電話応対でCS向上コラム

第23回 メディエーションで活用されるIPI分析~構造を分析し、対応する~

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、第三者として調停に関わるメディエーターに必要な資質と対話に介入するうえでの注意点について、あらためて考えてみました。今回は、IPI分析を使った、メディエーションにおける構造の分析の仕方とその際の注意点についてお話したいと思います。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

構造の分析に適したIPI分析

IPI分析とは、Issue(イシュー:争点)、Position(ポジション:立場・主張)、Interest(インタレスト:ニーズ・要求)の頭文字をとった分析法のことです。このIPI分析をメディエーションに活用する場合、当事者の話から「(I)争点、(P)立場・主張、(I)ニーズ・要求」を抽出し、その構造を分析し、内容ごとに対応を考えます。

たとえば、これを以前ご紹介した「業務終了時のお茶の片付け事件」に当てはめてみましょう。まず「争点」は、「新人であるHさんは、業務終了後にお茶の片付けをすべきか否か」でした。次にHさんの「立場・主張」は、「お茶の片付けをしたくない」というものでした。そしてHさんの「ニーズ・要求」は、「先輩から認めてもらいたい、職場のルール作りに自分も参加貢献したい」というものでした。

Hさんは「立場・主張」において「片付けをしたくない」と、はっきりとNOを宣言しています。メディエーターはこの時、ふたつの作業をします。まず、問いを言い換え、「業務終了後のお茶の片付けについて、ご意見の対立があるのですね」と問いかけます。次に、答えを言い換えます。「お茶の片付けについて、異論がおありだということですね」と。

このような言い換えを「パラフレーズ」と言います。こうした言い換えをすることで、誠実に、そして正確に話を理解しようと努めていることが相手に伝わり、相手との信頼関係が増します。また言い換えることにより、相手も自分の話を整理し、気づきを深められる効果があります。そして次にメディエーターは、「開かれた質問(自由回答のできる質問)」をすることで、「ニーズ・要求」の糸口を探します。

この「ニーズ・要求」には、「有形的なもの(お金や昇進、地位など)」と「無形的なもの(認めてもらいたい、好かれたい、など)」のふたつがあります。今回Hさんが求めた「ニーズ・要求」は後者になります。そしてここにメディエーションの課題が存在します。メディエーターはしばしば、有形的な要求を無形的なものへと変えてしまうことがあります。

解決を求めるがあまりに起きる、心理的な介入

たとえば、当事者は「金銭的な要求」をしているのにも関わらず、社内のルールとして「金銭的な解決はしない」と定めている場合、メディエーターは解決を求めるがあまり、「具体的(有形的)なニーズ」を「非具体的(無形的)なニーズ」に変えてしまうことがあるのです。具体的には、「あなたのお金の要求ですが、本当は、このような問題へのご自身の意見を会社内部で尊重してもらいたい、ということなのではないですか」と誘導してしまうということです。

有形的なニーズと無形的なニーズは両立しません。そのため、時にメディエーターは、処理しやすい無形的なニーズを見つけることで、大切な有形的なニーズを否定しまうことがあるのです。これは作られた無形的ニーズや、メディエーターの心理的介入といわれる問題でもあります。

しかしまた、当事者が対話を通して、多くのことに気付くのも事実です。それは対話を通して当事者の人間力が高まったからであり、自らが気付き、発見したものです。そしてその過程を外から支え、応援する、それがメディエーターの役割なのです。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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