ITコーディネータが考える「使えるICT」 Vol.20

【「情報共有」の罠(7)】
認知のタイプと個別の対応

井門 良貴氏井門 良貴氏株式会社ウィルコ代表取締役。第1号ITコーディネータとして制度設立に関わる。東京大学法学部卒業。日本IBM在籍後、独立系コンサルタントとして活動。あらゆる業種の大企業から中小企業の経営改革に関わってきた。

前回まで、情報共有に影響する人間の情報処理過程を、その特徴や制限についていくつかの事例を挙げながら述べてきました。今回は、人によって認知(知覚・判断)に癖やタイプがあることを理解し、複数の人間との情報共有を成立させるために必要なことを解説していきます。

1.認知のタイプ

「情報共有」とは、共有の対象である情報を、関係者全員が取り組んで理解することを意味します。ICT導入・活用における要件定義などでも、実際にモノづくりを行うベンダーとクライアント企業側の関係者全員が、課題や改革案などの情報を共有することが大事です。

しかし、共有の対象である情報に対して、関係者全員が同じように共有できないケースは多々あります。例えば、チーム内で会議を行った後に出席メンバーそれぞれに会議の内容を確認したとします。メンバーによっては大まかな内容は共有できていても、細かな情報が抜け落ちている者がいたり、全く違う解釈をしている者がいたりします。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

それは、人間の認知(知覚・判断)は、人によっていくつかのパターンに分かれるため、同じ情報を同じように認識できないことが大きな要因です。そこで、人間の認知のタイプを「知覚」と「判断」に分けてそれぞれ解説いたします。

❶「知覚」について(SとN)

人間の行う情報のインプットを「知覚」と呼びます。知覚には2種類のタイプがあり、一つは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を通じて外部の刺激を情報として取り込む「感覚(Sense:S)」。もう一つは、今までに記憶された経験のパターンと外界からの刺激をマッチングすることによって情報を解釈する「直観(iNsight:N)」です。

感覚(S)は、外界の事実をそのままの形で受け入れることであり、直観(N)は蓄積された経験により外界からの刺激をパターン認識することによってその意味を瞬時に決定することです。前者は事実をそのままの順に時間をかけて受け入れるやり方であり、後者は「要するに~ということである」という認識を短時間で行うことです。これは、感覚的な左脳タイプと直観的な右脳タイプと言ったほうが分かりやすいかもしれません。

❷「判断」について(TとF)

インプットした情報を基に意思決定することを「判断」と呼びます。この判断プロセスにも二つのタイプがあります。一つは事実と理屈のみに基づいて意思決定をする「理論(Theory:T)」。もう一つは、関係する人々の思いや利害などを計算に入れ「皆がハッピーであるためには」という要素を判断に盛り込む「感情(Feeling:F)」です。前者はビジネスライクなやり方で、後者は人関関係を重視する態度の現れと言えます。

❸認知全体について

S、N、T、Fは、認知を構成する要素としてすべてが使われます。しかし、SとN、TとFのどちらが使いやすいタイプなのかは、人に右利きや左利きがあるのと同じように人それぞれ違います。野球でも右投げ右打ち、右投げ左打ち、左投げ右打ち、左投げ左打ちがあるのと同様に、知覚と判断のタイプの組み合わせは4通りあることになります。

認知のタイプ

2.認知タイプに応じた正しいコミュニケーションのあり方

このように、異なる認知タイプを持つ複数の人間と、正しいコミュニケーションを行い情報共有を実現するには、相手のタイプに応じた意思伝達の方法をとらなければなりません。相手の認知のタイプを理解し、タイプ別に伝え方を変えたほうが情報共有を実現しやすいからです。

❶右脳タイプには結論から伝える

「知覚」に関して言えば、右脳タイプの人は、直観的に物事を捉え、素早く結果を求めようとする傾向があります。このタイプの人の口癖は「要するに」です。「要する」ということは「要約する」ということなので、このタイプの人は長々とした説明を聞くことを好みません。結果を手短に得られることを望むこのような人々に細かい理屈をあれこれと展開するのは得策ではありません。「だから結局どうなんだ」と怒りを買うのが関の山です。したがって、まず結論から伝え、理由を説明していったほうが伝わりやすいわけです。

