電話応対でCS向上コラム

第30回 「応対コンクールとコミュニケーション能力」~27年度の電話応対コンクールに思う~

第54回電話応対コンクール全国大会が昨11月27日に終わりました。問題発表から半年間、がんばってこられた選手、指導者の皆様は本当に大変でしたでしょう。私はコンクールには直接の関わりはありませんが、電話応対技能検定(もしもし検定)への関わりの中でコンクールにも深い関心を持っております。たまたま本誌にコミュニケーションをテーマに連載を執筆中でもあり、今回はその視点からコンクールについて感じたことを申し述べます。

何を聴きとり何を訊き出すのか

地区大会を含めて、選手や指導者の皆さんから「今年のコンクール問題は難しい」という声を多く聞きました。「聴きとる力を磨き、訊き出す力を鍛える」というテーマは新鮮ではありますがポイントがつかめない、と言うのです。そうでしょうか。わたしは極めて単純明快だと思います。「良い電話応対とは何か」という電話応対の原点に立ち返って考えてみてください。それは「お客様が求めていることは何かを素早く判断して、それに的確に感じ良く応えること」だと私は思っています。

では、今年度の問題で、電話をかけてきた上野さんが求めてきたことは何でしょうか。「さっき物産館で買ったばかりの商品を入れた袋を忘れてきたので確認して欲しい」と言う冒頭の言葉でした。それに応えるためには「聴きとり訊き出す力」が必要になります。「袋はどんな袋」「置き忘れた場所の心当たりは」「買った商品のほかに上野さんの袋とすぐ分かる物が入っているか」「見つかったときの連絡先(名前、携帯番号)」。これだけ訊き出せれば、電話を受けた山本社員は、すぐに忘れ物を確認する行動に移れるでしょう。

上野さんの心理状態は

どこかで忘れ物をして慌てた経験がある人は直ぐに分かると思いますが、誰かに持ち逃げされては大変だと焦ります。そのとき、応対してくれた人がその気持ちに共感してすぐに探す行動に移ってくれたら、どれほどホッとするでしょう。お客様の気持ちに寄り添うとはそういうことだと思います。今回、何か所かの地区大会、都府県大会も含めて聞かせて頂いて、随所に心くばりのある温かい応対がありました。しかし不思議なことに、その焦る気持ちに配慮した応対はほとんど聞かれませんでした。

上野さんの気持ちに添えずに、しかも忘れ物がまだ見つかってもいないのに、買った商品、その保管方法や受け渡し方、5時までに取りに来られないときにどうするか、電話は6時まで、などこまごまと訊き出し説明する応対には、やはり疑問が残りました。

留守電に何を入れるか

留守電はごく簡潔に「忘れ物が見つかったこと。物産館の受付で預かっていること。受け付けは5時で閉まること。念のため私山本か石田里絵に電話をください」。これだけで十分でしょう。受け渡し方法などの打ち合わせは、留守電を聞いた上野さんが、ホッとして電話をくださったそのときに、ゆっくりすればよいことです。

情報量の多いコンクール問題などでは、あれもこれも伝えなければいけないという思いが先に立つのだと思います。情報は沢山あっても、それを整理して如何に簡潔に伝えるかの判断が大事です。

電話応対技能検定では、電話応対を評価するのに主か従かという括りで考えることを強調しています。「主」とは判断力、聴きとり訊き出す力、業務知識、説明力など。「従」とは、発声発音、ことば遣い、話し癖などです。これまでは、どちらかと言うと、この「従」の話し方指導が中心でした。勿論それも大事です。しかしこれからの電話応対の指導では、「主」の判断力、評価力が一層問われることになるでしょう。今年度の電話応対コンクールも、まさにその力を試された問題だったと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら