ITコーディネータが考える「使えるICT」 Vol.13

評価における経営者の役割

井門 良貴氏井門 良貴氏株式会社ウィルコ代表取締役。第1号ITコーディネータとして制度設立に関わる。東京大学法学部卒業。日本IBM在籍後、独立系コンサルタントとして活動。あらゆる業種の大企業から中小企業の経営改革に関わってきた。

前回は、システムの価値を最も左右する運用段階における経営者の重要な役割について述べました。投資を無駄にしないための最低限の条件として、システムの活用度を上げるため、従業員のモチベーションを維持させることが経営者の使命であると申し上げました。
このフェーズがうまくいって、システムが充分に活用される状況が続いたら、次に行わなければならないのが導入「効果」の評価です。これは投資についての最終意思決定権者である経営者が、自身の決断の正しさを確認する重要な行為であり、従業員や株主に対する説明責任の一環でもあります。

1.「投資対効果」の重要性と難しさ

筆者はもともと某大手外資系コンピューターメーカーで大型コンピューター(メインフレーム)の営業を担当していました。1台数十億円という投資を行ってもらうのは、相当な大企業でも容易な決断ではなく、出費の何倍という経営上の効果があることを経営者に納得してもらえなければ、決して商売にはなりません。提案書を書く際には相当のページ数を「投資対効果(V/C:Value per Cost)」に割く必要があり、この部分にいつも悩まされていました。投資対効果を考える際に重要なポイントは、その大きさと確実性です。特に大切なのが、「本当にそれだけの効果が上がるのか」という確実性で、この点について納得してもらえるのかどうか勝負の分かれ目でした。

経営上の効果として経営者に対して説得力を持つ要素は、結局二つしかありません。それは「コスト削減」と「収益の増大」です。前者に関しては、品質の確保や生産性の向上をどれだけ人手をかけないかによって説明をすることができます。これは定量化が容易な上に確実性の高い効果なので、短期的な視点しか持たない経営者には説得力を持ちます。ただ、省力効果というのは両刃の剣で、従業員を大切にする経営者には嫌われる場合もあります。実際、私も提案時に10人近い人員削減効果を訴えたところ、「お前は業者の一営業の分際で、うちの可愛い従業員をクビにしろと言うのか!」と、社長にひどく叱られたことがあります。

これに対して、長期的視点を持つ経営者に訴求しやすいのは、「収益の増大」です。このようなタイプの経営者は、コスト削減には限界があることをよく分かっており、結局金の入りを増やすことでしか会社の継続的成長はないことをよく理解しています。ところが、こちらの効果は、より不確実であり、必ず売上が増えるかというのは証明が困難です。どれだけ顧客接点を増やそうと、営業力を強化しようと、結局はすべてお客さまの内心で決まることだからです。相手がどう動くかについて傾向は予想できても具体的な結果を定量化することは現実上無理なのです。世の中の経営者のうち、定性効果だけで成功イメージを描けるような人はそう多くはありません。「結局なんぼ儲かりまっか?」を求められる以上、定量化の難しい売上増大効果は、経営者を説得しなければならない立場の人間(社内の起案者やベンダーの営業等)にとって永遠の課題なのです。


評価フェーズ

評価フェーズ

2.「投資対効果」のウソ

上記のように、本当に大切な効果はなかなか定量化することが難しく、結局いくつもの前提条件を置いて「それらしく見える」数値を挙げるしかありません。プロのICTベンダーはそのような説得力のある「ウソ」をつくのが得意です。だからこそ、ベンダーに任せっきりのICT導入は危険なのです。自社のさまざまな事情が配慮されていない美しいストーリーにだまされて、無駄な投資をしないためには、一般論で判断することのないように、よほど注意しなければなりません。


3.本当の効果は経営改革の実現

前回まで踏んできたプロセスで、ICTを用いた経営改革のPDCAを回してきました。自社の現状を踏まえた目標を設定し、そのために実現しなければならない課題を抽出して、その実施のための努力を続けてきたわけです。次に行わなければならないのは、それらの努力が実を結んでいるかどうかのチェックです。

それでは、どのようにチェックすれば良いのか。これまでの連載記事を読んでいただいている賢明な読者の方ならお分かりのはずです。プランニングの段階で作成したKPI(重要業績評価指標)の値を実測し、目標値との比較を行えば良いのです。それらのKPI及びその測定値は、自社の現状を充分に踏まえて決定した改革目標を実現するための戦略マップをより詳細化して数値目標化したものです。ベンダーが提案書で展開する一般論とは全く異なり、自社の状況に沿って検討の加えられた自社のみにあてはまる、いわば人間ドックの検査結果に基づく治療目標のようなものなのです。

ここまで考えれば分かるように、本当の「効果」とは、抽象的・一般的な計算の産物ではなく、自社の経営課題がどれだけ実現されているか、ということです。これまでの検討のプロセスではKPIの実現に価値を見出してきたからこそ、それなりの投資の意思決定を行ってきたはずなのです。


4.ベンダーの「投資対効果」という言葉には裏がある?

自社の経営を振り返り、改革のプランニングを経営者自らが積極的に参加して実施せず、「何とかならんか」とばかりに部下に丸投げする主体性のない経営者が、世の中には多くいます。そのくせ、情報システム部門から上がってきた稟議書に対しては「これでは効果が見込めない」と難癖をつけて投資をためらいます。それを避けるために情報システム部門はプロのベンダーに一見説得力のある、しかし自社にとっては余り意味のない「投資対効果」を提案書に盛り込ませ、それを見た経営者が納得して導入を決定します。しかし、ふたを開けてみたら何の役にも立たなかったということになり、その後その経営者は戦略的なICT投資に二の足を踏むことになるのです。

こうした状況に陥らないために、経営者は、部下やベンダーに任せっきりにするのではなく、面倒でも、ここ数回述べてきたような検討プロセスを追うことが必要です。そして経営者はそれを発案したら、その後部下に任せっきりにするのではなく、実現すべき効果の決定や、それが実現されているかどうかのモニタリング・コントロールにも積極的に関与していかなければならないのです。

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