電話応対でCS向上コラム

第49回「“さま”と呼ぶか“さん”と呼ぶか」

前回は、自分の名前の名乗りを中心に書きましたが、今回は、相手の名前を呼ぶ時に、名前の後につける言葉について考えます。呼びかけは、「お客さま」という一般名詞で呼ぶよりは、お名前で呼ぶほうが間違いなく距離は縮まります。この時、「さま」なのか「さん」なのか、役職名がよいのか、ニックネームで呼んでもよいのか、敬称、愛称なども絡んで、この選択にもやもやしている人は結構多いようです。

「さん」から「さま」へ医療機関の変化

まず「さま」がよいか「さん」がよいかを考えましょう。「さん」から「さま」へ大きく変化したのは医療関係での患者の呼び方です。かつては「患者さん」であり、「○○さん」でした。それが最近は、ほとんどの病院で「患者さま」「〇〇さま」と呼んでいます。町の医院などでは、今でも「〇〇さーん」と呼ばれることがあります。とても懐かしい気がします。そしてファミリー的な親しみを感じます。「さん」から「さま」に変わったのは、以前の「病気を診てやる」という医師と患者の関係から、病院経営が企業化して「患者はお客さま」という考え方に変わってきたことにあると思います。そして、教育体制の進んだ大病院などの研修で、マナーの先生から、より敬意度の高い呼び方として、「さま」と呼ぶことを奨められたのが始まりではないかと思います。それが徐々に個人医院にまで広まったのでしょう。

「さま」と「さん」はどう違うのか

では、「さま」と「さん」はどう違うのでしょうか。一般的には、「さま」はあらたまった時に使うのに対して、「さん」には「さま」と較べると、敬意だけではなく親しみの気持ちが含まれています。お隣さんとか、おいもさんなどの言い方です。手もとの大辞林をみてみますと、「さま」は、人を表す名詞、または身分、居所などについて尊敬の意を表す。例として、〇〇さま、お母さま、殿さま、仏さまなどが挙げられています。一方「さん」は「さま」が多様な形で使われるように変化した形。①人名、職名、などにつけて敬意を表す。〇〇さん、お父さん、課長さんなど。②体言につけて丁寧の意を表す。ご苦労さんなど。③動物名などにつけて親愛の意を表す。おさるさん、などと書かれています。つまり、「さん」づけには、敬意+丁寧、親愛の情が込められているのです。

親しくなったら距離感を縮める

一般の営業電話などでも「岡部さま」と呼ばれることが多くなりました。カードで買い物をしたりしますと、折り返すように「岡部さま」と言われます。別に問題はないのですが、どこかマニュアルが垣間見えて好きではありません。言葉としての敬意はあっても親しみを感じないのです。以前は「お客さん」と言っていましたね。今はほとんどが「お客さま」になりました。一般名ですと違和感はないのですが、個人名になるとスッーと入ってこないのです。だからと言って、一旦「さま」で呼んでいるお客さまを、途中から「さん」に切り替えることはかなり難しいでしょう。しかし、営業などのビジネスには「敬意」とともに「親愛」が欠かせません。切り替えるためには、親しくなったお客さまと相談することです。前回にも触れましたが、欧米では最初はフルネームで呼びかけますが、慣れるとすぐ名前だけで呼び合ったり、ハンドルネームで呼んだりするそうです。首脳会談でも、2回目からは双方ラフな服装で、お互いにニックネームで呼び合っている光景をテレビで目にします。「あなたともっと親しくなりたいのですが、お名前をどうお呼びすればよろしいでしょうか」と、率直にうかがうのも一方法でしょう。その自然さが、お客さまとの距離を縮めるには最も良い方法ではないかと考えます。

二重敬語も気持ちの表れ

学校の先生や医師に対して、「先生さま」という呼び方をするのを、昔はよく耳にしたものです。「社長さま」「専務さま」など、役職名に「さま」をつける言い方は今でもかなり聞きます。役職名はそれだけで敬称だから、それに「さま」をつけるのは二重敬語になるので誤りとされています。しかし、口語体の話ことばでは、相手への敬意が自然と二重敬語になることはあるのです。「さま」であれ「さん」であれ二重敬語であれ、言葉は気持ちの表れです。場を考えながら、常に相手を大切に思う心で呼びかけたいと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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