コミュニケーション力を鍛える ~アナウンサーのノウハウから~

第66回「話し好きなお客さまと話す」

「話し好きなお客さまからの長電話を、失礼のないように終わらせるにはどうすればよいですか」という質問をいただきました。どなたも経験のあることでしょうが、これはかなりの難問です。「AIに任せればいいんじゃない」とドライに言う人もいましたが、それでは当面の問題解決にはなりません。ぜひご一緒に考えてください。

同じ悩みがアナウンサーにもあった

この質問をいただいてまず思い浮かんだのは、アナウンサー時代の苦い記憶です。インタビューや討論番組の司会を担当した時、話の長いお客さまの発言をコントロールできずに、偏ったまとまりのない放送で終わってしまった辛い後悔がありました。特に、時間が決められた生放送では、その傷は後々まで残りました。切れ目なく続く長話を、失礼のないようにセーブしながら、口数の少ない方にもきちんと話していただくのが、司会者の大事な役目なのです。

私自身は決してインタビューの上手いアナウンサーではありませんでした。でも、担当する際に心がけていた基本が三つあります。それは、①担当ディレクターがなぜその人に声をかけたのか。②番組のテーマについて、その人はどのような立場で、どのような考えをお持ちか。③一番おっしゃりたいことは何か。これらはいずれも当たり前のことですが、この三点を押さえておけば、狙いと大きく外れた司会やインタビューになることはありませんでした。それでも話の展開次第では長引き、物足りない終わり方になることがよくありました。そのような時には、「司会進行が悪く申し訳ございません。時間ですので終わらせていただきます」「まだまだうかがいたいのですが時間が来てしまいました。残念ですがこの辺でまとめさせていただきます。ありがとうございます」「今日は素晴らしいお話を聞かせていただきました。勉強になりました。ありがとうございます」などと、心を残しつつ、感謝の言葉で終わるようにしてきました。

双方とも、情報のない同士の電話応対

さて、話を長電話に戻します。似たような要素があったにしても、放送でのノウハウが即電話に使えるわけではありません。一口に長電話と言ってもそのケースはさまざまです。とても良い話でも話が長くなる人。厄介な用件があってかけてくる人。理解力が乏しくて話が長くなる人。くどくしつこく訊いてくる人。苦情の対応に納得がいかない人。特に用件はないのに淋しくてかけてくる人。根っからの話し好きな人。愚痴を聞いてほしい人。自慢話がしたい人など、さまざまです。それによって応対は違ってきます。それだけに、今回のテーマは難しいのです。

また、放送と違って電話の場合には、お客さまの予測が全くつきません。どんな人物なのか、用件は何か、どんな事情があるのか分かりません。一方、お客さまのほうにも、応対者の情報は何もありません。人物像はもちろんのこと、今忙しいのか、電話が込み合っているのか、体調はどうか、出かける間際ではないか。つまり、何も分からない同士が、自分の都合だけで会話をしているわけですから、行き違いやトラブルが起こるのは当然とも言えるのです。

お客さま情報を取材する

電話応対は、放送と違って情報がない同士の会話だと申しましたが、だからこそ会話を通じて情報を取材する気持ちが何よりも大事だと思います。

①この方はどういう人か。
②何を知りたくてかけてこられたのか。
③何を話したいのか。

会話を通じて、この三点をしっかり取材するのです。そのことが押さえられていれば、話が横道にそれたり、雑談の無駄話になり始めた時には、本筋の話に引き戻せます。最後はお客さまの知りたかったことをもう一度確認して終わることができるでしょう。

苦情電話は別として、長電話になる大方のお客さまは、あなたとの会話が楽しいのです。心地良いのです。それは、あなたがしっかり受け止めて聴いて差し上げているからです。とは言っても、「呼」が溜まったり、業務が錯綜してイライラすることもあるでしょう。ここで気をつけなければいけないことは、その焦り、イライラを決して声に出さないこと。そういう状況であればあるほど、お客さまには、電話が込み合っている状況を淡々と伝えます。その上で「まことに申し訳ございません」と詫びて終話します。

岡部 達昭氏

岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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