ICTコラム

第33回 ウェブ解析で探る観光客数と観光動態

ウェブ解析を活用して、サイト内のユーザー行動と観光客のリアルな行動を把握する方法をご紹介します。

「パッチワークの丘」と呼ばれる奇跡の絶景が訪れるものを魅了する

 本題に入る前にまず、私が住む美瑛町の観光事情から説明します。美瑛町の魅力は、「十勝岳の雄大な自然と人の営みが織り成す美しい丘の農業景観」です。

 独特な丘陵地に点在する畑で生産される農作物やその花によって生み出される彩が、大地にパッチワーク模様を描きます。

 一方、美瑛町で最も人気の高い観光スポットのひとつになった「青い池」。丘の農業景観とは全く異なる魅力を持っています。この青い池の写真が、2012年発売のApple社のMacBook Proの壁紙に採用され話題となったことは、ご存知の方も多いことでしょう。

 当時、この話題がネットメディアで取り上げられ、青い池を訪れる観光客数が急激に増加していきました。それによって、駐車場には車があふれ、幹線道路が渋滞、通過型観光(美瑛町で宿泊をしない)の加速など、さまざまな問題が顕在化してきました。

ウェブ解析を活用して現状を把握

 こうした状況を改善するために、まず現状把握をすることにしました。そこで活用したのが、美瑛町の観光情報を発信する観光協会ウェブサイト(以下、協会サイト)のウェブ解析データです。

 旅行前に観光地の情報を収集することが一般的なことから、サイトのユーザー数、属性に注目しました。

<ユーザー数>
 青い池がネット上で話題になって以来、青い池の情報を掲載していた協会サイトのユーザー数は、2.6倍に増加しました。

▲協会サイトのユーザー数(クリックで拡大)

<ユーザー属性>
 青い池がブームになる前(2014年)と後(2016年)でユーザーの年齢構成を比較すると、若年層が増加しているのに対し、中高年層は減少していることがわかります。

 このようにウェブ解析データからも、ブームとなる2014年を境にユーザー行動の違いが見て取れます。

 丘の農業景観に癒しをもとめて訪れていた中高年層は、青い池ブームで観光客が激増し、ゆったりとした時間を過ごすことができなくなった美瑛町の実情に幻滅し、離れていったことがこれらのデータから推察できます。

ウェブ解析から観光客数を推計

 こうした現状分析の他に、ウェブ解析データから実際の観光客数を推計するという取り組みを行ってきました。

 また、定期的に実施する観光客へのアンケート調査や観光スポットに設置したカウンターの情報も活用しながら、推計値の信頼性を高める工夫も行ってきました。

 ここでは、美瑛町で現在もっとも観光客が集まる青い池で、一定期間観光客数を調べた結果に基づき、協会サイトのウェブ解析データから観光客数を推計した一例を紹介します。

<協会サイトのモバイルユーザー数から観光客数を推計>
 観光客数を推計するにあたって注目したのは、協会サイトの人気ページトップ10です。

 ページ別訪問数の1位は、青い池ページであることがわかります。

 次に、デバイス別に見ると、青い池ページへのアクセスは、モバイルが7割以上を占めていることがわかります。

 分析の結果、青い池ページのモバイルユーザー数とカウント値(青い池の観光客数)を比較すると、一定の相関が見られることがわかりました。

 このことから、青い池の観光客数は、青い池ページのモバイルユーザー数から推計ができることがわかりました。

▲青い池の観光客数=青い池のモバイルユーザー×相関係数A

 同様に、この結果を美瑛町の観光客数の推計に当てはめると、協会サイトのモバイルユーザー数に青い池の推計で得られた相関係数を乗算することで求めることができました。

 なお、この推計値については、以前実施した交通量調査から推計した値とほぼ一致していることから、信頼性の高い結果であると考えています。

観光客の行動分析のため、観光スポット200か所にQRコードを設置

 観光スポットや宿泊施設など、主に観光客が利用するポイント200か所にユニークなパラメータを付加したQRコードを設置し、そのQRコードからランディングページへの動線を解析して、観光客の行動を分析しました。

 ここでは、青い池を例に分析結果を紹介します。

 もっとも多くQRコードが読まれている観光スポットは、青い池であることがわかります。

 次に、協会サイトの青い池ページにアクセスするユーザー数の時間別分布を見ると、12時がピークで11時から16時の時間帯に比較的多く青い池ページが見られていることがわかります。

 一方、青い池でQRコードを読んだ時間分布は、上記のデータと違いがあることがわかります。これは、青い池ページにアクセスした時間と青い池に訪れた時間に差があることを意味しています。

 その違いを詳細に見ていくと、午前中は両者にほとんど差は見られませんが、12時以降は、サイトユーザーのデータを時間軸方向に2時間左にシフトすると、ちょうど傾向が一致します。これは、午後に青い池に訪れる観光客は、その2時間前に青い池ページにアクセスして、青い池のことを調べてから行っているのだと推察できます。

 このように、ウェブ解析はサイト内の行動だけではなく、工夫次第では、観光客の行動も把握することができる便利なツールと言えるでしょう。

 さらに、得られたデータを活用して、例えば、青い池の駐車場の混雑予測などをウェブサイトに掲載し、幹線道路の渋滞緩和を促すといった具体的な施策につなげることができます。

 このアプローチがすべての観光地で通用するとは限りませんが、ウェブ解析を活用した取り組みを試してみてはいかがでしょう。

MacBook Proは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。

小林 孝司氏

(一財)丘のまちびえい活性化協会Webディレクター。WACA認定上級ウェブ解析士。

ウェブ解析を活用した独自のアプローチで地域活性化の取り組みを展開。地域ブランディング、インバウンド事業などの取り組みにおいて、いち早くウェブ解析を取り入れ、デジタルマーケティングで実績を上げる。

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