電話応対でCS向上コラム

第11回 「当たり前」の難しさ-日本ハム株式会社-

 現在、個人がいつでも情報を発信できるSNS全盛の時代です。接客や電話応対でも、消費者の意に沿わないことがあればすぐにSNSに投稿され、拡散します。研修でも受講者に「どのような応対であればお客さまに満足いただけるのか」と質問されますが、私はいつも「当たり前の応対をすれば良い」と答えています。しかし、この「当たり前」がとても難しいのです。

お客さまの立場で考え行動する

 私が入社した当初は、接客のマニュアルやQ&Aなどは、まだ整備されておらず、電話応対にしても個々のスキル任せでした。よくある問い合わせは「賞味期限が過ぎたが、食べてもいいか?」というもので、企業として「食べていい」とは応えられません。このような応対も含め、私はあらゆる確認事項をノートに書き込みました。お客さまとの応対を重ねるごとにその書き込みは増えていき、ある時、ノートに記した説明をしたところ、お客さまからとても感謝されました。それで有頂天になった私は、別のお客さまに対しても同じ説明を繰り返したのですが、期待したような反応は得られません。挙句に「そんなことが聞きたいのではない」と言われる始末です。失敗の原因は、個々のお客さまに合わせた応対ができていなかったからです。事象は同じでもそれに至るストーリーは、お客さまによって異なります。弊社の行動規範は「お客さまの立場で考え行動する」ですが、そんな「当たり前」のことができていなかったのです。

気づきから生まれるもの

 マニュアル的な説明に囚われ、お客さまとの「つながり」を無視していたことに気づいた私は、お客さまが「なぜ電話をかけてきたのか」「どうしてほしいのか」「何をどう伝えればよいか」などを考えながら話すようになりました。以前は、話している間に次に話すことを考えていましたが、お客さまに応じて、話す順番、言葉のチョイス、話し方を考えるようになりました。そのような応対の積み重ねが、弊社の「電話応対マニュアル」作成につながりました。これは、お客さまとの協働、つながりを意識した、私の気づきから生まれた集大成と言っても過言ではありません。

考え、創造することの大切さ

 2011年3月、あの東日本大震災発生の翌日から「停電で温度が上がった冷蔵庫の中の食品は食べられますか?」という問い合わせが続々と入り、「召し上がりは控えるように」という案内をしていた時がありました。当時、被災地への商品流通はストップし、供給再開は未定でした。その時、私はハッとしました。「……お客さまの食べるものがなくなる!」次の瞬間、私は「傷んだ食品の見分け方を伝えてあげて」と指示していました。その時「現状での最善の応対とは何か?」を考え行動した私は、やっと「当たり前」のことができたような気がしました。

 近い将来、AIとの共存が「当たり前」になり、電話応対のあり方も変わっていくでしょう。お客さまと企業にとって最善の応対を考え、創造する力を養うこと、お客さまとのつながりを大切にすることが、これからの電話応対に求められることではないでしょうか。

次回の講師は、ヤマト運輸株式会社南関東支社 関東クロネコアカデミーの山口 夏子さんです。社内で「校長」と呼ばれ、皆から信頼されています。明るく頼りになる企業内指導者です

山下 みどり氏

日本ハム株式会社お客様サービス部。国内企業、外資系企業での営業、米国勤務を経て現職。消費者応対、電話応対、ビジネスマナー、コミュニケーション関連の講演・研修を社内外で実施。神戸学院大学客員教授、神戸市消費者生活会議委員の経験を活かし、消費者志向経営推進の一環として、企業と社会の双方向コミュニケーションに取り組んでいる。

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