お客さまの心の声を読み解く難しさ-三井住友海上あいおい生命保険株式会社-


お客さまからの不可解な質問

以前、お客さまから「あなたは何歳なのか教えてください」と訊かれたオペレーターが、その質問に答えなかったために苦情をいただいたことがあります。この苦情への対応として「こういう場合はどのように回答したらよいのでしょうか?」とSV(スーパーバイザー)から尋ねられたのですが、私も初めて耳にする質問だったため、すぐに回答できませんでした。お客さまはなぜ、そのような質問をしたのでしょうか? それが理解できたのは、録音されたお客さまとオペレーターの会話を聴いてからでした。実はこのお客さまとオペレーターは、会話の中で互いに気持ちの行き違いが生じていました。お客さまは、応対者が人の気持ちを汲み取れるだけの人生経験を積んでいるのかを確認したかったのです。その質問は「あなたの対応には納得できません」という“サイン”だったのです。

気持ちと言葉の不一致

そこで思い出したのが、数年前に電話応対技能検定(もしもし検定)の品質向上研究会で受講した、平田 オリザ先生のコミュニケーションについての講義です。それは、「気持ちと言葉は必ずしも一致しないことがある。相手の心の奥深くまで読み解くことがコミュニケーションでは重要である」という興味深い内容でした。当時はその講義にとても共感しましたが、言葉と気持ちの不一致についてすっかり忘れてしまっていました。

この苦情への対応は、その後SVがじっくりとお話を伺ったことでお客さまは納得されました。その時お客さまは、応対したSVの年齢を訊くことはありませんでした。お客さまが送った“サイン”は「もっとじっくり私の話を聴いてください」という心の声を表現したものだったのです。

コールセンターにおける“人(ヒト)”としての役割の変化

AI(人工知能)の躍進により、コールセンター業務も将来はAIにとって代わられる時代が来ると言われています。しかしながら、このような深い心情察知が必要な電話応対業務は、やはり“人(ヒト)”が担当する必要があるのだと確信した出来事でした。人(ヒト)による電話応対は、量より質が重視される時代が来ることは間違いありません。画一的な案内はAIが担い、その一方、人(ヒト)はお客さまの気持ちに深く寄り添うことが必要とされる業務を担っていく、そのような時代がすぐにやってくるでしょう。だからこそ、電話業務が「脱マニュアルを目指すべき」と言われているのだと思います。私たち指導者も、マナーや音声表現はもちろんですが、お客さまの心の声を読み解くような指導も必要になると思います。自らの気持ちや要望をそのまま言葉に表現する人もいれば、ほかの言葉を使って自身の心の声を表現する人もいる。平田先生の講義から数年経過して、身をもってこのことを理解することができました。

「あなたは何歳なのか教えてください」この質問にAIはどのように回答するでしょうか?それが楽しみでもあり、その回答が電話応対の新たな方向性を示してくれるとも思っています。

次回の講師は、NTTコム エンジニアリング株式会社の中澤 響さんです。会社のモットー『めいげんそ(明・元・素)な言葉をつかう』を電話応対にこそ活かそう、と指導をされています。“男声”の強みを模索する男性企業内指導者です
本間 陽子氏

本間 陽子
三井住友海上あいおい生命保険株式会社 お客さまコンタクトセンター部所属。航空会社地上職を経てコールセンター業界に入り、2006年より現職。業務・応対品質モニタリング指導、各種コンクール指導などを行っている。電話応対技能検定指導者級資格保持者。昨今は、より視野の広い指導ができることを目指して心理学や言語学の勉強にも勤しんでいる。