電話応対でCS向上コラム

第38回「自然に話すということ」

最近、「自然な話し方ってどのように教えればよいのですか?」という質問を受けることがよくあります。数年前まではなかった質問です。自然に話すことへの関心が高まっているのでしょう。今回はこの「自然に話すということ」について考えます。

「いい声を出すな!普通に読め!」

アナウンサーとしてはそろそろ中堅に入った頃でした。ニュースを読み終えてスタジオから出てきた私に、厳しいことで知られた先輩アナのひとりが声を掛けてきました。「いい声出すなよ!もっと普通に読めないのか!」。決して美声ではない私でしたが、アナウンサーの習性でしょうか、原稿を前にしてさあ読もうとすると構えてしまいます。そして、不自然に声を響かせて、普段話す時とは全く違う声を出していたのです。そのとき私の意識は声に向いており、肝心の内容を忘れています。私たちの声は、普通に話をするときの声が一番自然で聴きやすいのです。抑揚も間も強弱も緩急も、巧まずして最も自然で分かり易く話しているのです。意味内容も、普通の声で話すときが一番伝わります。

「米倉!普通にやれ!」

劇団民芸の俳優だった米倉 斉加年さんが、俳優を志して九州から出てきた頃のことです。研究生としての修業をおえて、待ち望んだ初舞台を踏みました。成功裡に幕が下りて、米倉さんは興奮の余韻に浸りながら、薄暗くなった舞台の袖に立っていました。すると、劇団の大御所であった宇野 重吉さんが、通りすがりのようにスーッと寄って来ました。そしてひと言、「米倉、フツーにやれ!」。それだけ言って、宇野さんは遠ざかりました。「フツーにやれ!」、師匠のそのひと言が、米倉さんのその後の演劇人生に、重い重い課題となって、生涯薄れることもなかったそうです。「芝居する」と「普通にやる」、この二つは、対極にあるようでいて実は深いところで密接に結びついているのです。「芝居」とは「普通」を演じること。そして、「普通」がしっかりしていなければ、よい芝居はできないのです。

普通に話せる電話応対を

電話応対もまた「普通に話す」ことが大事だと、つくづく思います。マニュアルに精通したベテランの応対には、慣れからくる冷たさを感じることがよくあります。意味内容と誠実な人柄まで伝えるのは、高度なテクニックやスキルよりも、普通に話せる自然さです。

もしもし検定の実技問題や練り上げられたコンクールの応対にも、残念ながらまだまだ自然さには程遠い応対がたくさん聞かれます。そこには、自然な話しことばではなく、まずスクリプトを書いて、それを音声化するという習慣が根強く残っているのでしょう。

では「自然に話す」とはどのような話し方でしょうか?それはスキルではありません。伝えようと思う気持ちが言葉になったものです。上手に話そうではなく、大事なのはこのことを伝えようと思う真っ直ぐな気持ちです。それを普通に話すのです。

どうすれば自然に話せるか

まず、スクリプトを書いた話し方と、自分の言葉で話す話し方がどう違うかを知ることです。前者は、文章が整然としてきれいに聞こえるでしょうが、心地よさだけで聞き流されてしまいます。1音1音の音節をはっきり発音し過ぎるため、すべての音節が強調されて肝心のポイントが伝わりにくい。漢語が多くなり印象が硬くなる。相づちが少なく一方的。相手の話をしっかり聴いていないため、間や呼吸が不足。センテンスが長くなる。倒置法やくり返しがほとんどない。トチリ、絶句、無駄なことばはほとんどなく、冗長率は低い。高低、緩急、強弱などの変化に乏しく、全体に平板で冷たく聞こえる、などが上げられます。後者の方は、荒削りではありますが、聞き手と息が合い、その自然さの中に、双方話し易さを感じるはずです。

「自然な話し方」を身につけるには、まずトレーニングをくり返し、録音をとり、文字に起こし、この両者の違いを認識し、実感します。この自己認識こそ大事です。そこを押さえれば、「普段の話し方」が「自然な話し方」を高める基礎になるでしょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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