライブで初めてのところに出かける時には、事前に地図を詳細に調べてから出かけたものです。それでも途中で何度か地図を見直し、人に尋ねたりしました。今はほとんどの車にナビゲーションがついています。目的地さえ打ちこんでおけば、自分が今どこを走っているかも分からずに、ナビゲーションの指示通りに右折したり直進したり左折したりしながら、迷うことなく目的地に着けるようになりました。それがさらに進んで、今ではスマートフォン一つ持っていれば、いとも簡単にどこにでも案内してくれるのです。

道案内は時代遅れか?

 電話応対技能検定(もしもし検定)の実技試験で、道案内の問題を出すことがあります。すると「今はスマートフォンやパソコンで簡単に分かるのに、電話で道案内なんて時代遅れですよ」と苦情を言って来る人が必ずいます。確かに現実には電話で道案内をする機会は減っているでしょう。そのため、道を尋ねられてもまともに説明できない人が増えているのです。実はそのことが問題なのです。

 かつて私はNHK日本語センターで仕事をしていました。日本語センターでは、アナウンサーをはじめとした放送関係者や、一般企業、教育関係者など、話し言葉に関わる幅広い職業の人を対象に、「読む、聞く、話す」というコミュニケーション力全般の実践指導を行っていました。その講座で最初に行う実技課題が「道案内をする」だったのです。それは、単なる説明力だけではありません。訊き出す力、判断力、相手への心くばり、音声表現力のトレーニングなど、すべてのコミュニケーション力に必要な基本でした。

相手が分かっていること、分からないこと

 道案内の難しさは、その場所をよく分かっている自分と、分かっていない相手との会話だという点です。理解がずれるのです。道案内に限らず、説明や報告をするに当って最も大事なことは、自分が分かっていることを一方的に話すのではなく、まず聞き手が何を分かっていて何が分からないのかを正確につかむことです。

 話を具体的な道案内の説明に戻しましょう。

①まず、相手が今どこにいるのか。説明の起点を明確にして、そこから案内を始めます。「東南線のA駅は改札口が二つあります。南改札口を出てください」
②「私どもの会社は、そこから南に約350メートル、歩いて5分ほどのところにあります」と、全体像を初めに伝えます。それから具体的に説明します。
③「南改札口を出ると、正面にB銀行、その隣にC証券があります」
④「B銀行とC証券の間の道を直進してください。道の両側は商店街です」
⑤「四つ辻を二つ過ぎて250メートルほど行きますと、左にドラッグストアD、右側にコンビニエンスストアEがあります」
⑥「コンビニエンスストアEのすぐ先を右折してください」
⑦「さらに100メートルほど行った左手に、グレーの4階建てのビルがあります。1階はF洋装店で3階と4階が私どもの事務所です」
⑧「F洋装店の入り口右側にエレベーターがございますので3階までお上がりください」

 このように、道案内では、方向、距離、歩いて(車で)何分という全体像、目立つ途中の目印、ポイントまでの距離、建物の構造、色などの外観を詳しく説明することが大事です。

 お気づきのように、この道案内の基本は相手の立場に立って、相手の人と一緒に道を辿って行っていることです。このことは道案内に限らず、すべての説明に必要な心くばりです。

 スマートフォンやナビゲーションの普及で、実際に道案内をする機会が少なくなった若い皆さんにとって、道案内は恰好の説明力トレーニングの教材なのです。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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