ITコーディネータが考える「使えるICT」 Vol.21

【「情報共有」の罠(8)】
集団的意思決定の弊害

井門 良貴氏井門 良貴氏株式会社ウィルコ代表取締役。第1号ITコーディネータとして制度設立に関わる。東京大学法学部卒業。日本IBM在籍後、独立系コンサルタントとして活動。あらゆる業種の大企業から中小企業の経営改革に関わってきた。

我々が仕事上の意思決定や情報共有を行う際には、異なる感情、異なる論理、異なる意思が複雑に絡み合うことになるため、合意形成は思うよりもずっと困難であるということをこれまで述べてきました。今回は、そのような本質的困難に加え、集団的意思決定の際に発生すると言われている代表的な現象について概説します。

1.集団的意思決定を行う理由

経営改革を推し進める上でのICT導入・活用を含め、私たちが何らかの意思決定を行う場合、多くの人間が集まって議論を行います。最も賢明な個人が一人で決めるのではなく、集団による議論が行われるのには理由があります。それは、多数の人間が介在することによって「多様な視点」と「多くの情報」を取り込めることが期待され、それによって意思決定のレベルが上がることを想定しているからです。 この仮説は「参加メンバーが一定レベル以上の知力を持ち、同じ方向に向けて建設的な議論を行う」ことが前提となっていますが、会社などの組織で現実的に行われている議論は、この前提から大きくかけ離れてしまうことが多いようです。特に議論に関する教育がほとんど行われていない日本では、成り立ちにくい仮説と言えるでしょう。

少し悲観的な言い方をしてしまいましたが、民主的意思決定に、多様な視点と多くの情報を取り込めるというメリットがあることは間違いなく、それが活かされるように議論の成熟度を上げることができれば、理想的な意思決定ができる可能性はあるのです。

もし、経営改善のためのICT導入・活用の会議を行なった場合、参加メンバー全員が一定レベル以上のICTの知識を持ち、課題を明確に理解しているとしたら、多様な視点と多くの情報をそれぞれが取り込み、自社内で課題解決を実現できる具体的なシステムについて建設的な議論ができるはずです。しかし、多くの場合、理想どおりにはいきません。

なぜならば、「集団」であることによってメンバー間に望ましくない相互作用が発生しやすいからです。それが次に述べる、意思決定の質を大きく下げる五つの“現象”です。


2.集団的意思決定の質を下げる現象

(1)社会的手抜き

多くの人間が参加していることにより、「自分が知恵を絞らなくても、ほかのメンバーがちゃんと決めてくれるだろう」という意識が生まれ、議論への積極的参加の意欲が下がってしまうことです。百人の中の一人がそう思うだけならまだしも、多数の人間がこのような意識を持ってしまうと、結局、比較的多数の意見や、声の大きい人間の意見に引っぱられてしまい、誤った結論を導いてしまうことになります。これをICT導入の要件定義などで行われると、非常に困ります。

(2)同調圧力

これは、異なる意見を持っているにもかかわらず、多数意見に流されてしまうことです。日本では特に顕著な現象ですが、多数決の原則から考えると当たり前のことのようにも思えます。しかし、必ずしも多数意見が正しいとは限りません。パレートの法則※1に従えば真理は少数意見のほうにあるとも言え、この現象は間違った結論を導き出す傾向になりかねません。SNSに投稿した意見が炎上したり拡散していくのも、同調圧力の顕著な事例と言えるでしょう。これは、判断基準が客観的に合理的かどうかではなく、「皆と同じかどうか」になるため、意思決定の質を下げることにつながるのです。

(3)少数派影響力

議論を行うメンバーは対等の資格で意見を出し合うのが原則です。しかし、現実にはメンバー間にパワーの差があって、より大きなパワーを持つ人間の意見がほかを押しのけてまかり通るという現象が多発します。実際、ビジネスの現場や会社組織でもよく見られる現象です。
その多くは以下の三つのパターンに当てはまります。

  1. ① 役職上位者の意見に合わせる。
  2. ② 有能と見なされているメンバーの意見に合わせる。
  3. ③ 声が大きく、主張を曲げないメンバーの意見に合わせる。

