電話応対でCS向上コラム

第63回「心に届く『敬意表現』」を

 「敬語はどうも苦手でして」という悩みをよく聞きます。若年層だけでなく、30代40代の中堅層にも意外に多いのです。それは勉強していただくしかないのですが、気になるのは、「敬語」よりも「敬意表現力」の低下です。「敬語」は分類上、広い概念としての「敬意表現」の中に含まれますが、その「敬意表現」には敬語以外の表現もあるのです。今回は「敬意表現」について考えてみましょう。

敬意表現とは何か

 「敬意表現」という言葉は、2000年(平成12年)12月の第22期国語審議会の答申の中に定義づけられています。そこには、「相手や場面に配慮して使い分けている言葉づかい」と書かれています。この定義は、尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ、丁寧語、美化語などの敬語にもすべて当てはまります。しかし、「相手や場面に配慮して使い分けている言葉づかい」と言えば、それは「敬語」だけではありません。例でご説明いたします。

 あなたは今、締め切り間近の仕事に集中しています。その時、上司から次のような仕事を頼まれました。「S君、この書類を至急総務課長に届けてくれないか」命ぜられたあなたは、この忙しい時に、と不満に思うでしょう。では、上司がこういう言い方で頼んだらどうでしょうか。「S君、忙しい時に悪いんだけど、この書類を至急総務課長に届けてくれないか」この依頼には全く敬語は使われていません。しかし、あなたはそれほどの抵抗感もなく、書類を届けに行くでしょう。それは「忙しい時に悪いんだけど」という一言が添えられていたからです。これが敬意表現なのです。相手に何かを依頼したり、文句を言ったり、負担をかけることをした時などに、一言「敬意表現」を添えるのですが、この言葉を使える人が最近少なくなりました。合理性を重んじるIT社会では、敬意表現などは余計なことと言い切る人もいます。果たしてそうでしょうか。IT社会だからこそ、心が通じ合う一言が必要だと思います。

「敬意表現」に慣れよう

 今、接客や営業、電話応対の現場では、基礎教育としての「敬語」の指導は必修でしょう。しかしビジネス会話では、「敬意表現」の方が大事なのです。もともと敬語は知識として覚えるものではなく、暮らしやビジネスの中で、自然に身についてくるものでした。それが最近は、耳から入る敬語がめっきり減りました。敬語が身につかぬまま社会人となって慌てることになるのです。職場の上司や先輩に使う言葉も、学生時代のタメ口から抜け出せない新人がかなりいます。一番問題なのはお客さまとの会話です。そこには知識として覚えたいくつかのマニュアル敬語しか使えない人がいるのです。「敬語」はあくまで決められた言葉です。完璧な敬語で話しても、敬意が伝わるとは限りません。一方の「敬意」は心の表現です。相手を大事に思う意識がないと敬意は伝わりません。

 そこで、敬意表現を使った文例を具体的に見てみましょう。

「朝早くてすまないけれど、明日7時に出てもらえないかな」

「量が多くて申し訳ないけど、この名簿、今日中に地区別に整理しておいてよ」

「忙しいところを悪いけど、これ20部コピーして綴じといてくれる」

「突然のお願いで申し訳ないんだけど、来月1日から部屋を代わってくれないか」

「君にばかり頼んで悪いけど、秋の創業30周年イベントの責任者を頼むよ」

「急がしてすまないけれど、例の件の起案文書、明日までに頼むね」

 以上の6例は、いずれも言わなくても済む敬意表現です。でも、その一言で、頼まれた方は快く動いてくれるでしょう。

言葉には鮮度が大事

 クッション言葉と敬意表現は似た形態をとっています。そのクッション言葉という呼称はすっかり定着しています。定着するにつれてマニュアル化してきました。相手や場に配慮して使ってはいないのです。単なるクッションでしかないのです。そこが敬意表現との違いです。俳優の仲代達也さんが「言葉には鮮度が大事だ」と言っています。同じ言葉を繰り返し使っていると、たちまち心を失います。敬意表現はコミュニケーションを円滑にしてくれます。敬意をこめた鮮度のある表現を大事にして下さい。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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