電話応対でCS向上コラム

第46回「クッション言葉は気づかい言葉」

クッションという言葉は、大方の辞書には、「堅いものが直接ふれあって互いを傷つけることのないように、間に弾力のあるものを置いてショックを和らげるもの」といった説明が載っています。それを言葉の世界にまで持ち込んで、「クッション言葉」と名付け、広く一般化するようになったのは、命名者の大きな功績でしょう。クッション言葉は、その後ビジネス電話応対における接客用語の基本として定着し成熟しました。ところが近頃、クッション言葉の運用に陰りが出てきました。今回はこのクッション言葉について考えます。

マニュアル化したクッション言葉

最近、クッション言葉の使われ方に疑問を感じることがよくあります。理由は三つです。

  • 使用頻度が高くなるにつれ、使い慣れし過ぎた言葉に気持ちが込もっていない。

  • マニュアル化したクッション言葉をひんぱんに添えるために、煩わしく感じる。

  • 簡潔性を求めるメールでの情報伝達と、丁寧さを重視する電話のクッション言葉との間にギャップを感じる。

もともと「クッション言葉」は、その命名や普及の段階から、言葉の意味はほとんど重視されなかったと思います。厳しい言葉から受けるショックを和らげる、単なる緩衝語と捉えられていたのでしょう。そのため、クッション言葉はいとも簡単にマニュアル化されました。毎日の朝礼で、使用頻度の高いクッション言葉を、全員で唱和する企業やコールセンターがかなりあると聞きます。もちろん、その努力を全否定するつもりはありません。マニュアル言葉のほうが良い場合もあります。しかし、クッション言葉は単なる緩衝のための言葉ではない。会話の中で、相手の気持ちを思いやる大切な「気づかいの言葉」だと私は考えています。

クッション言葉の役割を軽くした理由がもう一つあります。私たちは、同じ言葉を繰り返し使っていると、その言葉はやがて節(ふし)になります。そして、思いやる気持ちを伝えることができなくなります。クッション言葉には、明らかにその傾向が見られたのです。

弾力を失ったクッション言葉

先日、旅行鞄の口金の調子が悪かったので、購入した店に電話をしました。翌々日から出張の予定でした。「口金の部分が壊れてしまって閉まらないのです。今から持って行きますので、すぐ直してくれませんか」「恐れ入ります。うちでは修理はお受けしておりません。メーカーに出しますので、すぐにはお直しできかねます」「明後日から使うので何とかなりませんか」「恐れ入りますが、それは無理です。早くても3日はお預かりすることになります」テキパキとして筋の通った応対でした。しかし、修理が間に合わないことはやむを得ないにしても、私の気持ちは釈然としませんでした。応対した男性店員が使う「恐れ入ります」という慇懃(いんぎん)なクッション言葉にひっかかったのです。マニュアルで学んだこの言葉を、彼は枕詞のように何度も使います。しかし、全く「恐れ入って」はいないのです。出張前に、鞄が壊れて困っている私の気持ちに立ったなら、「恐れ入ります」ではなく「申し訳ございません」という言葉になったはずです。おそらくは、社会人になるまでは一度も使ったことがなかったであろう「恐れ入ります」というクッション言葉を、この会社に入って覚えた彼は、条件反射のように使っているのだと思います。

クッションは自分の言葉で作る

「明後日からご出張ですか。それはお困りですよね。お役に立てなくて本当に申し訳ございません」素直に気持ちを表したこんな言葉が返ってくれば、きっと私も納得したでしょう。クッション言葉とは、相手を気づかい、相手の立場に立った時に、自然に出る「自分の言葉」であってほしいと思います。

辞書には、クッションとは、「椅子に敷いて座る弾力のある柔らかい座布団のこと」という説明もあります。「お忙しいところを」「生憎ですが」「失礼ですが」「お差し支えなければ」などの代表的なクッション言葉も、マニュアル言葉として覚えてそのまま使っていたのでは、「弾力を失ったせんべい座布団」でしかなくなるでしょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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