ICT導入事例 -株式会社印傳屋 上原勇七-

伝統工芸品「印伝」の魅力を発信 ウェブメディア活用のブランディングで新市場開拓

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「印伝」は、なめした鹿革を燻したり漆などで模様をつけたりして、袋物や服飾品などに仕立てたものです。中でも「甲州印伝」の印傳屋 上原勇七は400年以上の歴史を持つ老舗です。同社は長い歴史の中で、形状や色柄などに常に工夫を重ねてきましたが、現在ではウェブメディアを活用した情報発信・ブランディングにも力を入れ、海外有名ブランドや国内外のクリエイターともコラボレーションするなど、新市場の開拓を進めています。伝統工芸に根ざした製品を現代に、そして世界に広げようとするその取り組みが注目されています。

  • 【導入の狙い】時代と市場のニーズの変化に対応した伝統工芸品のブランディングを確立したい。
  • 【導入の効果】ウェブメディア活用によるブランディングによって海外市場や若年層へアピールできた。
ウェブメディアを活用した情報発信とブランディング戦略

海外出展で気づかされた市場ニーズとのギャップ

▲専務取締役・上原 伊三男氏

▲専務取締役・上原 伊三男

独特の風合いを持つ印伝の財布、キーホルダー、印鑑入れなどを愛用する人はたくさんいます。しかし伝統工芸品だけに「年配者向け」「高額」などのイメージを持つ人もいます。この状況を克服するために、同社では海外市場の可能性を探っていたところ、2011年にニューヨークで開催された服飾系の見本市「コーテリー展」に出展することになりました。陣頭指揮にあたったのは同社専務取締役の上原 伊三男氏でした。

「漆は英語でjapanと呼ばれていることもあり、印伝の和風イメージを強調すればバイヤーの注目を集めると思っていました。印伝を使った甲冑のコスチュームでプレゼンすることも考えましたが、面白がってもらえることと取引につなげることは別です。目の肥えた海外のバイヤーたちは、黒漆で仕上げたようなシックでエレガントなデザインを好む傾向がうかがえました」(上原氏)

そこで、海外で出展した際に好評だったシリーズを国内直営店でも販売したところ、大きな手応えが得られました。

「若い人や仕事を持つ女性が支持してくれました。着物と畳で暮らしてきた文化から世界観が変化していき、その時代の変化とともにニーズも変わっていたのです。実は、少し前からその兆候には気づいており、自分たちの情報発信とブランドイメージを見直すべきだという確信を得ました」(上原氏)


山梨とともに自然と人間をつなぐメッセージを明確にしてメディアで訴求

上原氏らのブランディング戦略は、印伝を語るストーリーの練り直しから始まりました。まず山梨という土地に根ざし、長い歴史を持つ伝統工芸であること。次に自然にも人にもやさしい天然素材であること、さらに伝統的な図柄だけでなく現代的なデザインもあることを、押しつけがましくなく伝えたいと考えました。こうして生まれたのが、「甲州とともに、歩む。」という動画です。2015年にTVで放映されたこのCMは、山梨の自然や四季の風物や、漆職人の仕事ぶりの映像と音だけで構成し、商品や社名の宣伝を極力抑えました。2017年には、このコンセプトをさらに洗練させた動画「Sense of Wonder」をつくり、ホームページにも特設サイトとして組み入れたところ、国内外で好評を得たのです。

「印伝の伝統的な柄である小桜や青海波、トンボなどは自然をモチーフにしたものです。印伝には、おしゃれ心だけでなく自然への畏敬の念が込められていることをアピールしたかったのです」(上原氏)

ホームページを見やすくするため文字数を減らし、画像主体に編集した愛用者のライフスタイルを見せるサイトも加えました。また2015年からはFacebookの活用も始め、本社からだけでなく直営4店舗及び自社運営の「印傳博物館」からの投稿で最新動向を伝えるようにしました。ここには現在、約4万人のフォロワーがついています。さらにInstagramの活用も開始し、若い女性たちにアピールする画像を中心に発信しています。

▲なめした鹿革を燻し、漆などで模様をつける「印伝」▲なめした鹿革を燻し、漆などで模様をつける「印伝」
▲なめした鹿革を燻し、漆などで模様をつける「印伝」


新たなコンテンツからコラボも生まれ職人たちの意識も変わった

発信するメッセージを明確にし、ホームページやFacebook、Instagramなどウェブメディアの特性を考えて使い分けながら、コンテンツマーケティングを展開しています。「INDEN-YA」の商標で英語版サイトも作り、イメージ動画も米国でネット広告の賞を獲得するなど海外からの評価も得ています。そして発信力を高めたことで、印伝に関心を持つ人の層を広げ、コミュニケーションを深めるだけでなく、ビジネスでも新たなコラボレーションが生まれました。このコラボレーションが、社内の職人たちにも思わぬ効果をもたらしたのです。

「ある海外有名ブランドからロゴパターンを漆で、と注文を受けました。印伝にも繰り返し模様がありますが、手刷りだから1品ずつ微妙に違う。それが風合いにもなります。しかし、この注文はそれを許さない厳しい基準でした。『難しい、でもやってみせよう』という職人魂に火をつける仕事になり、以来、国内外クリエイターとのコラボ製品には、意欲的に取り組むようになっています。伝統というのは、ボトムアップの革新で支えられていることを改めて認識しました。交流が深まるほど自分たちの見直しになります」(上原氏)

▲印伝は職人一人ひとりの手で作られる伝統工芸品▲印伝は職人一人ひとりの手で作られる伝統工芸品
▲印伝は職人一人ひとりの手で作られる伝統工芸品

伝統ある老舗だからこそ着実かつ進取的なICT活用

実は、ICT活用はウェブメディアだけではありません。POSレジを起点として在庫管理、顧客管理システムを連携させて、生産計画の精度向上にも効果を上げています。

同社では1990年代半ばからICT活用を進めています。人員管理から販売管理、卸売り管理、在庫管理、顧客管理、そして生産管理と進め、4つの直営店のPOSレジからの売上情報はすぐ在庫情報につながり、生産計画策定にも活用される仕組みを形成しています。

形状や色柄の違いでアイテムは合計で1万点以上あるため、集計や伝票の転記を手作業で行っていた頃は、社員への負担が重く、ミスも生じて、商品補充日のめども不明瞭でした。お客さまや取引先、協力会社にも迷惑をかけてしまう恐れがあり、ICT活用が必要でした。

今後は、ブランディングやお客様とのコミュニケーションにも活用するとともに、蓄積された情報をマーケティングや開発などの分野でも活かすため、ICT活用が必要だと考えているとのことです。

同社のICT活用は、必要性の高いところから着手し、じっくりと無理のない範囲で投資し、それを使いこなして次に進むというやり方で進化してきました。その間にICTという「道具」の有用性を見極めてきたのです。モノ作りに真摯に取り組んで来た老舗らしい歩み方は参考になります。

▲本社内にある展示スペースと「印傳博物館」▲本社内にある展示スペースと「印傳博物館」
▲本社内にある展示スペースと「印傳博物館」

会社概要
株式会社印傳屋 上原勇七
会社名
株式会社印傳屋 上原勇七
創業
1582年(天正10年)
所在地
山梨県甲府市川田町アリア201
代表取締役社長
上原 重樹
資本金
4,000万円
従業員数
85人
事業内容
印伝(革製品)製造販売
URL
http://www.inden-ya.co.jp/
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