ICTコラム

第38回 中小企業が自社内にウェブサイト運用チームをつくるために

0.ウェブサイト運用を重要視する企業の増加

 この2、3年で「社内でウェブサイトの運用ができるようにしたい」「ウェブサイトの活用法のアドバイスが欲しい」というご相談が増えてきました。

 私のクライアント企業さまは高知県の中小企業が中心です。高知県は65歳以上の人口が全国2位、2005年から2015年の10年間で人口は約68,000人減少しており、ウェブサイトを活用して県外からの受注を増やそうと考える経営者が増えることは必然と考えています。

 また、地方においてもあらゆる業種・業態でインターネットが浸透し、事業におけるウェブサイトの活用を意識するシーンが増えたと感じます。

中小企業のウェブサイト運用ニーズの背景

・スマートフォンの普及とインターネット利用者の拡大(18-59歳は9割、60-70歳でも7割)
・SNSの一般化(20代は98%、40代は7割以上、50代も6割以上利用)
・安価で高機能なウェブサービスの登場
・日常的にインターネットを使う40代経営者への世代交代

 皆さんの会社でも、ウェブサイトのリニューアルを複数回経験する中で「つくるだけでは成果は出ない」「成果を上げるには運用に力を入れるべき」といった話が議題になることも多いのではないでしょうか。

 今回は、最近お手伝いすることが増えてきた、ウェブサイト運用におけるポイントを事例を挙げてご紹介します。

1.ウェブサイト運用における主な課題

 多くの企業がウェブサイト運用に力を入れようと考えていますが、実際に取り組もうとした際に壁にぶつかることも少なくないようです。

●ウェブサイト運用に関する悩みの8割は人材・体制

 ウェブサイト運用に取り組む際、多くの企業が「人」の課題に苦労されている印象があります。実際によくご相談いただくお悩みを挙げてみます。

よくご相談いただく課題<経営者・事業責任者>

・やることが多く、何から手をつけたら良いかわからない
・経営陣の知識が不足している
・ウェブ担当者が行っている仕事内容がわからない
・ウェブ担当者が退職してしまい運用が止まってしまった
・外部のウェブ制作会社との連携がうまくいかない

よくご相談いただく課題<企業のウェブ担当者>

・ほかの業務(営業や総務など)との兼任のため時間が取れない
・自分一人に仕事が集中している
・ウェブの仕事内容を相談できる相手が社内にいない
・新たな知識やスキルを得るための学習時間が取れない
・外部のウェブ制作会社や広告代理店からの提案の良否が判断できない

 企業によって具体的な課題認識はさまざまですが、「知識・スキルの不足」「決済者と担当者のコミュニケーション」「外部パートナーとのコミュニケーション」など運用体制に関わる課題が多くを占めています。
 使える予算や人的資源が限られている中で、どのように機能する運用体制をつくれば良いでしょうか。

●社内と社外の混合チームでつくるウェブサイト運用体制

 中小企業においては、ウェブの知識を擁する専門スタッフを設置することが難しいケースが多々見受けられます。ウェブの世界は変化が早いため、情報収集や学習の機会が少なくスキルアップに悩むウェブ担当者の方がほとんどではないでしょうか。
 そこで、おすすめしたいのは社内の事業責任者・ウェブ担当者と、社外の専門家との混成チームによるウェブサイト運用体制をつくる方法です。
 最初は足りない知識・スキルを外部から調達して体制を整え、施策を実行しながら社内にノウハウを蓄積していき、段階的に社内で行える領域を拡張していくのです。

2.機能するウェブサイト運用チームをつくる5ステップ

 具体的に、どのように運用体制を整えていけば良いのか、経験上スムーズにいく流れを説明します。

Step1 自社のビジネスにおけるウェブサイトの位置付けを明確にする

 御社のウェブサイトは、そもそも何を目的として、どんな役割を期待されて設置されたのでしょうか。あるいは、明確な目的なく、会社の看板として設置されたのでしょうか。まず、この点を明確にする必要があります。目的や役割によって、必要なコンテンツや運用体制は変わってくるからです。

Step2 ウェブサイトをビジネスに寄与させるために必要な要件を明確にする

 次に、目的達成につながる役割を果たすためにウェブサイトはどのような機能を果たせばよいでしょうか。そのために、必要な体制や担当者のスキルセットにはどのようなものがあるでしょうか。よく見受けられるのは、制作会社に提案された理想的な運用計画を立てても、その計画を実行するためのスキルや体制を整えられずに絵に描いた餅になってしまうケースです。施策は実行しなければ、成果は得られません。実行可能性を考慮した施策を検討しましょう。

Step3 社内外のメンバーによる混成チームをつくる

 前段で、ウェブの専門スタッフを社員として雇うことが難しいことが多いと書きましたが、足りない領域は外部の専門家を使って補完することも選択肢として検討します。最近は、複数の専門家やパートナー会社を使い分けるクライアント企業や、そのチーム組成をお手伝いすることも多々あります。必要に応じ、ウェブサイトを作った制作会社以外のパートナー※を検討することも大切です。

※外部パートナーを選ぶ際の視点

「ウェブ制作会社」と名乗っていても、会社の得意領域やスタンスは千差万別。大きく分類すると、以下のような会社があり、「ウェブの専門家」とひとくちで括れない要素があります。
・デザイン事務所から派生した会社 →ビジュアルをつくるのが得意
・システム開発から派生した会社 →システム設計・機能開発が得意
・受託中心のコーディング会社 →制作スピードが速い会社が多い
・戦略・企画中心のプランニング会社 →企画は得意だが、制作は外注していることも
・広告中心のデジタルエージェンシー →ネット広告は得意だが、制作は外注していることも
・ECに特化した運営支援会社 →ECに詳しいが、ブランディングサイトの経験は少ないことも