❷左脳タイプは詳しく説明してから結論に導く

これに対し、左脳タイプの人は、細かい理屈を積み重ねた上で、ゆっくりと結果を出すことを好みます。このタイプの人の口癖は、「~だから〇〇」と言うもので、大量の理屈や理由を検討しないで結論を出してしまうと、拙速であると感じてしまいます。このタイプの人に、「要するに」は通用しません。例えば、ICT導入に関する会議でも、このタイプは、まず課題について詳しい説明をしてから改善案を出し合い、結論(導入するシステム)へと導いていくようなコミュニケーションが適切です。

❸ビジネスライクタイプには結論を強調して簡潔に説明

「判断」に関して言えば、ビジネスライクタイプの人が重視するのは、基本的に結果のみです。結果が出るかどうかのみが判断基準であり「頑張ったのに」などと言うプロセスを重んじる言葉は耳に届きません。人の立場や感情などを判断に盛り込むことは、彼らにとっては正しい判断を妨げる雑音でしかないのです。また、このような人々は相手の話をあまり聞きません。仕事上の資料における若干の遊びも許さず、分かりやすくしようとして、多くの色を使ったり図を多用したりすると機嫌が悪くなります。したがって、このタイプには「導入するシステムは〇〇」という結論を強調し、各課題に対する効果とともに導入理由を簡潔に説明するほうが良いでしょう。

❹感情タイプは理解度や心情を推し量りながら進行

これに対して感情タイプの人が重視するのは、人間同士の関係や信頼関係です。これらの人々は、「連帯感」や頑張ったプロセスを重視します。彼らは、関係する人々の立場や感情を無視した冷徹な結果論は受け入れません。また、相手の話を上手に相づちを打ちながらよく聴いてあげるという特色を持っており、相手からもそうされることを望みます。このタイプは、現状の課題についてじっくりと議論し、各課題解決に相応しいシステムについてそれぞれの意見を求めた後に、導入システムを検討、決定していくような流れで会議を進めます。

このように、知覚や判断のタイプの違いによって異なる対応を配慮しなければ、本音の合意形成、情報共有は絶対に不可能です。ただ、会議では同じタイプの者だけが同席することは稀で、いろんなタイプの人間が同席するケースが多いはずです。決められた時間内で異なるタイプのメンバーと情報共有するためには、適切なICTオフィスツールを効果的に活用することが望まれます。


3.認知タイプの違いを踏まえたICT活用の考慮点

現在、ICTのオフィスツールを使わない会議はほぼ存在しません。多くの企業で ExcelやPowerPointで資料などを作成し、それをプロジェクターでスクリーンに映したり、またそれらの資料をハンズアウトとしてプリントアウトし、情報を共有しながら会議を行います。ところが、左脳タイプの人が喜びそうな文字数の多い細かい資料を右脳タイプの人は好みません。そのような資料を見させられた瞬間、彼らの思考は停止してしまうのです。また、逆に結果だけを簡単にまとめた資料だと左脳タイプの人は納得感を持つことができません。ビジネス資料は相手の時間を取らないように簡潔にまとめるべきであると言われますが、そのような資料では納得できない人たちも確かに存在するのです。

また、多部門にわたる会議において、自らの部門の都合のみを記述した資料をお互いにぶつけ合うといった会議のやり方を続けていると、感情タイプの人々は完全にモチベーションを失います。ExcelやPowerPointの使い方など分かりきっていると考えている人が多いと思いますが、ここまで述べてきたような認知の特性を十分に理解して配慮し、それらのぶつかり合いを排除するような資料作成と会議の実施を考えなければなりません。

最近のICTシステムには、コンセンサスの高速化などを促進する情報共有ツール、いつでもどこでも素早く情報が得られる情報発信ツールなど、情報共有における問題点を少しでも解消できるようなさまざまな機能が備えられています。例えば、データの集約により各自が必要な情報を瞬時に入手できるCRM※1や、企業内に点在する情報を一カ所に集め、その情報を基に企業の状況を正確かつタイムリーに把握するERP※2などは、情報共有することを目的の一つにしているICTシステムです。さまざまなタイプの人間と同じ情報を確実に、正確に共有するためにも、これらのICTツールやシステムについて正しく理解し、有効に活用していくことが大切なのです。


  1. ※1 CRM:Customer Relationship Managementの略で、顧客や市場から取り込んださまざまな情報を多様な目的で分析・利用できるようデータベース化し、企業の経営戦略に活用する手法。
  2. ※2 ERP:Enterprise Resources Planningの略で、企業の経営資源を一元管理することによって業務プロセスの効率化を計ろうとする企業業務改善の概念。具体的には、財務・生産・購買・在庫・受注・物流など基幹業務を総合化するシステムのこと。
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