①~③のパターンの意見が客観的に正しいとは限らないことを考えると、この現象は多くの場合、正しい意思決定を妨げることになりがちです。

(4)集団極性化現象

これは、メンバーの態度が、討論前より極端な方向に変容することです。討論を通じ、自分の言い分に賛成の人間が存在することによって、よりリスキーな主張を強め、それが同調圧力を通じて全体の決定となってしまうのです。

1961年、米国のマサチューセッツ工科大学の大学院生であったジェームズ・ストーナー氏は「多くの人間が集まる組織などの集団的意思決定は、極端な方向に振れやすい傾向がある」と報告しました。同氏はこの傾向を「集団極性化」と名づけ、個人で物事を判断する時よりも集団で物事を判断する時のほうがリスクの高い選択をしやすいという「リスキーシフト」という現象も発見したのです。

このリスキーシフトとは逆に、集団で物事を判断する時に、極端に慎重になってしまう現象を「コーシャスシフト」と言います。経営が悪化しているにもかかわらず、ICT導入・活用などの経営改革を実行せず、現状維持を選択してしまうような現象です。このリスキーシフトとコーシャスシフトを合わせたものを「集団極性化現象」と呼び、この現象がインターネット上で起こることを「サイバーカスケード」と呼びます。これは、前述した同調圧力も原因の一つで、力を持った集団からはじかれることをおそれて、皆が同じ意見に流れていってしまう現象です。インターネットは同じ意見や価値観を持つ人間が簡単に短時間で結びつき、拡がっていくという特性があります。インターネット上で特定の事柄について同種の意見を持つ集団ができ上がった場合、異なる意見を排除する傾向になるのです。

(5)過剰忖度

「忖度」とは相手の気持ちを推し量ることを意味し、政治問題としてすっかり有名になった言葉です。これは言い方を変えれば「思いやり」であり、必ずしも悪い意味の言葉ではありません。お互いの立場を思いやりながらの意思決定はメンバー全員が満足する結果を導く場合もあります。しかし、忖度が過剰になると、相手の思いを曲解して、結局誰もが望まない結論を導き出すことにもなるのです。例えば、経営課題を解決するシステムをICTベンダーから提案された際、「この導入コストでは社長が納得しないだろう」と言って、社長に報告する前に却下してしまうケースです。これは典型的な過剰忖度で、このような企業はいつまでも課題を解決できないまま、無駄なコストを浪費し続けていくのです。

認知のタイプ

3.ICTとファシリテーションの融合

ここまで述べたような現象を回避しつつ、正しい意思決定を導くためには、特別なマネジメントを行わなければなりません。そのようなマネジメントを「ファシリテーション※2」と呼びます。特にビジネスの現場におけるファシリテーションとは、会議やプロジェクトを進行するにあたって、参加者全員の発言をうながしたり、出された意見を簡潔にまとめたりしながら、中立的な視点に立って目標達成を目指すスキルを指します。

実は筆者が外資系ICTベンダーに籍をおいていた時、顧客に対する営業プロモーションとして、ハイレベルなファシリテーションサービスを提供し、これが国産ベンダーを凌駕する競争力につながっていました。例えば顧客が30人で6ヶ月かけても全く決まらないプランが、我々の介在によって3日程度で、しかも全員一致でプランが決まるのです。当時はさまざまな文房具などを活用して行っていたのですが、現在ではICTの活用によって、より効率的かつ効果的なファシリテーションが可能です。

また、クラウドコンピューティングとタブレット端末を活用し、ICTとファシリテーションを融合させた「ファシリテーション型」の教育も着実に進行しています。クラウドの最大のメリットは、いつでもどこでも、多くの人たちと情報共有でき、共同作業ができることです。教える側の教師は、生徒一人ひとりがタブレットに今何を書いているのかを同時に知ることができ、生徒たちもほかの生徒が何を考えているのかをリアルタイムで知ることができるのです。これにより授業のスピード上がり、多くの授業で演習やアウトプットの時間を多く確保できるようになっているようです。

このほか、ビジネスシーンにおけるICTとファシリテーションサービスについては、次回のテーマとして詳しく述べさせていただきます。


  1. ※1 パレートの法則:経済活動における全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという、経済学者V.パレート氏が発見した法則。例えば、全顧客の上位20%の顧客が、売上の80%を占める、など。
  2. ※2 ファシリテーション:複数の人が集まって行う議論や活動がスムーズに、かつ効率よく進められるようにサポートすること。
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