※失敗しない社内の運用体制

 成功する運用体制は、各社の事情に応じて異なると考えていますが、失敗する確率が極めて高い体制があります。それは、ウェブ担当者の社員一人にすべてを任せてしまい、事業責任者あるいは経営陣が関わらない体制です。
 必ず、ウェブサイトの役割から考えて最もふさわしいと思われる事業責任者を配置し、責任者とウェブ担当者の二人一組(責任者=ウェブ担当者のケースもあり)のチームを作ってください。
 事業責任者とウェブ担当者の知識レベルに差がある場合、戦略と施策のギャップが生じ、ウェブ担当者の方が孤立してしまうことがあります。こうなると、施策の中身や成果が見えづらくなるばかりでなく、最悪の場合、ウェブ担当者が退職してしまい、更にその結果、それまでのノウハウが社内に残らないといった問題に発展してしまうことがあります。外部専門家とのコミュニケーションも、この二人一組のチームで行うことで、専門家が知識のギャップを埋める役割を担ってくれるケースもあるでしょう。

Step4 施策実行と施策分析の仕組みをつくる

 ウェブサイトの運用は、日々の業務と絡み合いながら常に変化していくものです。機会損失を起こさないために、必要なタイミングで実行可能な施策を打ち続けることが何より重要です。その一方で、実行した施策が成果を上げているのかどうか、成果を上げてないとすれば改善し、成果を上げていれば再現性を検討するなど、施策を分析する必要があります。ウェブ上のユーザーの行動は、目で確認できない代わりにデータを取得できるケースがほとんどです。施策の実行結果を数値データで検証する仕組みを、実行体制とともにつくりましょう。

Step5 定期的にチームの役割・体制を見直す

 社内で調達できない専門知識は、外部パートナーを通じて調達する必要がありますが、その体制を固定することはナンセンスだと考えています。例えば、未経験でウェブ担当を任せられた社員の方が、1年後充分に業務を回せるようになれば、体制を見直し、社内でできることは内製化していくことで、より専門性が高い部分のみ外注すればよくなります。定期的にパートナーとの関係を見直せるような契約を結んでおくことをおすすめします。

3.事例で学ぶウェブサイト運用体制

 私が実際に関わったウェブサイトの運用体制の事例を記載します。御社の課題にあった体制をつくる参考にしていただけると幸いです。

例1)ウェブサイトリニューアルにあたって社内にデザイナーとコーダーでは、最新の知識・スキルに不安がある

→ページレイアウトの設計と基本デザイン・コーディングのみを外注
→社内のデザイナー・コーダーの制作をサポートしてもらう
→数ページの経験を積んで、外部のサポートなしで制作できる状態に

例2)ウェブ制作会社との関係を変えながら運用を内製化した宿泊施設

→初年度~3年間:制作~運営すべてを外注
→3年目~4年目:中途社員をウェブ担当者として雇い、サイト運営を内製化
→4年目~:データ分析と改善提案のみを外部パートナーに委託

例3)制作パートナーと、データ分析・導線設計のパートナーを使い分けるECサイト

→運営スタッフは社内におり、写真撮影、商品ページ作成は内製化
→コンテンツページなどデザイン要素が多いページを外部の制作会社に依頼
→改善のサイクルを回すために、分析と設計を外注するパートナーを別に設置

例4)クラウドワーカーのデザイナーをチームとして迎えるために、外部のウェブディレクターを活用

→ワーカー活用経験のあるディレクターとワーカーの募集・選定の準備から一緒に対応
→ワーカーへの制作依頼についても、スムーズに回るまでディレクションを依頼

 これらはすべて、私自身が実際にクライアント企業さまと一緒に、頭を悩ませながらよりよい運営チームを作るために行ってきた事例です。お気付きの通り、1つとして同じ体制や進め方はありません。
 なぜかといえば、会社の事業内容のみならず、組織風土、経営陣のITリテラシー、ウェブ担当者の有無やスキルレベル、パートナーとなる外部業者の役割やスタンスによって、適切なチーム編成やチームづくりのステップが異なるからです。

 しかし、だからといって難しくて手がつけられないということではありません。
 企業のウェブサイトである以上、そのサイトは何らかビジネスに寄与するという役割を持っているはずです。その目的からスタートし、ワクワクする将来像に向かって、現状を受け止め、ギャップを埋める行動を起こす。そのための体制を如何につくればよいのか?
 すべての企業経営者の方が、日々実践されている経営をウェブサイト運用においても社外にも視野を広げて考えてみていただけば、自ずと必要な体制が見えてくると思います。

4.まとめ

 ウェブの世界は変化が激しいですが、「今、何が流行っているのか?」という一過性のトレンドに右往左往せず、「我社のビジネスを発展させるために、ウェブをどう活用するのか?」「そのために不足している情報や人員は何か?」「どんなチームを作ればよいのか?」そこからスタートすることが早道ではないでしょうか。最初から、完全な状態を目指さずに、外部パートナーと連携してチームを作り、徐々にノウハウを社内に取り込んでいくイメージで、成果の上がるウェブサイト運用体制を構築してください。

坂上 北斗氏

高知在住ウェブプランナー/WACA上級ウェブ解析士。

中小・ベンチャー支援会社で、複数の新規事業を担当後、ウェブの世界へ。BtoB、BtoCの企画・営業・販促の経験を活かし、中小企業のウェブ活用の支援を行っている。
株式会社メディア・エーシーにて、ウェブ制作のディレクション・広告運用・コンサルティングを担当する他、ウェブクリエイターズ高知 代表として、ウェブに関する勉強会の企画・登壇も行っている。

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